中国のDRAM最大手、長鑫存儲は10月19日の株主総会で、研究開発と検査の2つの投資計画の承認を得た。装置の購入費は合わせて約306億元にのぼる。利益が急増した1〜6月期も、設備投資に支払った現金は前年同期より1割少なかった。
長鑫存儲は、パソコンやサーバー、スマートフォンでデータを一時的に記憶する半導体メモリー、DRAMを製造する中国企業だ。親会社の長鑫科技集団が2026年7月27日、上海証券取引所のハイテク企業向け市場「科創板」に上場した。製造は全額出資の長鑫存儲技術のほか、出資比率の低い長鑫新橋と長鑫集電の2社が担う。本稿では、上場会社の長鑫科技集団と子会社を合わせて長鑫存儲と呼ぶ。長鑫存儲は上場後、8月に半期報告書、9月に上場で得た資金の使い道、10月17日に1〜9月期の業績見通し、20日に臨時株主総会の結果を開示した。本稿では、これらの開示資料と目論見書を読み、利益の急増が装置の発注に向かうのかを、日本の製造装置メーカーの東京エレクトロンとKOKUSAI ELECTRICの開示と照らして確かめた。会社の概要は長鑫存儲の企業ページにまとめている。
長鑫存儲の1〜9月期の純利益は1310億元超の見込み、黒字転換は2025年10〜12月期
10月17日に開示した業績見通し (速報値) によると、2026年1〜9月期の売上高は2650億〜2700億元、親会社の株主に帰属する純利益 (以下、純利益) は1310億〜1325億元になる見込みだ。前年同期は売上高が約321億元で、最終損益は約53億元の赤字だった。数字は財務部門の試算で、監査法人の監査は受けていない。同社は増益の理由に、2025年7〜12月期からAI向けの需要が急増し、DRAMが供給不足で大幅に値上がりしたことを挙げた。
公表済みの累計の数字から前の期までの分を差し引くと、四半期ごとの値が分かる。出所は、2025年通年が目論見書 (監査済み)、2026年1〜3月期が目論見書 (監査法人のレビュー済み)、1〜6月期が半期報告書 (未監査) である。
| 期間 | 売上高 (億元) | 純利益 (億元) | 求め方 |
|---|---|---|---|
| 2025年7〜9月期 | 166.46 | △29.48 | 1〜9月期から1〜6月期を差し引き |
| 2025年10〜12月期 | 297.15 | 71.55 | 通年から1〜9月期を差し引き |
| 2026年1〜3月期 | 508.00 | 247.62 | 目論見書の値 |
| 2026年4〜6月期 | 995.10 | 528.43 | 1〜6月期から1〜3月期を差し引き |
| 2026年7〜9月期 | 1,146.90〜1,196.90 | 533.95〜548.95 | 見通しから1〜6月期を差し引き |
差し引いた値と以下の比率は、編集部が計算した。2025年は1〜9月の各四半期が赤字で、最終損益が黒字に転じたのは2025年10〜12月期だった。この四半期の純利益は71億5500万元で、2025年通年でも純利益は18億7500万元の黒字になった。赤字は2024年まで続き、2023年の赤字額は約163億元だった。
見通しどおりなら、2026年7〜9月期の売上高は4〜6月期より15.3〜20.3%増える一方、純利益の伸びは1.0〜3.9%にとどまる計算になる。同社は見通しの開示でこの差に触れておらず、正式な数字は7〜9月期の四半期報告書で示すとしている。
1〜6月期の売上総利益率は84.7%、同社は大幅な値上がりは続かないとみる
半期報告書によると、2026年1〜6月期の売上高は1503億元で、前年同期の9.7倍になった。売上原価は約229億元で、売上総利益率は84.7%に達する。製品別では、サーバーやパソコン向けのDDR製品が88.4%、スマートフォン向けなどの低消費電力品が82.6%だった。同社は、売上原価が増えたのは販売数量が大きく伸びたためで、増益は製品価格の上昇によると説明している。目論見書によると、主要なDRAM製品の販売単価は、2024年に前年比55.1%、2025年に33.7%上がっていた。
