2026年1月に香港へ上場した中国の生成AI企業2社は、その後の新株発行と転換社債で手取り計約865億香港ドルを調達した。上場時の8.5倍だ。研究開発費を売上高で割った倍率は、両社とも1年で2倍台まで下がった。
中国の生成AI企業を評価する基準は、集めた資金の多さから、少ない計算量で成果を出す効率に移ったのか。2025年1月に中国のディープシークが推論モデル「R1」を無償で公開してから、この問いが繰り返されてきた。上場した2社の開示で確かめられる。智譜と、上海稀宇科技を中核とするミニマックスは、香港取引所に目論見書を提出し、上場後は決算を2回、資金調達を数回開示している。数字を並べると、効率は確かに良くなった。それでも資金調達の競争は終わっておらず、上場後にむしろ激しくなった。
申込倍率1,000倍超は、香港の個人投資家向けの小さな枠に申込が集中した結果だった
智譜 (銘柄コード2513) は2026年1月8日、ミニマックス (同0100) は翌9日に香港取引所のメインボードに上場した。
申込倍率が極端に高かったのは、香港の個人投資家向けの公募である。会社の配分結果の発表によると、個人向けの申込倍率は智譜が約1,159倍、ミニマックスが約1,837倍だった。有効な申込件数は智譜が約20万5,000件、ミニマックスが約41万8,000件で、当選はそれぞれ約5万1,000件と約10万5,000件だった。当選率は両社とも約25% (智譜24.8%、ミニマックス25.1%) になる。一方、公募の大部分を占める機関投資家向け (国際配分) の倍率は、智譜が約15倍、ミニマックスが約37倍だった。智譜の個人向けの枠は当初、公募全体の約5%だったが、申込倍率が50倍を超えたため20%に引き上げられた。1,000倍を超える倍率は、この小さな枠に申込が集まった結果だ。
引受証券会社は、智譜が中国国際金融や華泰金融など12社、ミニマックスが中国国際金融、米ゴールドマン・サックス、米モルガン・スタンレーなど6社で、日本の証券会社は入っていない。米国の規制上の扱いは2社で異なる。智譜は2025年1月16日、子会社9社とともに米商務省のエンティティー・リスト (事実上の禁輸リスト) に加えられた。同社は目論見書で、開示対象の期間に米輸出管理規則の対象となる製品に依存しておらず、重大な悪影響はないと説明した。リスト入りにより、米国人は米財務省の対外投資規則で同社の未上場の株式を取得できなくなったため、智譜は公募の対象を、米国外にいる米国人以外の投資家に限った。ミニマックスはリストに載っていない。主な拠点を中国に置いてAIモデルを開発するため同規則の「対象外国人」に当たる可能性が高いとしつつ、米国人による株式の取得は届け出の対象になる可能性が高いが、禁止の対象には当たらない見込みだと目論見書で説明した。
智譜とミニマックスは上場から8か月あまりで、上場時の手取りの8.5倍を追加で調達した
智譜は、上場で得た資金を短期間で使った。7月9日の発表では、上場時の手取り約49億香港ドルのうち93%超にあたる約45億9,000万香港ドルを6月30日までに使い、未使用分は約3億1,000万香港ドルだった。9月13日の発表では、8月31日までに全額を使い終えたとした。改めて資金を調達する理由として、同社はモデルの性能向上と需要の拡大で、研究開発と計算設備により多くの資金が必要になっていると説明した。
その後の調達額は、上場時を大きく上回る。智譜は7月13日に新株発行 (第三者割当) を終え、約314億香港ドルを調達した。55%を研究開発 (計算資源の購入・賃借を含む)、15%を事業の拡大、30%を資本構成の改善と運転資金に充てる計画で、8月31日までにその約35% (約110億香港ドル) を使った。9月16日には2回目の新株発行で約157億香港ドルを調達し、18日には人民元建て・米ドル決済の転換社債 (利率ゼロ、2027年満期、元本201億4,000万元) を発行した。転換社債の手取りは約30億1,000万米ドルで、同社の発表の換算で約236億香港ドルになる。同社は9月の2つの調達の理由として、良質な計算資源をいまは有利な条件で調達でき、契約から稼働までに時間がかかるため、この段階で資金を手当てしておけば計算能力の増強を事業計画に合わせられると説明した。手取りの約60%を次世代モデルの研究開発と学習・推論の計算基盤に充て、全額を2028年6月末までに使い切る予定だ。ミニマックスは7月14日に新株発行を、16日に転換社債の発行を終え、手取りは合わせて約159億香港ドルになった。
