極端紫外線の露光装置の独占を、ASML以外の側から分解する。1メガワットが数十ワットへ落ちる損失の連鎖を計算で追い、キヤノンとニコンの現在地、中国が挑む光源そのものの作り替えまでを精密に検証する。
極端紫外線を使う露光装置を商業規模で作れる企業は、世界にオランダのASML1社しかない。この事実は繰り返し語られてきた。だが、そこから導かれる「1社が技術を独占している」という理解は、実際の構造をかなり取り違えている。
1台の装置は10万点を超える部品からなり、重量はおよそ180トンに達する。そのうちASML自身が作るのはおよそ15パーセントにすぎない。同社が2024年に公表した供給網には、5,150社を超える企業が連なる(TrendForce)。鏡はドイツのツァイスが磨き、光源の炭酸ガスレーザーは同じくドイツのトゥルンプが作る。ASMLが持っているのは、部品を作る力ではなく、10万点を1台として成立させる力である。
本稿は、この独占をASML以外の側から分解する。まず1メガワットの電力が最終的に何ワットの光になるのかを、変換効率と反射率から計算で追う。次に「ニコンもキヤノンも諦めた」という通説を、両社の現在の製品と計画に当たって検証する。そのうえで、中国が本当に賭けているのが装置の模倣ではなく光源そのものの作り替えであることを示す。株価や時価の数字は扱わない。
独占しているのは組み立てであって、部品ではない
供給網の形を見ると、この産業の急所がどこにあるかがはっきりする。ASMLは統合する側であり、決定的な部材は外部にある。
光学系はツァイスが担う。極端紫外線は空気にもガラスにも吸収されるため、透過するレンズが使えない。すべてを反射鏡で構成し、真空の中で光を運ぶ必要がある。この反射鏡は、モリブデンとケイ素を交互に積んだ多層膜で作られ、原子の並びの水準まで平滑に磨き上げられる。光源側はトゥルンプの炭酸ガスレーザーが受け持ち、出力はおよそ30キロワットに達する。どちらにも代替の供給元がない。
ここに、あまり指摘されない事情が重なる。この精度を測る計測器そのものも、限られた企業しか作れない。加工の精度は計測の精度を超えられないため、鏡を磨く技術と、磨けたかどうかを確かめる技術は、事実上ひとつの塊として存在する。仮に鏡の製造装置を手に入れても、出来上がったものが規格に入っているかを判定できなければ、量産には進めない。
つまり、この産業で本当に狭い門になっているのは、装置を組む1社ではなく、その手前にある少数の部材と計測の企業群である。中国の取り組みが装置の分解と複製に向かうかぎり、複製すべき対象は1台の機械ではなく、数十年かけて積み上がった部材と計測の集合になる。
1メガワットが25ワットになるまでを、計算で追う
装置全体では1メガワット級の電力を使い、最後にウェハーへ届く極端紫外線はわずか数十ワットにとどまる。この落差は驚きとして語られることが多いが、二段階の物理で説明がつく。
第一段が、光を作る段階の変換効率だ。真空の中へ直径20マイクロメートル前後の錫の液滴を送り出し、そこへ炭酸ガスレーザーを毎秒5万回当てる。液滴は数十万度の高温の電離気体になり、その放射の一部が波長13.5ナノメートルの極端紫外線として取り出される。この取り出しの効率は、直径20マイクロメートルの液滴で最大およそ3.4パーセントと報告されている(Physics Research International)。投入したレーザーの大半は、極端紫外線以外の熱と光になって捨てられる。
第二段が、光を運ぶ段階の反射損失である。モリブデンとケイ素の多層膜鏡は、波長13.5ナノメートルでおよそ70パーセントの反射率を持つ。可視光の鏡が99パーセントを超えるのと比べると、1枚あたりの取りこぼしが極端に大きい。そして極端紫外線の光学系では、鏡を10枚以上重ねる設計が採られる。仮に11枚とすれば、残る光は0.7を11回掛けた値、すなわちおよそ2パーセントになる。
二つの段階を掛け合わせると、桁が合う。錫の電離気体から取り出す段階で数パーセント、鏡を渡る段階でさらに数十分の1。壁のコンセントから入った1メガワットが、ウェハーの上では数十ワットの水準まで落ちる理由は、この連鎖にある。
だからこそ、光源の出力を上げることが直接そのまま生産量になる。光源が600ワットから1,000ワットへ上がれば、1時間に処理できるウェハーの枚数は最大で5割増える。反射率を1枚あたり1ポイント改善する努力も、11枚重なれば効きが1割以上に増幅される。この装置の開発が、光源の出力と鏡の反射率という2点に集中してきたのは、損失が掛け算で効く構造だからだ。
「ニコンもキヤノンも諦めた」は、事実として正確ではない
日本の2社が極端紫外線の露光装置から降りたことは間違いない。だが、そこから「日本の露光装置産業が撤退した」と読むのは誤りである。両社は別の道を選んでいる。
キヤノンが進めているのは、光で焼き付けるのではなく、型を押し当てて回路を写し取るナノインプリントである。2024年9月26日、同社は装置「FPA-1200NZ2C」を、米国テキサス州の半導体研究拠点テキサス・インスティテュート・フォー・エレクトロニクスへ出荷した(キヤノン)。この装置が形成できる最小の線幅は14ナノメートルで、光で焼く方式に換算すれば5ナノメートル世代に相当する。試作段階ではあるが、実機が客先へ渡っている。光学系の損失に悩まされないという一点で、この方式には理屈のうえで大きな余地がある。