1〜6月期の実績は前年同期だけでなく、上場前に示した見通しも大きく上回った。同社は目論見書で売上高を1100億〜1200億元、純利益を500億〜570億元と見込んでいたが、実績の売上高1503億元と純利益776億元は、見通しの上限をそれぞれ25.3%、36.1%上回った。
子会社の少数株主に帰属する利益も大きい。少数株主分を含む1〜6月期の純利益は1075億5000万元で、その27.8%にあたる299億4400万元は少数株主に帰属する。長鑫科技集団とその子会社が長鑫新橋と長鑫集電に直接持つ株式は30.7%と31.7%にとどまり、他の株主と議決権を共同で行使する契約で議決権の過半を握り、連結しているためだ。1〜3月期も、純利益247億6200万元に対し、少数株主分を含めると330億1200万元だった。
同社は半期報告書で英調査会社オムディアの調査を引用し、2025年の世界のDRAM市場の売上高シェアを韓国のSKハイニックス34.5%、サムスン電子34.0%、米マイクロン・テクノロジー23.4%と示した。自社を出荷量と売上高で中国1位、世界4位と位置づけている。一方で同社は目論見書で、DRAMの価格は高い水準にあり、大幅な値上がりは続かないとも書いている。大手3社の増産に需要の伸びが追いつかなければ需給が緩む可能性があるとし、2026年1〜6月期のような大幅な増益が続かないおそれを示した。
長鑫存儲の設備投資は2024年の約712億元がピーク、1〜6月期も前年同期を10.5%下回った
利益の急増は、設備投資にはまだ表れていない。キャッシュフロー計算書で固定資産や無形資産の取得に支払った現金 (以下、設備投資) を見ると、2023年の約437億元から2024年に約712億元へ増えた。2025年は約497億元と30.2%減った。2026年1〜6月期は215億9400万元で、前年同期の241億1500万元を10.5%下回った。
同じ1〜6月期の営業キャッシュフローは約1312億元のプラスで、設備投資はその16.5%にとどまる。6月末の現預金は約1434億元と前年末の2.8倍になり、仕組み預金などの短期の運用資産も約206億元から約388億元に増えた。上場で調達した資金の払い込みは上場に先立つ7月22日 (オーバーアロットメント分は8月26日) で、6月末の残高には含まれない。2025年末の時点で、契約済みで未払いの設備などの購入額は約171億元あった。
上場の手取りは663億元、10月19日に装置費約306億元を含む投資計画を承認
主幹事の証券会社はグリーンシューオプション (需要に応じて発行株数を増やす権利) をすべて行使し、長鑫存儲の上場による手取り額は663億1000万元になった。目論見書で計画していた295億元の2.25倍で、差額の368億1000万元が、計画を上回って調達した資金になる。
計画していた295億元の内訳は、量産ラインの改良に75億元、DRAM技術の高度化に130億元、DRAMの先端技術の研究開発に90億元である。上場で調達した資金が届く前から自己資金で先に投じていた64億3300万元 (8月12日時点) は、9月28日の取締役会で、調達した資金を充てて穴埋めすると決めた。うち48億4700万元はDRAM技術の高度化の分だった。同じ取締役会は量産ラインの改良の内訳を見直し、装置の購入・据え付け費を46億6600万元から65億6600万元へ19億元増やす一方、無形資産への支出を25億元から6億元に減らした。同社は理由として、製品構成の見直しに合わせ、先々の需要を見込んで装置を前倒しで選んだことを挙げている。
取締役会は、計画を上回った368億元のうち180億元の使い道も決めた。130億元は、安徽省合肥市の量産拠点の中に置く研究開発拠点の建設計画 (総投資額241億元、建設期間30か月) に充てる。総投資額の92.9%にあたる223億9800万元を装置の購入に充てる。残る50億元は、DRAMの検査とモジュールの組み立てを担う検査拠点の第2期工事 (総投資額108億元、建設期間37か月) に回し、こちらも装置の購入・据え付け費が81億8000万元を占める。2つの計画の総投資額は計349億元で、うち180億元を計画を上回った調達資金で賄う。装置費は合わせて約306億元になる。計画を上回った資金のうち、残る約188億元の使い道は10月20日時点でまだ開示されていない。検査拠点を自前で増やす理由について、同社は、生産の拡大につれて外部の委託先では検査が追いつかなくなるおそれと、供給網の安定確保を挙げた。
