露光装置の開発をAIがどこまで縮められるのかを検証する。制御の6つの層、二重の閉ループ、そしてASMLが公表した実例。試作機では埋まらない現場データの非対称と、計算では消せない光子の揺らぎまで追う。

機械の体を作る力なら中国にある。材料、精密加工、電子部品、駆動系、産業用ロボット、そして複雑な装置の組み立てと量産まで、一続きの産業がそろっている。足りないのは、測り、予測し、誤差から学ぶ頭脳のほうだ。そこにAIを入れれば、20年かかった露光装置の開発を大幅に縮められる。中国語圏で共有されたこの論考は、製造の体とAIの脳という組み合わせで、開発の閉ループを完成させられると説く。

論旨の骨格は正しい。実際、露光装置は精密部品の集まりではなく、測って予測して補正し続ける制御系であり、AIが効く条件をよく満たしている。挙げられている数字も、確認するとほぼ裏づけが取れる。だが、この構図には第3の要素が抜けている。脳を訓練する教師データは、設計室からも試作機からも十分には出てこない。出てくるのは、顧客の工場で何年も動き、壊れ、直された機械からである。

本稿は、まず論考が示した制御の階層と開発の閉ループを、公開資料で検証しながら精密化する。そのうえで、AIが実際に縮めた工程と縮めていない工程を切り分け、体と脳の間に横たわるデータの非対称を示す。最後に、どれだけ計算しても消せない物理の限界に触れる。株価や時価の数字は扱わない。

露光装置は工程の一部でしかない、という前提の確認

論考が冒頭で正すとおり、露光装置は半導体を作る機械ではない。1台が担うのは、回路図形のうち1層分を、感光材を塗ったウェハーへ移す工程だけである。その前後には成膜、塗布、加熱、現像、加工、不純物の注入、洗浄、測定、封止が並ぶ。完成までの工程は数千に及び、3か月を超えることもある。複雑な半導体では、この図形づくりが100層近く繰り返される。

1回の露光の流れも、論考の記述で正確だ。ウェハーへ感光材の薄膜を作り、回路原版を装填する。極端紫外線は空気に吸収されるため光路は高い真空に保たれ、ウェハーと原版と構造体の温度は厳密に管理される。わずかな熱膨張でも重ね合わせの精度が崩れるからだ。位置合わせの標識を読み、表面の高さを走査して焦点と傾きの地図を作る。2つの台を持つ装置は、1枚を露光しながら次の1枚を測れる。

そして走査の露光は、静止した写真撮影ではない。原版が細長い隙間の片側へ動き、ウェハーは反対向きに動く。両者はナノメートルの位置精度とナノ秒の同期を保たねばならない。原版の図形はウェハー上の4倍の大きさであるため、原版の台はより遠くまで、より速く動く。ASMLの公表値では、旧世代の装置でウェハーの台が最大7Gで加速し、開口数を高めた新世代ではウェハーの台が8G、原版の台は32Gに達する。

この段階で押さえておきたいのは、露光が一方通行の流れ作業ではないという点だ。設計が原版を生み、機械が露光し、測定が誤差を見つけ、ソフトウェアが補正を計算し、次の露光でその補正の当否を確かめる。閉じた輪になっている。

制御を担うソフトウェアは、時間の尺度で層に分かれている

現代の露光装置に、すべてを統べる中央のAIは存在しない。論考が整理するとおり、ソフトウェアは階層化された制御系であり、層ごとに受け持つ時間の尺度が違う。

最上層は工程と安全の統括で、条件を読み、搬送を差配し、真空と温度と光源と台の切り替えを管理する。ひとつでも条件を満たさなければ露光は始まらない。第2層は状態の推定と校正にあたる。センサーは「図形が0.3ナノメートルずれる」とは教えてくれない。位置、光の強さ、温度、圧力、振動、波面といった信号を融合し、直接は観測できない量を推定する。第3層が軌道の計画と前置補償、第4層が硬い実時間の帰還制御である。

この第4層の数値は、ASMLが公開している。ウェハーの位置は毎秒およそ2万回測定され、センサーの精度はおよそ60ピコメートル、位置決めは4分の1ナノメートルの範囲に収まる(ASML)。1ピコメートルはナノメートルの1,000分の1で、原子1個の大きさよりさらに小さい。これだけの速さで動かしながら重ね合わせを保つには、加工精度だけでは足りず、動かしながら測り、動かしながら直すしかない。

