新潟県が長岡など3市に半導体と電子部品の産業を集める計画をまとめた。中核の7社には、TDKとその子会社、ウシオ電機の子会社などが名を連ねる。7社の一つ、ユニオンツールが増産に投じる額は、県が目標とする投資額の3分の1に当たる。

計画の名称は「電子機械・情報通信関連分野における地域産業クラスター計画」。2026年9月30日に首相官邸で開かれた「地域未来戦略に関する関係副大臣等会議」の第7回会合で、資料として公表された。政府は7月21日に閣議決定した「地域未来戦略」で、都道府県が地域の強みを生かした産業集積の計画を作り、国が交付金などで後押しする仕組みを設けた。国が計画を認定するわけではなく、内閣官房と経済産業省が要件を満たしているかを確認して公表する。9月30日は13県の18件が加わり、公表済みの地域産業クラスター計画は49件になった。新潟県の計画は、アニメ、食関連の2件と合わせて計3件だ。

県は設備投資の目標を2036年までの累計1,230億円としたが、公表した概要に内訳は示していない。ただ、県が「核となる事業者」に挙げた7社 (以下、中核7社) のうち、ユニオンツールが長岡工場で2026〜2028年に計画する投資は約416億円で、県の目標の3分の1に当たる。一方、製造品出荷額の目標は、年率に直すと1.8%の伸びにとどまる。

対象は長岡・柏崎・小千谷の7業種、出荷額の中心は機械

計画の対象は長岡市、柏崎市、小千谷市の3市。業種は金属製品、はん用機械器具 (ポンプや圧縮機など)、生産用機械器具、業務用機械器具、電子部品・デバイス、電気機械器具の製造業6業種と情報サービス業の計7業種だ。県は「微細加工技術を核とした半導体・電子部品クラスター」をつくり、企業と人材が集まる先端製造の拠点にするとしている。

総務省と経済産業省の2024年経済構造実態調査によると、3市の製造品出荷額は2023年に合計1兆414億円だった。このうち計画が対象とする製造業6業種は6,462億円で、62%を占める。小千谷市の電気機械器具は事業所が少なく数値が公表されていないため、この合計には入っていない。

業種長岡市柏崎市小千谷市3市の合計
生産用機械器具1,3891401821,710
業務用機械器具1,6126341,652
電気機械器具548408非公表956
金属製品4474705921
はん用機械器具91421199711
電子部品・デバイス3964110511
6業種の合計4,4831,4495306,462

(単位は億円。出所: 2024年経済構造実態調査 製造業事業所調査、2023年の実績。統計上の名称は製造品出荷額等。四捨五入のため、合計が一致しない場合がある)

県は「半導体・電子部品」を掲げるが、統計の電子部品・デバイスは511億円で、6業種の8%にとどまる。最も大きいのは生産用機械器具の1,710億円で、日本標準産業分類では半導体製造装置や機械工具の製造がここに入る。3市の出荷額を支えているのは機械だ。県は、地域の企業が持つ機械加工の技術を生かし、半導体や電子部品の需要を取り込む考えだ。

長岡市、柏崎市、小千谷市の製造品出荷額 (2023年)。計画が対象とする6業種のうち電子部品・デバイスは最も小さい
長岡市、柏崎市、小千谷市の製造品出荷額 (2023年)。計画が対象とする6業種のうち電子部品・デバイスは最も小さい

設備投資は累計1,230億円、出荷額は8年で15%増

県が掲げる目標は4つある。設備投資額は2036年までの累計で1,230億円、製造品出荷額は2023年から2031年にかけて15%増、付加価値額は同じ期間に20%増、育成する人材は2036年時点で680人とした。

国は都道府県向けの留意事項で、10年以内の目標を掲げたうえで5年間の計画を作るよう求めている。設備投資額は、計画を作った時点から目標年度までの累計も示す決まりだ。新潟県の計画に2031年と2036年の2つの目標年があるのは、この求めに沿ったためとみられる。