表1 上場と上場後の調達の手取り (香港ドル)
| 調達 | 智譜 | ミニマックス |
|---|---|---|
| 上場 (追加分を含む) | 48億9,620万 | 52億9,339万 |
| 7月 新株発行 | 313億7,495万 | 94億4,371万 |
| 7月 転換社債 | なし | 64億3,330万 |
| 9月 新株発行 | 156億6,413万 | なし |
| 9月 転換社債 | 236億1,024万 | なし |
| 上場後の調達の計 | 706億4,932万 | 158億7,701万 |
| 上場時に対する倍率 | 14.4倍 | 3.0倍 |
出所: 両社の香港取引所への開示 (配分結果、オーバーアロットメントの行使、新株発行と転換社債の完了の発表)。智譜の9月の転換社債は米ドル建ての手取りを同社の発表の換算で示した。合計と倍率は編集部の計算。
各社が発表した手取りを編集部が合計した (本文の倍率と割合も、断りのないものは編集部の計算)。智譜の上場時の手取りは、1月の配分結果の時点で約41億7,000万香港ドルで、2月4日にオーバーアロットメント (需要に応じて株を追加で発行する仕組み) が全量行使されて約6億3,000万香港ドルが加わった。2つを足すと48億600万香港ドルになるが、同社は7月の発表で合計を48億9,620万香港ドルとしており、約9,000万香港ドルの差がある。上場費用の確定などによるとみられ、表には同社が後に示した合計を使った。ミニマックスは上場時の約46億香港ドルに、オーバーアロットメント分の約7億香港ドルが加わった。両社を合わせると、上場後の調達は約865億香港ドルで、上場時の約102億香港ドルの8.5倍にあたる。
借入金も増えた。智譜の銀行借入金は2025年末の約6億9,000万元から2026年6月末には約22億2,000万元に膨らみ、6月末時点の手元資金 (現金および現金同等物) は約39億9,000万元だった。同社は6月22日の株主総会で、上海証券取引所のハイテク企業向け市場「科創板」での人民元建て株式の発行を決議した。発行後の株式の2〜8%にあたる規模で、中国証券監督管理委員会と上海証券取引所の承認が必要だ。ミニマックスも5月31日の取締役会で、科創板への上場を検討すると決めた。
売上高に対する研究開発費の倍率は2倍台に下がったが、研究開発費はなお売上高を上回る
効率を示す数字は、はっきり良くなっている。研究開発費を売上高で割った倍率は、智譜が2025年1〜6月期の8.35倍から2026年1〜6月期に2.23倍へ、ミニマックスが4.09倍から2.55倍へ下がった。
表2 売上高に対する研究開発費の倍率
| 期間 | 智譜 | ミニマックス |
|---|---|---|
| 2024年 | 7.03倍 | 6.19倍 |
| 2025年 | 4.39倍 | 3.20倍 |
| 2025年1〜6月期 | 8.35倍 | 4.09倍 |
| 2026年1〜6月期 | 2.23倍 | 2.55倍 |
出所: 両社の決算発表の損益計算書から編集部が計算。
倍率が下がったのは、研究開発費が減ったからではない。売上高がそれをはるかに上回る速さで伸びたためだ。智譜の2026年1〜6月期の売上高は前年同期の約5倍 (399.7%増) の約9億5,400万元、研究開発費は33.6%増の約21億3,100万元だった。ミニマックスの売上高は283.1%増の約1億1,700万ドルで、2025年通年の売上高を半年で上回った。研究開発費は138.8%増の約2億9,700万ドルで、同社はAIモデルの学習に使うクラウドサービスの費用が膨らんだことを主因に挙げた。調整後純損失を売上高で割った倍率は、前年同期の智譜9.18倍、ミニマックス4.56倍から、それぞれ2.06倍と2.51倍に下がった。研究開発費の額は2社とも増え続けており、なお売上高の2倍以上を投じている。
表3 2社の損益の主な数字
| 区分 | 智譜 (元) | ミニマックス (米ドル) |
|---|---|---|
| 25年 売上高 | 7億2,433万 | 7,904万 |
| 25年 研究開発費 | 31億8,044万 | 2億5,277万 |
| 25年 最終損失 | 47億1,817万 | 18億7,162万 |
| 25年 調整後純損失 | 31億8,197万 | 2億5,086万 |
| 26年1〜6月 売上高 | 9億5,389万 | 1億1,657万 |
| 26年1〜6月 研究開発費 | 21億3,117万 | 2億9,687万 |