ニコンは、極端紫外線の手前にあるアルゴンフッ素の液浸露光装置を続けている。現行機を販売しながら、2028年度に新型の液浸プラットフォームの試作機を主要な半導体メーカーへ納入する計画を示し、2030年以降の後継機の開発も掲げる。設計上の要点として、ASML製の装置との互換性を持たせる方針が挙げられている(EE Times Japan)。同じ工場の中で装置を混ぜて使えることを売りにする構想で、最先端の性能ではなく、置き換えやすさで市場を取りに行く設計になっている。
対象となった記事は、両社が「内部ですべての問題を解決しようとして失敗した」と説明する。この診断は極端紫外線の開発については当たっている。だが現在の両社は、ASMLと同じ土俵で勝つことをやめ、土俵そのものを変える側と、隣の土俵で戦う側に分かれている。撤退と方向転換は、産業の見立てとしてまったく別の事象だ。
中国が賭けているのは、装置の模倣ではなく光源の作り替えである
中国の取り組みについても、報じられ方と実態には距離がある。装置を分解して複製するという説明は、進行している努力の一部でしかない。
装置の側では、上海微電子が国内で唯一、前工程の露光装置を量産できる企業とされる。自社開発の600系列は90ナノメートル世代で量産段階に入り、現在は28ナノメートルに対応する液浸機を開発している段階にある。同社は2024年10月、経営陣の変更が上場の要件に抵触したとして、新規上場の申請を取り下げた。別系統では、ファーウェイ系の装置企業と関係する事業体が国産の液浸装置を試験中で、28ナノメートル向けながら、多重露光を重ねれば7ナノメートルや5ナノメートルへ応用する構想も示されている。
より本質的な動きは、光源そのものにある。清華大学の唐傳祥教授の研究グループは、ドイツのヘルムホルツ協会の研究陣と組み、定常マイクロバンチングと呼ばれる方式の原理実証に成功した。電子の蓄積リングの中で、電子の塊を定常的に微細な束へそろえ、そこから狭い線幅の可干渉な放射を取り出す仕組みで、成果は2021年2月25日に英科学誌ネイチャーへ掲載されている(AFPBB)。波長はテラヘルツから極端紫外線までを覆いうる。
この方式が実現した場合の意味は大きい。構想上の出力は10キロワットで、ASMLの装置が使う光源のおよそ40倍にあたる。しかも1台の蓄積リングから複数の露光装置へ光を配れる。錫の液滴に高出力のレーザーを当て続けるという、いまの主流の構成そのものが不要になる。特許も、部材も、計測も、錫の液滴を前提に積み上がってきた。前提を外せば、その積み上げを迂回できる。
もっとも、原理実証と量産装置の間には長い距離がある。蓄積リングは加速器であり、工場の床に置ける規模と価格に収める課題は残る。それでも、この動きは「複製に失敗し続けている」という理解では捉えられない。競争の軸を、装置の精度から光源の物理へ移そうとしているからだ。
投じられた資金の桁を、正しく置き直す
中国が半導体に投じた資金の規模も、しばしば1つの数字で語られる。実際には、国家集成回路産業投資基金という枠組みが3期に分かれて設立されており、登録資本の規模は、第1期がおよそ987億元、第2期が2019年10月に2,041億元、第3期が2024年5月に3,440億元と積み上がっている。合計すれば6,000億元を超える規模になる。
この数字が示すのは、資金が足りていないのではないという事実だ。金額の桁で説明できるのは、参入の可否ではなく速度にすぎない。光源、鏡、計測、そして数十年かけて蓄積された不良の記録。金銭で短縮できる部分と、時間でしか埋まらない部分が分かれており、露光装置は後者の比重が極端に大きい産業である。
顧客を株主にした設計と、日本の現場でいま動いていること
ASMLの側にも、技術以外の設計がある。2012年、同社は主要な顧客である半導体メーカー3社から出資を受け、開発費を分担する枠組みを作った。顧客が株主になれば、開発の遅れは自らの損になり、完成した装置を買う動機も強まる。装置1台の開発が10年単位に及ぶ産業で、需要と資金と開発の重荷を同じ主体に束ねたこの設計は、技術と同じくらい効いている。単独で全部を抱え込もうとした日本の2社との差は、要素技術の優劣よりも、この構えの違いに現れた。
日本の現場では、その装置がいま動き始めている。ラピダスは2024年12月18日、量産に対応する極端紫外線の露光装置「NXE:3800E」を北海道千歳市の工場へ搬入し、据え付けに入ったと発表した。国内で量産対応機が導入された初の事例で、2ナノメートル世代の論理半導体を狙う。同社は2つの工場へ合わせて10台を導入する計画を示している(マイナビニュース)。
装置を作る側で日本が最先端から降りた一方、装置を使う側と、装置を成立させる部材の側では、日本は依然として中枢にいる。露光装置の前後で塗布と現像を担う装置、回路原版の下地、感光材、ウェハー。いずれも日本勢の比率が高く、置き換えるには年単位の評価が要る。
読者が持ち帰れる見立ては単純だ。この産業で守られているのは、単体の性能ではなく、部材と計測と記録が絡み合った状態である。1つの装置を分解しても、その状態は複製できない。逆に言えば、部材や計測のどこか一点で世界の水準を握っていれば、装置を作れなくても交渉の席には残れる。10万点のうち15パーセントしか作らない企業が中心に立っている構図は、そのことを最も正確に示している。
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