出荷額と付加価値の目標は伸び率だけで、基準となる2023年の金額は示されていない。編集部は3市の統計を使って金額に換算した。6業種の出荷額6,462億円を基準にすると、15%増は約970億円の上積みに相当する。付加価値は、統計の粗付加価値額 (出荷額から原材料費などを差し引いた額) 2,689億円を基準にした。20%増は約540億円だ。県がどの業種や地域の金額を基準にしたかは公表されておらず、この換算は目安にとどまる。

年率に直すと、出荷額は1.8%、付加価値は2.3%の伸びだ。基準は2023年で、計画が始まる2026年までの伸びも目標に含まれる。付加価値の目標を出荷額より高くしたのは、製品の付加価値を高めたいという県の考えの表れとみられる。県は6月16日に示した資料で、従業者1人当たりの付加価値額が全国平均を下回ると指摘していた。県全体の2023年の実績は、はん用、生産用、業務用を合わせた機械器具が1,118万円 (全国平均は1,360万円)、電子部品・デバイスが1,066万円 (同1,623万円) だった。

半導体や電子部品を対象とする計画は、ほかに8県が公表している。設備投資の目標は次の通りだ。

県計画の分野設備投資の目標期間
岩手県半導体約1兆2,720億円2036年まで
三重県半導体関連産業5,110億円2031年まで
福岡県半導体4,960億円2026〜2035年度
宮城県高度電子機械関連産業2,000億円以上2036年まで
新潟県電子機械・情報通信関連1,230億円2036年まで
山口県半導体関連産業877億円記載なし
山形県半導体500億円2036年まで
熊本県半導体・半導体ユーザー産業450億円2030年まで
岡山県半導体関連347億円2036年度まで

(出所: 地域未来戦略に関する関係副大臣等会議の第5回から第7回の資料。期間や対象の範囲は県によって異なる。複数の分野にまたがる岐阜県の計画は除いた)

新潟県の目標額は、9県の中で5番目に大きい。岩手県や三重県には大手半導体メーカーの工場があり、その投資が目標額を押し上げているとみられる。新潟県の中核7社に、メモリーなどの半導体を量産する企業は入っていない。

生産性向上、収益力強化、人材・用地確保の3本柱

県は目標の達成に向けた取り組みを3つの柱にまとめた。

1つ目は生産性の向上だ。工場の自動化で効率の高い生産体制をつくり、地域の企業が一体となって製品を供給できるようにする。県は省人化設備の導入を支援し、広域連携を強める検討会を設ける。

2つ目は「稼ぐ力」の強化だ。競争力の高い製品や技術を開発し、成長市場に進出して、大手企業のサプライチェーン (供給網) に加わる企業を増やす。県は研究機関やスタートアップとの共同研究を支援するほか、開発費用も支援の対象にする。公設の試験研究機関や起業支援施設の機能も拡充する。

3つ目は人材と用地の確保だ。専門性の高い人材を集め、デジタル技術を現場で使いこなす力を高める。産業界と大学が連携した専門講座や、データ活用とAIの導入を担う人材の育成講座を開き、工場用地も整備する。

生産性の向上で得た利益を新製品の開発に回し、半導体と電子部品の需要を取り込んで再び投資する。県はこうした循環を描いている。

計画には、大学と高等専門学校から長岡技術科学大学、新潟工科大学、長岡工業高等専門学校が、支援機関から新潟県工業技術総合研究所の中越技術支援センターと、にいがた産業創造機構のNICOテクノプラザが参加する。県の6月の資料によると、長岡技術科学大学には、電力の変換や制御を扱うパワーエレクトロニクスの研究室が5つあり、研究者は100人を超える。県は同じ資料で、雪の冷熱を使うデータセンターの立地も検討課題に挙げた。

