ティアフォーが主導する自動運転向けの無償ソフト「オートウェア」は、改良に加わった技術者600人の68%が同社と提携先のどちらにも属さない。ただ同社の売上高は国内向けが9割を超え、上位3者をアイサンテクノロジーと国の2機関が占める。

日本経済新聞は9月27日のコラムで、7月22日に東証グロース市場に上場したティアフォー(593A)を、オープンソースの自動運転ソフトで世界をリードする存在と評した。オープンソースとは、ソフトの設計図にあたるソースコードを公開し、誰でも自由に使い、改良し、配布できるようにする方式をいう。コラムによると、創業者の加藤真平最高経営責任者(CEO)は自動運転に3つの夢と魅力があるとし、1つ目に安全をはじめとする社会課題の解決を挙げる。人の運転には「ついうっかり」のヒューマンエラーがつきもので交通事故を招くが、システムは眠気や疲労、いら立ちとは無縁で、よそ見もしないという。

コラムを紹介する交流サイト(SNS)の投稿は、自動運転の開発の主役が企業単独から企業の枠を超えた連携へ移り、技術の流れも国境を越えて再編されていくと指摘した。本誌はティアフォーが上場に際して提出した訂正有価証券届出書と8月14日の決算資料、ソフトを管理する団体の会員名簿、ソフト開発の共有サイト「ギットハブ」で公開されているソースコードの記録を突き合わせ、開発の輪の広がりと同社の売り上げの中身を確かめた。

オートウェアの技術者600人の68%はティアフォーと提携先以外

オートウェアは2015年8月、加藤氏が中心となって名古屋大学の研究室で開発し、オープンソースとして公開した。ティアフォーは同年12月に名古屋市で設立された。2018年12月には同社が中心となり、ソフトの開発や標準化を担う国際的な業界団体「The Autoware Foundation」(AWF)を一般社団法人として立ち上げた。ソフトの知的財産権はAWFに帰属する。加藤氏は2018年から2025年4月までAWFの代表理事(理事長)を務め、現在はフェローの肩書を持つ。

届出書によると、2026年4月1日時点でソフトの開発にコードを提供した技術者は600人で、うち68.2%はティアフォーと提携先に属していない。AWFには企業、大学、研究機関、政府機関、非営利団体など100を超す組織が加わる。ギットハブの利用者による「スター」(お気に入りへの登録)の数は、届出書では同じ時点で1万1584件だった。本誌が9月28日に確認したところ、中核となるソースコードの公開先のスターは1万2096件で、直近の更新は9月25日だった。

公開されている自動運転のソフトは他にもある。中国の百度(バイドゥ)の「アポロ」はスターが2万6842件とオートウェアを上回るが、2026年4月16日を最後に更新がない。米コンマ・エーアイの「オープンパイロット」は6万3748件を集めるが、運転者が操作することを前提とした運転支援のソフトだ。ティアフォーは決算説明資料の注記でオートウェアを「世界最大級」としている。スターの数では他の2つに及ばないが、3つのうち無人運転向けで今も更新が続くのはオートウェアだけだ。

同社のシステムを載せた車の走行距離は、2026年3月までに累計約46万9000キロになった。同社は2024年10月、長野県塩尻市の一般道で、歩行者や他の車が行き交う中を最高時速35キロで走る「レベル4」の認可を全国で初めて取得した。レベル4は、特定の条件の下でシステムが運転のすべてを担う段階を指す。

オートウェアの技術者の構成とオープンソースの自動運転ソフトのスター数
オートウェアの技術者の構成とオープンソースの自動運転ソフトのスター数

図1 — オートウェアの開発に加わった技術者の構成と、オープンソースの自動運転ソフト3つのスター数(スター数は本誌が2026年9月28日に確認)

AWFの最上位会員23団体のうち日本企業はティアフォーだけ、中国勢は5社

会員名簿によると、最上位の「プレミアム会員」は23の企業・機関で、技術の方針を決める委員会で1票ずつ議決権を持つ。このほか企業・政府機関の会員が41、大学・非営利団体の会員が16あり、計80の会員とは別に提携団体が10、研究拠点が25ある。プレミアム会員23団体のうち日本企業はティアフォー1社にとどまる。中国からはエンジン大手のウェイチャイ・パワーなど5社が加わり、韓国のモライ、英アーム、米AMD、米アマゾン・ウェブ・サービス、独ベルトラント、台湾の工業技術研究院も名を連ねる。

企業・政府機関の会員には、日本からアイサンテクノロジー(4667)、イーソル(4420)、Kudan(4425)、マクニカ、日立産業制御ソリューションズ、Astemo、NTTデータMSEなどが加わる。中国からは華為技術(ファーウェイ)、ライダー(レーザーを使うセンサー)大手の禾賽科技(ヘサイ)や速騰聚創科技(ロボセンス)など6社が名を連ねる。大学・非営利団体の会員16団体のうち日本からは名古屋大学、東京大学、埼玉大学と自動車技術会が入っている。

誰でも使える仕組みは、ティアフォーにとって、もろ刃の剣でもある。国内外の競合も同じソフトを土台に自動運転車を開発できるからだ。同社は届出書の「事業等のリスク」で、AWFの方針によってソフトの利用に制約が生じた場合や、競合他社がオートウェアを活用する場合などに業績へ影響が出る可能性があるとした。同社はAWFにプレミアム会員の会費を払い、オートウェアの基本的な枠組みづくりなども外注している。