| 26年1〜6月 最終損失 | 20億7,199万 | 3億5,800万 |
| 26年1〜6月 調整後純損失 | 19億6,414万 | 2億9,303万 |
出所: 両社の2025年通期と2026年中間の決算発表。智譜は人民元、ミニマックスは米ドルで決算を発表しており、本文のドルも米ドル。調整後の数字は各社が定義する非国際会計基準の指標。
2025年通年でも、研究開発費は売上高を大きく上回った。売上高は智譜が131.9%、ミニマックスが158.9%増えた。ミニマックスの最終損失約18億7,000万ドルのうち約15億9,000万ドルは、主に上場前に発行した優先株を時価で評価し直したことによる損失で、現金の流出は伴わない。この評価損と株式報酬、上場費用を除いた調整後純損失は約2億5,100万ドルだった。
売上を伸ばしたのは、2社ともAPI (外部のソフトからモデルを呼び出す仕組み) の従量課金による売上だ。智譜では、APIと開発者向けプラットフォームの売上が約8億2,500万元と全体の86.5%を占めた。前年同期は15.2%で、主力が企業の自社サーバーに導入する型のモデルから入れ替わった。その自社導入型の汎用モデルの売上は54.6%減の約6,700万元だった。同社はAPIの平均販売価格が年初から約2倍になったとし、2月にはプログラミング向けの定額料金を30%引き上げた。APIの売上総利益率は24.6%に高まったが、全社の売上総利益率は前年同期の50.0%から26.4%に下がった。同社は、利益率がまだ低いクラウド経由の売上の比率が急に高まったためと説明した。
ミニマックスも、開発者・企業向けプラットフォームの売上の比率が63.4% (前年同期は30.3%) に高まり、売上総利益率は12.1%から17.9%に改善した。同社の中国本土以外の売上高比率は、前年同期の71.8%から60.8%に下がった。本土の売上高が約857万ドルから約4,575万ドルと5倍超に伸び、本土以外の伸び (約3.2倍) を上回ったためだ。ミニマックスの6月末の手元資金 (現金同等物と金融資産など) は約13億2,000万ドルだった。
計算コストについて、智譜は国産の半導体を10万個超つないだ計算基盤で推論を処理し、1トークン (言葉を処理する単位) あたりの推論コストが年初から80%下がったと説明した。プログラミングの用途では、国産チップの1トークンあたりの推論コストが、費用対性能で主流の輸入GPUと肩を並べる水準に達したともいう。いずれも同社の説明で、比べた条件は示していない。同社は中間決算の発表で、特に長い文脈を処理するときに、国産チップのメモリーの容量とデータ転送速度が最大の制約になるとも説明した。
智譜は中間決算で、売上高に対する損失の倍率が前年同期から4.7倍縮小し、調整後では3.5倍縮小したと説明した。編集部が計算すると、最終損失を売上高で割った倍率は12.35倍から2.17倍に、調整後は9.18倍から2.06倍に下がった。それぞれ約5.7分の1、約4.5分の1になった計算で、同社の4.7倍・3.5倍は、そこから1を引いて、減った分が元の何倍かを示す言い方とみられる。これを4.7分の1と受け取ると、改善の幅を小さく見積もることになる。
ディープシークの約558万ドルは、完成したモデルの学習1回分だけの費用
中国の生成AIの効率を示す例としてよく挙げられるのが、ディープシークの学習費用だ。同社は2025年1月20日にR1を発表し、モデルの中身にあたるパラメーター (重み) と技術報告書を、商用にも自由に使える条件で公開した。前月に公開した基盤モデル「V3」の技術報告書によると、学習にはエヌビディアのGPU「H800」を延べ約279万時間使った。1時間2ドルで借りたと仮定すると、約558万ドルになる。同社は、この額は完成したモデルの学習だけの費用で、それまでの研究や、モデルの構造・データを試した実験の費用は含まないと明記している。この額を、智譜やミニマックスの年間の研究開発費と単純に比べることはできない。
費用を抑える設計の中心は、MoE (混合エキスパート) と呼ぶ構造だ。モデルの中に多数の小さな専門モデルを置き、1トークンを処理するたびにその一部だけを動かす。各社がモデルの公開ページに記した値から動かす部分の割合を計算すると、V3は総パラメーター6,710億のうち370億で5.5%、智譜の「GLM-4.5」は3,550億のうち320億で9.0%、ミニマックスの「M2」は2,300億のうち100億で4.3%だった。GLM-4.5は智譜にとって初めてのMoEだった。ミニマックスは目論見書で、早い段階からMoEと、複数の方式を組み合わせた注意機構 (言葉どうしの関係を計算する仕組み) を採用し、計算資源を大きく減らしたと説明している。動かす部分の割合は4%台から9%まで差があり、一括りにはできない。