中核7社、上場はユニオンツールとTDK

県は中核7社を、半導体関連、電子部品関連、加工・検査関連の3つに分けている。

区分会社3市の主な拠点主な製品上場・親会社
半導体関連アドテックエンジニアリング長岡事業所 (長岡市)プリント基板用の露光装置ウシオ電機の完全子会社
半導体関連サイカワ本社 (柏崎市)伸線機、ボンディングワイヤー製造装置非上場
半導体関連ユニオンツール長岡工場 (長岡市)プリント基板用ドリル東証プライム上場
電子部品関連TDKラムダ長岡テクニカルセンター (長岡市)産業機器向け電源TDKの完全子会社
電子部品関連TDK信濃川テクノ工場 (小千谷市、新設予定)センサー東証プライム上場
加工・検査関連アサヒプレシジョン本社 (長岡市)精密切削・研削部品非上場
加工・検査関連システムスクエア本社 (長岡市)X線検査機、金属検出機非上場

(出所: 新潟県の計画概要。拠点と製品は各社の公表資料から編集部がまとめた)

7社のうち上場企業はユニオンツールとTDKの2社。アドテックエンジニアリングはウシオ電機の、TDKラムダはTDKの完全子会社だ。ユニオンツールとウシオ電機、TDKの3社はいずれも東京に本社があり、長岡や小千谷を生産や開発の拠点と位置づける。非上場のサイカワは、金属線を細く引き延ばす伸線機や、ICチップの電極と端子をつなぐ極細の金属線 (ボンディングワイヤー) をつくる装置を手がける。

ユニオンツール、長岡工場に3年で約416億円

中核7社の中で、3市への投資額を最も詳しく開示しているのがユニオンツールだ。同社の主力はプリント基板に穴をあけるドリルで、世界シェアは約3割 (同社推計) で首位に立つ。長岡工場は高付加価値品の生産拠点で、543人が働く。生産設備も自社でつくっており、その製作と技術開発の大半を長岡工場が担う。

業績は急拡大している。2026年1〜6月期の連結決算は、売上高が前年同期比48.3%増の270億5,500万円、営業利益が81.4%増の75億9,500万円だった。同社は決算短信で、大手クラウド事業者によるAI向けの設備投資が拡大し、AIサーバーを中心にデータセンター向けの需要が大幅に増えたと説明している。AIサーバーには、配線を何層も重ねた基板や、半導体チップを載せるパッケージ基板が使われる。こうした基板には、層と層をつなぐ微細な穴を大量にあける必要がある。

発表日売上高予想営業利益予想
2月12日 (期初)450億円100億円
5月13日496億円130億円
8月6日561億円168億円

(出所: ユニオンツールの決算短信と業績予想の修正に関するお知らせ。2026年12月期の通期予想で、発表日はいずれも2026年)

同社は通期予想を2度引き上げた。8月の予想は売上高が前の期 (402億円) に比べ39.7%増、営業利益が92.5%増で、売上高は2023年12月期 (253億円) の2.2倍になる。

増産に向けた投資も膨らむ。同社は長岡工場に第六工場を建設している。投資額は62億円で、2027年6月に完成する予定だ。8月の決算説明会資料によると、同社は長岡工場の生産設備に2026年は115億円、2027年は119億円、2028年は120億円を投じる計画だ。ただ、資料の図は2028年の額だけを網掛けにして、他の2年と区別している。第六工場と合わせると、3年間で約416億円になる。資金には、4〜5月の自己株式の処分で得た約324億円などを充てる。

県の目標と比べると、416億円は累計1,230億円の34%、約3分の1に当たる。目標との差は約814億円だ。累計の起点を2026年と仮定して11年で割ると、県の目標は年112億円になる。ユニオンツールが長岡工場の生産設備に投じる額は、1社でこれに並ぶ。

概要には1,230億円の企業ごとの内訳がなく、ユニオンツールの投資が含まれているかどうかは分からない。国は留意事項で、設備投資の目標の決め方を2つ例示している。中核企業を中心に各社の投資計画を積み上げる方法と、過去の投資の傾向に政策の効果を上乗せした参考値を使う方法だ。新潟県がどちらを採ったかも、概要には書かれていない。仮にユニオンツールの計画が算入されているなら、目標の約3分の1を、県の計画の公表前に同社が決めていた投資が占める計算だ。ほかの6社については3市への投資額の公表を確認できず、全体のどこまでが決定済みの投資かは明らかでない。

