日本の対米投資で初めての半導体事業として、ニューヨーク州の新工場に約100億ドルを投じることで日米両政府が一致した。運営は米グローバルファウンドリーズが担う。経済産業省によると、東京エレクトロンなど日本企業が関心を示した。
対米投資で初めての半導体事業、ニューヨーク州の新工場に約100億ドル
経済産業省によると、日米両政府が一致したのは米国時間14日。場所はニューヨーク州で、事業総額は約100億ドル (約1.6兆円)。2026年内に着工する予定だ。将来、生産設備を増やせば、事業総額は最大約210億ドルまで拡大する可能性がある。つくるのは成熟品の半導体だ。経済産業省は用途として、自動車、産業機械、スマートフォン、AIデータセンターなどを挙げた。同省は今回の事業を「日米が協力して強靱なサプライチェーン (供給網) を作り上げるもの」と説明している。
経済産業省の発表には、運営会社の名前はない。米半導体受託製造大手のグローバルファウンドリーズ (GF) は同じ14日、米証券取引委員会に資料を提出した。それによると、GFはニューヨーク州マルタの拠点に新設する工場の運営を担う。資金の枠は最大210億ドルで、日本側が用意する。1つ目の工場には約100億ドルを投じ、直径300ミリのウエハーを使う。29年の稼働開始を見込み、本格稼働時の生産能力は年約90万枚とした。2つ目の工場をつくる場合は約100億ドルを追加で投じ、生産能力は1つ目とほぼ同じになるという。建設と関連産業で約2万7,000人、製造の専門職で1,000人超の雇用が生まれる。
GFは同じ発表で、米国政府との別の合意も明らかにした。米CHIPS法の補助金のうち9億5,500万ドルを、シリコンフォトニクス (光で信号を伝える半導体技術)、SiGe (シリコンゲルマニウム) の半導体、先端パッケージングに振り向ける。米商務省はGFの株式の約4%を取得する。
時事通信によると、赤沢亮正経済産業相は15日の記者会見で「AI時代における競争優位の確保に日米が協力して取り組んでいく上で大きな意義を有する」と述べた。報道各社は、2月の第1弾、3月の第2弾に続く第3弾と報じている。経済産業省は発表で「第3弾」とは呼ばず、初めての半導体事業と位置づけている。
これまでの6件のうち5件は、発電と原油の輸出の事業だった。2月の第1弾は、工業用の人工ダイヤモンド製造 (約6億ドル)、米国産原油の積み出し港 (約21億ドル)、オハイオ州のガス火力発電所 (約333億ドル) の3件で、合計約360億ドルだった。3月の第2弾は、小型原子炉 (SMR、最大400億ドル)、ペンシルベニア州 (最大170億ドル) とテキサス州 (最大160億ドル) のガス火力発電所の3件で、合計で最大730億ドルだった。
6件の事業総額は合計約1,090億ドル。今回の約100億ドルを加えると約1,190億ドルで、今回を上限の約210億ドルで数えると約1,300億ドルになる。事業総額には民間銀行の融資なども含まれ、日本が拠出する額とは一致しないため、比率は目安にとどまる。そのうえで日本が約束した5,500億ドルと比べると、それぞれ21.6%と23.6%にあたる (当サイトの計算)。
装置で東京エレクトロンとSCREEN、部素材で東京応化、購入でルネサスが関心
今回の発表で新たに分かったのは、関心を示した日本企業の名前だ。経済産業省は、製造装置で東京エレクトロンとSCREENホールディングス、部素材で東京応化工業、製品の購入でルネサスエレクトロニクスが関心を示しているとした。中小企業では、製造装置や部素材などでフジキン (大阪市) と草川精機 (京都市) の名前を挙げた。いずれも「関心を示している」との表現にとどまり、受注や購入の契約が決まったわけではない。GFの発表には、ルネサスエレクトロニクスの柴田英利社長と東京エレクトロンの河合利樹社長のほか、ラトニック商務長官、ニューヨーク州のホークル知事、米アップル、米ゼネラル・モーターズ (GM) などのコメントが載った。
日本企業の名前は、過去の案件でも挙がっていた。第1弾では、ガス火力発電所で東芝、日立製作所、三菱電機、ソフトバンクグループが、原油の積み出し港で商船三井、日本製鉄、JFEスチール、三井海洋開発が、人工ダイヤモンドの購入で旭ダイヤモンド工業とノリタケが挙がった。第2弾の小型原子炉では、経済産業省は日立GEベルノバニュークリアエナジー、IHI、日本製鋼所による納入に期待を示した。一方、第2弾の2つのガス火力発電所では日本企業の名前は挙がらなかった。
日米が2025年9月に交わした覚書は、可能な場合は日本企業を調達先に選ぶと定めている。2026年9月17日に今回の案件が報じられた段階では、日本企業からの調達があるかどうかは分からなかった。当サイトは9月の記事で、この点を注目点の1つに挙げていた。
9月の報道は2〜3兆円、1つ目の工場は約1.6兆円、上限は約210億ドル
9月17日の日本経済新聞の報道では、事業規模は2〜3兆円 (約130〜190億ドル) だった。今回の発表では、1つ目の工場が約100億ドル (約1.6兆円)、生産設備を増やした場合の上限が約210億ドルだった。報道の2〜3兆円は、1つ目の工場だけの約1.6兆円より大きく、上限の約210億ドルより小さい。GFの説明では2つの工場はそれぞれ約100億ドルで、合計は約200億ドルになる。上限の約210億ドルとの差にあたる約10億ドルの使い道は、経済産業省とGFのどちらの発表にも書かれていない。
運営を担うGFの規模と比べると、金額の大きさが分かる。GFが米証券取引委員会に提出した年次報告書によると、2025年の売上高は67億9,100万ドル、設備投資 (有形固定資産と無形資産の取得額) は7億2,200万ドルだった。1つ目の工場の約100億ドルは、2025年の設備投資の約13.9倍、売上高の約1.5倍にあたる (当サイトの計算)。