第5層はウェハー単位と製造単位の帰還である。実時間の内側の輪が扱うのはミリ秒以下の運動誤差だが、露光後の測定が扱うのはより遅い漂れだ。ある一群のウェハーが全体として焦点をずらしていないか、ある領域だけ重ね合わせが変形していないか、装置ごとに系統的な差が出ていないか。第6層が計算リソグラフィで、光の回折と感光材の化学反応と加工の影響を見越し、原版の図形をあらかじめ歪めて描く。

制御しているのは数個のモーターではない。ナノ秒の同期から、ミリ秒の運動制御、ウェハー単位の補正、製造単位の漂れの補償、そして工程開発の段階における原版と光源の最適化まで、時間の尺度を横断する一本の鎖である。

時間の尺度で分かれた6つの層
時間の尺度で分かれた6つの層

AIが実際に縮めた工程と、縮めていない工程

論考の中心にある主張は、開発期間をおおむね「繰り返し回数 × (模擬計算の時間 + 試験の時間 + 分析の時間)」と書いたうえで、AIが1回あたりの時間と必要な回数の両方を減らす、というものである。この見立ては妥当で、公表された実例も存在する。

ASMLの2025年の年次報告書は、極端紫外線の光源にある特定の部品について、流体の数値計算に24時間ほどかかっていたものを、深層学習による代理模型なら数秒まで縮めうると記している。同社はその意義を、最適化のために探索できる設計の組み合わせが飛躍的に増えることだと説明する(ASML 2025 Annual Report)。1日に1案しか検証できなければ慎重に少数の条件しか試せないが、数秒で近似解が出るなら、まず数千の組み合わせを篩にかけ、有望な少数だけを高精度の計算と実機へ送れる。

ここで、切り分けが要る。この加速が効いているのは、方程式がよく定義された物理の模擬計算である。露光装置の開発が20年を要し、極端紫外線の研究開発だけで17年間に60億ユーロを超える投資が積み上がった理由は、模擬計算の遅さだけではない。錫の破片が集光鏡を汚す問題、光源の出力を実用水準まで上げる問題、感光材の性能を確定させる問題、そして数週間から数か月動かして初めて表面化する信頼性の問題。これらは計算機の中では終わらない。物を作り、動かし、壊し、直す時間がかかる。

論考が挙げる他の効き所は、いずれも実在する。実機のデータから系の同定を行い、装置ごとに異なる構造誤差や摩擦や熱の状態を模型に取り込む方向。誤差が出てから直すのではなく、原版の加熱や光学系の漂れを事前に予測して補正する方向。そして測定の資源を、危険度の高い場所へ集中させる方向。これらはいずれも、実時間の内側の輪ではなく外側の輪に置かれる。安定性と遅延と安全の制約を負う内側の輪は、検証可能で決定論的な制御器が担い、AIは状態の予測と前置補償の生成と測定点の選択を受け持つ。この分担は、論考の指摘どおりである。

二重の閉ループ ― 機械が回る輪と、開発が回る輪
二重の閉ループ ― 機械が回る輪と、開発が回る輪

体と脳の間に横たわる、データの非対称

ここからが、論考が触れていない部分になる。代理模型も、故障診断も、装置ごとの同定も、訓練するための教師データを必要とする。そのデータは、どこから出てくるのか。

高精度の模擬計算からも出る。だが最も価値が高いのは、実機が現実の条件下で長時間動いたときに残す記録である。振動、熱の漂れ、位置合わせの失敗、光強度の揺らぎ、部品の寿命。これらは設計室では生まれない。工場の床で、量産の速度と歩留まりを課された機械が、何年も動き続けて初めて蓄積される。

規模の差は、ここで決定的になる。ASMLは極端紫外線の装置を2025年までに220台以上出荷しており、2020年末の時点ですでに、稼働中の装置で2,600万枚のウェハーが露光されていた。装置1台あたりの部品は10万点を超え、供給元は5,000社に及ぶ。この母数から出てくる稼働の記録と故障の記録が、AIの教師データになる。