2つの投資計画は10月19日の臨時株主総会で承認された。同社は、新しい設備の稼働率が予定どおりに上がらなければ、人件費や減価償却費、建物の維持費が業績の重荷になるリスクも挙げている。9月20日には、第5世代の製造プロセスで量産を始めたと発表した。翌21日の開示では、第5世代の製品はまだ本格的な販売に至っておらず、歩留まりを上げるには時間がかかるとしている。
東京エレクトロンの中国向け比率は年度で41.7%から34.1%に、KOKUSAIは中国メーカー向けの予想を39%引き上げ
長鑫存儲は目論見書で原材料の仕入れ先上位5社を「供給元A」のように匿名で載せ、半期報告書を含めて日本の装置メーカーや材料メーカーの名前は出てこない。日本企業との関係は、各社が開示する中国向けの売上高から推し量るしかない。
東京エレクトロンの決算説明資料によると、売上高に占める中国向けの比率は2024年3月期の44.4%から2025年3月期に41.7%、2026年3月期に34.1%へ下がった。中国向けの売上高は2025年3月期の1兆150億円から、2026年3月期は四半期の値の合計で8324億円と18.0%減った。2026年4〜6月期の中国向けは2229億円で前年同期より5.1%増えたが、売上高全体が33.3%増えたため、中国向けの比率は前年同期の38.6%から30.4%に下がった。直前の1〜3月期の26.8%からは3.6ポイント上がっている。同じ期に韓国向けは883億円から1524億円へ72.6%増えている。
| 東京エレクトロン | 中国向け売上高 | 売上高 | 中国向けの比率 |
|---|---|---|---|
| 2025年3月期 | 1兆150億円 | 2兆4,315億円 | 41.7% |
| 2026年3月期 | 8,324億円 | 2兆4,435億円 | 34.1% |
| 2026年4〜6月期 | 2,229億円 | 7,323億円 | 30.4% |
金額と比率は同社の決算説明資料の値で、2026年3月期の中国向けの金額だけは四半期の値を編集部が合計した。東京エレクトロンは4月30日の決算説明会で、2026年1〜3月期に中国向けの比率が26.8%に下がった理由を、先端向けの投資の伸びがより大きいためと説明した。7月30日の決算説明会では、2027年3月期の通期の中国向けの比率を30%台前半と想定し、2026年の前工程装置の世界市場を1500億ドル以上とみる。DRAM向けはその中で400億ドル台前半、2025年比30%以上の伸びを見込んだ。DRAM向けの装置投資は世界で伸びる見通しだが、同社の売上高に占める中国の比率は、年度で見ると下がっている。
中国のDRAMメーカー向けの動きを数字で示しているのはKOKUSAI ELECTRICである。同社は売上収益を、中国に本拠を置く半導体メーカー向け (以下、中国地場向け) とそれ以外に分けて開示している。中国地場向けの売上収益は2025年3月期の1050億円から2026年3月期は816億円へ22.3%減った。前期からの増減の内訳では、中国地場向けの装置のうちNAND向けが162億円増えた一方、DRAM向けが364億円減った。同社は減収の理由を、前期に集中した中国地場向けのDRAM向け装置の販売が落ち着いたためと説明している。この販売が多かった2025年3月期 (2024年4月〜25年3月) は、長鑫存儲の設備投資が最も多かった2024年と時期が重なる。ただし中国地場向けには長鑫存儲以外のメーカーも含まれる。