楽天のRakuten AI 3.0は、ディープシークのV3と同じ構造だった
この構造は日本企業のモデルにも使われている。楽天グループは2026年3月17日、日本語向けの大規模言語モデル「Rakuten AI 3.0」の提供を始めた。発表によると、モデルは約7,000億パラメーターのMoEだ。開発は経済産業省と新エネルギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) の生成AI開発支援事業「GENIAC」の第3期として2025年7月に採択され、学習に使う計算資源の費用の一部について補助を受けた。経産省は第3期で24件を採択し、計算資源の利用料などを補助した。楽天は発表で、開発のもとになったモデルを「オープンソースコミュニティ上の最良なモデル」とするだけで、名前は挙げていない。
楽天がモデルを公開した米ハギングフェイスのサイトで設定ファイルを見ると、モデルの構造を示す欄に「DeepseekV3ForCausalLM」、種類を示す欄に「deepseek_v3」と書かれている。編集部がV3の設定ファイルと46の設定値を突き合わせると、違ったのはファイルの参照先や学習時の設定などの5つだけだった。層の数 (61)、専門モデルの数 (256)、1トークンごとに動かす専門モデルの数 (8)、語彙の数 (12万9,280) など、構造を決める値はすべて一致した。楽天自身もモデルの説明に、総パラメーター6,710億のうち動かすのは370億と、V3と同じ値を記している。発表の約7,000億はこれを丸めた値とみられる。発表と同じ3月17日の日本時間午後には、公開ページに権利表示のファイルが追加され、ディープシークの著作権表示と、複製や改変を認めるライセンスの条文が載った。
楽天は、公開されたモデルをもとに、自社が持つ日本語と英語のデータや技術を組み合わせて開発したと説明している。中国企業が公開したモデルの構造が、国の補助を受けた楽天のモデルにそのまま使われている。
効率は良くなったが、資金集めは上場後にむしろ膨らんだ
2社の開示を見ると、効率の改善と資金の積み増しが同時に進んでいる。研究開発費の売上高に対する倍率は、1年で智譜が8倍台から2倍台に、ミニマックスが4倍台から2倍台に下がった。それでも研究開発費は売上高の2倍を超える。智譜は上場時の手取りを8月末までに使い切り、両社は上場からの8か月あまりで、上場時の8.5倍の資金を追加で集めた。智譜は米国の輸出規制の対象で、推論の主な計算資源に国産チップを加えたが、そのチップのメモリーが制約になっている。次の確認点は2026年7〜12月期の決算で、研究開発費の倍率がさらに下がるか、9月に集めた資金 (2028年6月末までに使う予定) が計算資源にどう振り向けられるかにある。智譜がエンティティー・リストに加えられた経緯は、制裁データベースにまとめている。
※2026年10月16日、香港取引所への開示などの一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版の題の「4社、香港IPOへ」を、上場した2社を扱う題に改めました。旧版は月之暗面 (ムーンショットAI) と階躍星辰 (ステップファン) を加えて4社としていましたが、2社について書いていたのは上場前の資金調達で、上場の事実ではありませんでした。1,159倍と1,837倍は香港の個人投資家向けの申込倍率で、機関投資家向けは約15倍と約37倍だったことを書き加えました。月之暗面と階躍星辰の資金調達額と評価額、ディープシークの「100分の1の訓練コスト」、ファーウェイの半導体の性能値、中芯国際集成電路製造の製造技術についての記述は、一次資料で確かめられなかったため削除しました。MoEで動かす割合「2〜5%」は、各社の公開値をもとに計算し直した4.3〜9.0%に改めました。日本の証券会社が引受に関わりうるとした記述は、実際の引受団に含まれていなかったため削除し、日本企業への影響の一般論は楽天グループのRakuten AI 3.0の事実に置き換えました。社名の表記の崩れも直しました。
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