東京証券取引所が縮減を求めてきた政策保有株式は、銘柄の数では確かに減っている。355社の合計で1年に1,878銘柄が消えた。ところが金額は逆に増えている。売った額より、手元に残した株の値上がりが上回ったためである。

政策保有株式は、取引先との関係を保つために持つ他社の株式を指す。企業統治の指針が見直されるたびに縮減を求められ、開示の細かさも年々増した。有価証券報告書には、保有している銘柄の数、貸借対照表への計上額、その年に売却した額が、それぞれ別の項目として記載される。この3つを3月期決算の上場企業について集めると、個別の発表を追うだけでは見えない姿が出てくる。

本稿の数字は、金融庁の電子開示システムに提出された有価証券報告書から集めた。収録している524社のうち、3月期決算の企業を対象としている。売買の推奨や評価は示さない。

銘柄は1,878減り、金額は4兆3,878億円増えた

保有銘柄数と計上額が逆方向に動いたことを示す図
保有銘柄数と計上額が逆方向に動いたことを示す図

銘柄数を前年と比べられる355社では、合計が13,993から12,115へ減った。減らしたのが241社、増やしたのが18社、変わらなかったのが96社である。方向としては、縮減の要請に応じた動きがはっきり出ている。

一方、計上額を前年と比べられる341社の合計は、39兆6,185億円から44兆63億円へ増えた。増やしたのが248社、減らしたのが93社。銘柄数とは比率が逆になっている。

両方を比べられる340社のうち、銘柄を減らしながら金額は増えた会社は166社あった。ちょうど半数である。企業の側から見れば縮減は進んでおり、貸借対照表の側から見れば進んでいない。同じ1年について、2つの読み方が同時に成り立つ。

6兆8,099億円を売っても残高が減らない

売却額と残した株の値上がりが残高に与えた影響を示す図
売却額と残した株の値上がりが残高に与えた影響を示す図

売却額と残高の両方が記載されている280社について足し合わせると、1年で手放した額は6兆8,099億円だった。それにもかかわらず、残高は38兆575億円から42兆271億円へ、3兆9,696億円増えている。

売れば残高は減る。減らずに増えたということは、残した株の評価がその分を超えて上がったことになる。売却額と増加額を足すと10兆7,795億円で、これが残高を押し上げた側の大きさになる。

仕組み自体は会計の規則どおりである。貸借対照表への計上額は取得したときの値段ではなく、期末時点の時価で評価される。株価が上がる局面では、保有を減らしても計上額はそれほど減らない。縮減の努力と、評価の増加が、同じ欄の中で打ち消し合う。

大手金融6社で3兆1,916億円を売り、5社は残高が増えた

売却額が大きかったのは金融機関である。東京海上ホールディングス(8766)が7,422億円、三井住友フィナンシャルグループ(8316)が5,668億円、三菱UFJフィナンシャル・グループ(8306)が5,316億円、SOMPOホールディングス(8630)が5,098億円、MS&ADインシュアランスグループホールディングス(8725)が4,636億円、みずほフィナンシャルグループ(8411)が3,776億円を売却した。6社の合計は3兆1,916億円になる。

このうち残高が減ったのは東京海上だけだった。2兆1,653億円から1兆9,218億円へ11.2%減っている。残る5社は、売却したうえで残高が増えた。三井住友は3兆2,804億円から3兆6,114億円へ10.1%、三菱UFJは3兆4,594億円から3兆7,718億円へ9.0%、みずほは2兆3,855億円から2兆7,948億円へ17.2%である。

最も差が開いたのはMS&ADで、銘柄を411から250へ39.2%減らしながら、金額は1兆7,358億円から2兆2,525億円へ29.8%増えた。1銘柄あたりの平均は42億円から90億円へ倍以上になっている。手放したのは相対的に小口の銘柄で、金額の大きい中核の保有は残ったことになる。

純粋持株会社の場合、有価証券報告書には提出会社自身の保有に加えて、株式を最も多く持つ子会社の保有状況が記載される。銀行や保険の持株会社で数字が大きく見えるのは、実際に株式を保有している事業子会社の残高が含まれるためである。三菱UFJやみずほのように、持株会社自身の記載がなく子会社の分だけが載る例もある。

銘柄を増やした18社

減らす動きが大勢を占めるなかで、銘柄数を増やした会社も18社あった。3月期決算ではあおぞら銀行(8304)が64から74へ10銘柄、博報堂DYホールディングス(2433)が70から79へ9銘柄、京成電鉄(9009)が22から26へ4銘柄増やしている。

増加の幅は減少の幅に比べて小さい。最も多く減らした会社が161銘柄を手放したのに対し、最も多く増やした会社は10銘柄である。全体として、銘柄の出入りは片方向に偏っている。

数字の読み方で気をつける点

集計にあたって、前年から3倍以上動いた行は除いた。保有区分の振り替えや、開示の系統が切り替わったことによる変化が混ざるためである。実際、銘柄数がほぼ変わらないのに金額が6倍を超えた会社があり、これは株価では説明がつかない。除いた社数は、計上額で18社、銘柄数で5社だった。

決算期の違いにも注意がいる。同じ「2026年3月期」でも、12月期決算の会社が並ぶと対象期間がずれる。本稿の集計を3月期決算に限ったのはこのためで、対象は計上額で341社、銘柄数で355社、売却額と残高の両方がそろうのが280社である。

企業ごとの順位は政策保有株式ランキング銘柄数のランキングで、収録している467社について公開している。いずれも有価証券報告書に記載された数字をそのまま並べたもので、当サイトは評価や助言を示していない。

縮減が数字として表れるかどうかは、次に株価が下がる局面で分かる。売却が続き、評価の押し上げが止まれば、残高は初めて減り始める。今回の1年は、その2つの力の大きさが測れた期間だった。