論考の題名が示す「試作機から量産5台へ」という段階は、体を作る力の証明としては大きい。だが、脳を訓練する材料としては5台分にしかならない。しかも試作機と量産機では、出てくるデータの性質が違う。試作機が教えるのは「動くかどうか」であり、量産機が教えるのは「動き続けたとき何が最初に壊れるか」である。後者は、時間を早送りできない。

この非対称は、製造力では埋まらない。工場を増やせば体は増えるが、体が現場で経験する年月は増えない。逆に言えば、装置を作れない側であっても、装置を長く使う側にいるなら、そこには蓄積がある。体は製造力で作れ、脳は計算力で作れる。だが両者をつなぐ神経系は、時間でしか作れない。

体と脳の間に足りないもの
体と脳の間に足りないもの

どれだけ計算しても消えない揺らぎ

もうひとつ、AIの外側にある限界を押さえておく。極端紫外線の露光には、原理的に消せない不確かさが残る。

波長が13.5ナノメートルの光は、深紫外線の193ナノメートルの光に比べて、光子1個が運ぶエネルギーが桁違いに大きい。同じ露光量を与える場合、届く光子の数はその分だけ少なくなる。数が少なければ、量子力学に由来するばらつき、すなわち光子のショットノイズが相対的に大きく効く。感光材の分子の並びにも、同様のばらつきがある。

その結果として現れるのが、確率的な印刷不良である。細い線の途中が局所的に切れる、隣り合う線が偶発的に橋渡しされる、接点が消える、あるいは隣とつながる。特徴は、再現しないことだ。まったく同じ条件で露光しても、出る場所が毎回変わる。技術世代が14ナノメートル以下へ進むほど、この影響は無視できなくなる(imec)。

逃げ道も限られている。感光材の感度を上げれば少ない光子でも図形は形成できるが、今度は化学反応側のばらつきが増える。露光量を増やせば光子は増えるが、1時間あたりの処理枚数が落ちる。AIができるのは、どこで不良が出やすいかを予測して検査の資源を集中させることや、条件の組み合わせを効率よく探索することであって、ばらつきそのものを消すことではない。開発期間の短縮を語るとき、この床の存在を勘定に入れないと、見積もりは必ず外れる。

AIが消せない床 ― 光子の数が足りない
AIが消せない床 ― 光子の数が足りない

製造の厚みという条件を、正確に評価する

論考が挙げる中国の製造基盤は、抽象的な標語ではなく数字で裏づけられている。国際ロボット連盟の集計では、2024年に中国の工場で稼働する産業用ロボットは200万台を超えて世界最大となり、その年の新規設置は29万5,000台、世界全体の需要の54パーセントを占めた。加えて、国内向けの供給で自国のメーカーが海外勢を初めて上回り、国内での比率は10年前のおよそ28パーセントから57パーセントへ上がっている(国際ロボット連盟)。論考が示す工業分類の網羅性や製造業の付加価値の伸びも、同じ方向を指す。

この厚みが露光装置の開発に効く筋道は明快だ。設計が部品になるまでの時間、部品が試作機になるまでの時間、問題が供給元へ戻るまでの時間。どれも短くできる。試験を「できるかどうか」の制約から外し、「次に何を試すのが最も情報量が多いか」という選択の問題へ移せる。製造が試験の回数を確保し、AIが試験の選び方を決める。この分業は、論考の主張どおり有効である。

ただし、日本の経験が示す反例も見ておく必要がある。日本にも材料、精密加工、電子部品、産業用ロボットの厚みはあった。それでも露光装置の最先端からは退いた。欠けていたのは製造力でも模擬計算でもなく、顧客の工場を開発の一部として組み込む仕組みだった。ASMLは主要な顧客に出資を受け入れ、開発費を分担し、装置の使われ方をそのまま設計へ戻す関係を作った。体と脳に加えて、現場という第3の要素をどう確保するかが、この産業では勝敗を分けている。

日本の現在地も、この観点で読める。装置を作る側では最先端から離れたが、感光材、回路原版の下地、塗布と現像の装置、ウェハーといった部材では中枢に残り、そして自国に最先端の工場を建て直す動きが進んでいる。装置を使う側へ回ることは、敗北ではなく、神経系を取り戻す作業にあたる。

体は製造の力で作れる。脳は計算の力で作れる。だが、その脳に何を学ばせるかを決めるのは、現場で壊れた機械が残した記録だけである。