利益の配分は「みなし配分額」までは日米で折半、その後は米国が9割
資金の出し方と利益の配分は、日米の覚書で決めている。日本は2029年1月19日までに5,500億ドルを拠出する。投資先は投資委員会が推薦し、米大統領が決める。投資委員会の議長は米商務長官だ。投資から生じるキャッシュフロー (現金収支) は、「みなし配分額」に達するまで日米で半分ずつ分け (日本の分は米国の税を差し引いた後)、その後は米国が90%、日本が10%を受け取る。みなし配分額は、金利に相当する額と元本の返済に相当する額などを合わせたもので、元本の回収と同じではない。覚書に法的な拘束力はない。
これまでの案件では、国際協力銀行 (JBIC) が民間銀行と協調し、案件ごとに設けた米国法人に融資した。民間銀行の融資分には日本貿易保険 (NEXI) が保険を付けた。JBICが10月9日に発表したオハイオ州のガス火力発電所向けの協調融資は、総額約59億1,700万ドルだった。今回の半導体工場については、10月16日時点でJBICとNEXIの発表はない。
装置の搬入は2028年から、東京エレクトロンの北米向けの売上高比率は8.1%
GFの投資家向け説明会資料によると、建屋やインフラ、製造装置は、日米両政府が設ける特別目的事業体 (SPV) が資金を出して保有する。GFは技術を供与し、建設と運営を請け負う。技術料は2027年から少なくとも20年間受け取る。工場の資産はGFではなくSPVが持つため、約100億ドルはGFの設備投資には計上されず、装置の発注元もSPVになるとみられる。日程は、2027年に装置搬入の準備、28年に搬入開始、29年に最初のウエハーの生産を見込む。2つ目の工場は承認を待つ段階だ。
1つ目の工場の生産能力は年約90万枚で、GF全体の生産能力 (2025年末で年約280万枚) の約3分の1にあたる (当サイトの計算)。年次報告書によると、2025年の出荷は約230万枚 (300ミリウエハー換算) だった。
この工場の効果が日本企業の業績に表れるのは、早くても装置の搬入が始まる2028年からとみられる。東京エレクトロン、SCREEN、東京応化工業はいずれも、決算資料や有価証券報告書でGFを主要顧客として開示していない。この工場向けの販売は、各社の北米向けや米国向けの売上高に含まれる。東京エレクトロンの2026年4〜6月期の北米向け売上高は590億円で、売上高全体 (7,323億円) の8.1%を占めた。北米向けの売上高比率は26年3月期通期で6.8%、25年3月期は10.0%だった。SCREENの半導体製造装置事業では、4〜6月期の北米向けの売上高比率が16%だった。同社は27年3月期通期で15%を見込み、26年3月期の7%から上がる。東京応化工業の25年12月期の米国向け売上高は240億1,900万円で、売上高全体 (2,370億2,900万円) の10.1%を占めた。
| 会社 | 北米・米国向けの売上高比率 | 対象期間 |
|---|---|---|
| 東京エレクトロン | 8.1% | 2026年4〜6月期 (北米) |
| SCREENホールディングス | 16% | 2026年4〜6月期 (半導体製造装置、北米) |
| 東京応化工業 | 10.1% | 2025年12月期 (米国) |
出所: 各社の決算説明資料と有価証券報告書。
規模の目安として、当サイトが9月の記事で使った前提をそのまま当てはめる。事業総額のうち製造装置に充てる割合を50〜70%、そのうち日本の装置メーカーが受注する割合を20〜30%と仮定する。この前提で計算すると、1つ目の工場 (約1.6兆円) から日本の装置メーカーに回る額は1,600億〜3,360億円になる。日本半導体製造装置協会は7月、日本製半導体装置の販売額が2026年度に6兆5,502億円、27年度に7兆4,017億円、28年度に7兆7,718億円になると予測した。1,600億〜3,360億円は、26年度の販売額の2.4〜5.1%、搬入が始まる28年度の販売額の2.1〜4.3%にあたる。いずれも仮定を重ねた試算で、実際の発注額や日本勢の取り分は公表されていない。
購入に関心を示したルネサスエレクトロニクスは、すでにGFとの取引を広げている。両社は2026年2月、製造面の提携を数十億ドル規模に拡大すると発表し、生産はまず米国で始めるとした。柴田社長は今回、GFがニューヨーク州で増やす生産能力を、自社の生産体制の延長として計画に組み込むとコメントした。河合社長は、東京エレクトロンが長年にわたりGFの世界各地の工場で生産を支えてきたと述べた。各社の詳しい情報は、東京エレクトロン、SCREENホールディングス、東京応化工業、ルネサスエレクトロニクス、グローバルファウンドリーズの企業ページにまとめている。
日本企業の顔ぶれは分かったが関心の段階、効果は北米・米国向けの売上高比率で測る
今回の約100億ドルの案件は、日本の資金で建てる工場を日米両政府のSPVが保有し、運営をGFに任せる仕組みだ。経済産業省は、関心を示した企業として、装置の東京エレクトロンとSCREEN、部素材の東京応化工業、購入のルネサスエレクトロニクスを挙げた。9月の時点で分からなかった日本企業の顔ぶれは分かったが、いずれも関心の段階で、発注額や時期は公表されていない。装置の搬入が始まる2028年に向けて、装置と部素材の3社の北米・米国向けの売上高比率が上がるかどうかが、この案件の効果を測る最初の目安になる。
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