出荷額の目標と比べても、同社の伸びは大きい。ユニオンツールの日本の売上高 (グループ内の取引を含む) は、2025年12月期に前の期比15.5%増の259億円、2026年1〜6月期は前年同期比41.5%増の173億円だった。2025年12月期の1年間の伸びは、県が出荷額について8年間で目指す伸び率と同じ水準だ。ただ、同社の日本の売上高は製造品出荷額とは定義が異なり、3市の外にある見附工場 (新潟県見附市) の分も含む。

新潟県の設備投資目標とユニオンツールが長岡工場で計画する投資。3年間の計画は目標の約3分の1に当たる
新潟県の設備投資目標とユニオンツールが長岡工場で計画する投資。3年間の計画は目標の約3分の1に当たる

TDKは小千谷にセンサー工場、ウシオ電機系は露光装置の需要増

TDKは6月1日、小千谷市に「TDK信濃川テクノ工場」を新設すると発表した。センサーを生産し、2029年上半期に稼働を始める予定だ。敷地面積は約17万3,000平方メートル。同社は、ロボットや自動化設備にAIを組み込むフィジカルAIが広がり、現実世界の情報を精度よく捉えるセンサーが一段と重要になるとみている。生産能力などの詳細は今後検討するとし、投資額は公表していない。県の6月の資料には、小千谷市に「大手電子部品メーカー進出予定地」があると記されていた。

子会社のTDKラムダは、工場の機械や半導体製造装置に組み込む電源を手がける。同社は2024年5月の発表で、国内の生産拠点は長岡テクニカルセンターだけだとしていた。TDKの推定では、産業機器向け電源の世界シェアは10〜15%で首位だ。TDKは2026年4〜6月期の決算説明で、産業機器向け電源は、半導体製造装置に使う製品などの需要が緩やかに回復し、増収増益になったと述べた。

アドテックエンジニアリングは、光を当てて基板に回路を焼き付ける露光装置のメーカーだ。原版を使わずに回路を直接描く方式の機種を、長岡事業所の4工場で生産している。親会社のウシオ電機によると、これまでに98社の230工場へ計1,000台以上を納めた。ウシオ電機は8月の決算説明で、この方式の装置について、AIサーバーに使う厚い基板向けの需要が増えていると説明した。一方、ウシオ電機の露光装置全体の売上高は、2026年3月期が272億円で前の期を6.4%下回った。同社は5月の決算説明で、この方式の装置は生産能力を増強して需要の増加に対応するとしていた。長岡事業所への投資額は公表していない。

投資の内訳と人材育成の対象は示されず

公表された概要からは分からない点が3つ残る。1つ目は設備投資の内訳だ。1,230億円のうち企業の投資と国や自治体の投資がそれぞれいくらかは示されていない。岡山県は半導体関連の計画で、総額347億円のうち国や自治体が19億円、民間が328億円と内訳を公表している。

2つ目は人材育成だ。680人が大学や高等専門学校の学生を指すのか、企業で働く人の学び直しを含むのかは書かれていない。3つ目は、出荷額と付加価値の基準となる金額だ。

国は計画の要件として、進み具合を測る指標と、指標を達成できなかった場合の撤退基準を定めるよう求めている。新潟県が設けた指標と基準は、公表された概要には載っていない。

一方、企業の日程は開示資料で確認できる。ユニオンツールの第六工場は2027年6月に完成し、TDKの信濃川テクノ工場は2029年上半期に稼働する予定だ。TDKが投資額と生産能力を公表すれば、県の目標に占める企業の投資の比率を改めて計算できる。

TDKの企業情報は企業データベースのTDKのページと銘柄ページに、ウシオ電機は銘柄ページに掲載している。国の半導体支援の全体像は政府の半導体支援5.6兆円の記事、半導体市場の見通しは東京エレクトロンとキオクシアの記事で扱った。

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