無償ソフトを土台に設計と開発の受託で稼ぐ、量産車1台ごとの使用料はまだ先

ティアフォーはソフトそのものではなく、それを土台にした設計と開発の受託で稼ぐ。届出書によると、同社はオートウェアを基盤にソフトとハードの標準的な構成(リファレンスデザイン)を作り、顧客の車種や用途に合わせた開発を受託して対価を得る。顧客の車両が量産に移れば、販売台数に応じた使用料(ロイヤルティー)を受け取る仕組みだ。協業する自動車メーカーと一次部品メーカーは、間接的に関わる企業や利用者を含めて2026年5月時点で18社あり、顧客の開発プロジェクトは6月末で13件だった。

2025年9月期の売上高は64億1000万円だった。部門別では「モビリティサービス」が22億6700万円(35.4%)を占めた。自動運転の仕組みを組み込んだ車両を主に提携先を通じて自治体や交通事業者に提供し、運行も支える事業だ。自動車メーカーなどの量産に向けた開発とライセンス供与を担う「デベロップメントサービス」は13億3000万円(20.8%)、技術支援や国の委託事業を含む「ソリューションサービス」は28億1200万円(43.9%)だった。届出書によると、デベロップメントサービスの収益は現在、検証や評価などプロジェクト単位の対価が中心で、量産車1台ごとの使用料が売り上げを支える段階には至っていない。

売上高は国内に偏っており、国内の顧客向けが9割を超える。主要な顧客はアイサンテクノロジー(12億7500万円)、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO、11億4300万円)、経済産業省(8億円)の3者で、3者向けの合計32億1800万円は売上高の50.2%を占める。国の2機関だけで30.3%になる。アイサンテクノロジーは自治体との調整や実証実験、車両販売を担う提携先で、上場前の株式総数(新株予約権を含む)の3.0%にあたる157万5000株を持つ株主でもある。届出書はアイサンテクノロジーへの依存を事業のリスクに挙げている。2025年10月〜2026年3月の上半期は、アイサンテクノロジー向けが12.7%、NEDO向けが6.4%、経済産業省向けが25.7%で、国の2機関で3割を超えた。

補助金への依存も続く。2025年10月〜2026年6月の売上高は51億7800万円、研究開発費は59億8900万円で、営業赤字は68億2600万円だった。売上高は前年同期比30.0%増え、営業赤字は5.3%縮小した。補助金収入36億6100万円で営業赤字の53.6%を補った。ただ補助金収入は一部の事業が終わったため8.5%減り、持ち分法による投資損失9億1800万円などの営業外費用も9億6100万円あった。経常損失は40億8700万円と、前年同期の35億7300万円から膨らんだ。同社は通期の業績予想を売上高84億8400万円(前期比32.4%増)、経常損失65億9300万円に据え置いた。上場時の収支と黒字化に必要な台数はティアフォー上場の記事で詳しく検証している。

ティアフォーの売上高の内訳と主要な顧客
ティアフォーの売上高の内訳と主要な顧客

図2 — ティアフォーの売上高(2025年9月期、64億1000万円)の内訳と主要な顧客(届出書・決算短信から本誌作成)

ティアフォーはバスと特殊用途車両を「先行逃げ切り型」、乗用車とタクシーを「後方追い上げ型」とする

ティアフォーは8月14日の決算説明資料で、車種ごとにどこへ力を注ぐかを示した。特殊用途車両とバス・シャトルは、同社がすでに高いシェアを持つ「先行逃げ切り型」とした。これに対し、トラック、タクシー、乗用車は「後方追い上げ型」と位置づけた。海外勢が多額の研究開発費を投じて市場で先行していると認め、「歴史に倣えば技術はいずれオープンソース化される」として、現時点では過度な投資を抑える。技術が汎用品になった段階で、バスなどで培ったノウハウを広げ、オートウェアを使って追い上げるとしている。

協業先には日本の大手が並ぶ。いすゞ自動車とは、大型電気バス「エルガEV」にオートウェアと米エヌビディアの自動運転車向けの基盤を組み合わせ、レベル4のバスを開発している。トヨタ自動車とは多目的の電気自動車「e-Palette(イーパレット)」の実用化と量産に向けたプロジェクトを進め、コマツとは世界での量産戦略を詰める。KDDIとは2030年までに累計1000台規模の商用導入を目指す協業で合意した。成田空港ではANAに採用され、羽田空港への展開も視野に入れる。資本業務提携はヤマハ発動機、KDDI、いすゞ、スズキ、東海旅客鉄道(JR東海)と結んでいる。

政府の目標も国内需要の追い風になる。同社の決算説明資料によると、国土交通省は自動運転の車両を2025年度の10台から2030年度に1万台へ増やす目標を掲げる。成長戦略会議の戦略分野分科会は2026年4月、2030年代に日本企業が世界の自動運転車販売の約25%を占める目標を示した。同社は米ピッツバーグで韓国・現代自動車の電気自動車を使った実証走行を始め、英国の実証実験場にも自動運転バスを持ち込んだ。ただ、海外はまだ売り上げの柱になっていない。

ティアフォーが示した車種ごとの戦略
ティアフォーが示した車種ごとの戦略

図3 — ティアフォーが決算説明資料で示した車種ごとの戦略と主な協業先

オートウェアの開発にはティアフォーや提携先に属さない技術者が多く加わり、AWFには中国勢を含む海外の有力企業が名を連ねる。一方、同社の売上高は国の2機関とアイサンテクノロジー向けの販売、自治体向けの事業に支えられ、乗用車では海外勢を追う側だと自ら認めて投資を抑えている。同社の収益を左右するのは、協業する国内メーカーの量産車で1台ごとの使用料をいつ受け取り始められるかだ。企業情報はティアフォーの企業ページに、開示はティアフォーの銘柄ページとアイサンテクノロジーの銘柄ページに、自動運転の技術は運転支援と自動運転の解説にまとめている。

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