8月には見通しがさらに上向いた。KOKUSAI ELECTRICは5月の時点で、2027年3月期は中国地場向けのうちDRAM向けが前期比53%増えるものの、中国地場向けの比率は29%に下がると見込んでいた。8月6日の4〜6月期決算の発表で、通期の売上収益の予想を3400億円に引き上げた。中国地場向けの売上収益の予想は前回より39%引き上げ、主な理由にDRAM向け装置の需要拡大を挙げた。中国地場向けの売上収益は前期比37%増、編集部の計算で約1120億円となり、2025年3月期の1050億円を上回る見込みだ。中国地場向けの比率は33%になる見通しだ。4〜6月期の受注高は約1400億円で期初の想定を約670億円上回り、上振れが特に大きかったのは、中国地場向けのDRAMと、中国地場向けとそれ以外の両方のNAND向けだった。
それでも中国市場の伸びは全体に及ばない見通しだ。KOKUSAI ELECTRICは8月6日の決算説明会の質疑で、2026年の前工程装置市場の見通しを前年比15%増から25%以上の増加に引き上げたが、中国は5%程度の増加とみている。決算説明資料では、中国地場向けの比率は今後30%前後で推移すると予想した。同じ質疑では、中国のメーカーからは同社の生産にかかる期間に合わせて発注を受けており、中国地場向けの今期の売上収益が予想を大きく上回ることはないとも答えている。東京エレクトロンとKOKUSAI ELECTRICはどちらも長鑫存儲向けの売上高を開示しておらず、同社の発注と2社の売上高を直接結びつける数字はない。
米国防総省の中国軍事企業リストに子会社、禁輸リストには載らず
長鑫科技集団は目論見書と半期報告書で、米国防総省が2026年6月8日 (米国時間) に公表した「中国軍事企業」リスト (2021年度国防権限法の1260H条に基づく) に製造子会社の長鑫存儲技術が載ったと開示した。同社は通常の生産や事業の継続に大きな影響はないとする一方、関係国が短期間に規制をさらに強めれば供給網が不安定になるおそれがあるとも書いている。米官報で確かめると、この名前は2025年1月7日に掲載されたリストにも既にあり、6月10日に掲載されたリストにも載っている。長鑫存儲技術は8月28日、米国防総省などを相手取り、行政の決定の見直しを求める訴えを米コロンビア特別区連邦地裁に起こした (米連邦裁判所の訴訟記録を公開するコートリスナーで確認)。どの決定を争うのかは、訴訟記録の目録には示されていない。
このリストは、米国から輸出するときに商務省の許可が必要になる企業を並べたエンティティー・リスト (禁輸リスト) とは別のものである。編集部が10月20日時点の米政府の統合審査リスト (エンティティー・リストを含む12のリスト、2万6159件) で社名と別名を調べたところ、長鑫存儲や長鑫科技集団の名前は見当たらなかった。
長鑫存儲は1〜6月期だけで約776億元の純利益を上げたが、その間も設備投資は前年同期を下回り、現金が手元に積み上がった。7月の上場では663億元を手にした。9月と10月の決定で、量産ラインの装置費の19億元の積み増しと、装置費約306億元を含む2つの投資計画が固まった。KOKUSAI ELECTRICが8月に引き上げた中国地場向けの予想どおりに売上収益が伸びるかは、長鑫存儲の7〜9月期の四半期報告書に出る設備投資と、日本の2社の次の決算で確かめられる。NANDの長江存儲とのDRAM・NANDの相互参入は別の記事にまとめた。
※2026年10月20日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版の「2025年の赤字から2026年1〜3月期に黒字転換」を「2025年10〜12月期に黒字に転じ、2025年通年も黒字」に、「2025年1〜9月に59.8億元の純損失」を会社が開示した純損失約53億元に、「295億元の調達を目指す」を実際の手取り額663億1000万元に改めました。出所を確認できなかったDRAM契約価格の上昇率、AIサーバーのDRAM容量、科創板の調達額の順位、時価総額の観測、創業者の学歴、合肥市の政策、EUV露光装置とHBMに関する記述と、日本企業の社名を並べた段落は削除しました。
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