決算の数字は良かった。1株利益3.56ドルは市場予想も非公式の期待値も上回り、売上高は44%増。それでも翌日に株価は13%下げ、日本のキオクシアも連れ安になった。数字が良くても売られる仕組みを分解する。

7月22日、米ウエスタンデジタル(ナスダック上場、証券コードWDC)の株価は1日で12.51%上げた。メモリ関連株の全面高、日本のキオクシアホールディングスとの経営統合交渉が再開したという観測、そして米国が中国製メモリへの規制を続けるという報道。3つが同じ日に重なった。分析者の目標株価は最高で900ドル、平均でも633.83ドル。市場の関心は、2週間後の決算発表へ移っていた。

その決算は、実際に予想を上回った。そして株価は翌日13%下げた。8月10日の終値は438.34ドルで、6月18日につけた746.23ドルからは41.3%安い。なぜ良い決算が株価を守れなかったのか。答えは、期待がどこに織り込まれるかという一点にある。ここが分かると、チャートの節目が何を教えて何を教えないのか、日本の投資家にとって誰が本当の当事者なのかも、同時に見えてくる。

先に、これから出てくる言葉の意味を確かめておきたい。

用語とは何か
HDDとは磁気の円盤を高速回転させ、磁気ヘッドで読み書きする記憶装置。機械部品を持つため遅いが、1テラバイトあたりの費用が最も安い
NAND型フラッシュメモリとは電気的に記録し、電源を切っても内容が消えない半導体メモリ。HDDより速く小型だが、容量あたりの費用は高い。SSDやスマートフォンの記憶部に使われる
ニアラインとはデータセンターで「すぐ使わないが、いつでも取り出したい」データを置く階層。大容量HDDの主戦場で、AIが生む巨大データの保管先になる
指数平滑移動平均(EMA)とは直近の値動きを重く見る形で平均した線。50日や100日など期間を変えて引き、価格がその上か下かで地合いを測る道具
相対力指数(RSI)とは一定期間の上昇幅と下落幅の比率を0〜100で表す指標。一般に70超で買われ過ぎ、30割れで売られ過ぎと読む
ウィスパーナンバーとは公表された分析者予想の平均とは別に、市場参加者の間で共有される「本当はこのくらい出るはず」という非公式の期待値

決算の前、市場は900ドルを見ていた

出来高は737万株にふくらんだ。株価は6月18日の746.23ドルから7月17日の477.22ドルまで36%下げており、この日はその反発の途中にあった。それでも年初来では2倍を超える上昇を保っている。

上げた理由は3つ挙げられた。モルガン・スタンレーとバンク・オブ・アメリカがマイクロン・テクノロジーに強気のリポートを出し、記憶装置とメモリ関連の地合いが改善したこと。キオクシアとの統合交渉が再開したという観測が流れたこと。そして米国が中国のメモリ企業への圧力を維持すると報じられ、供給環境が同社に有利に働くとみられたことである。

事業の裏づけも強かった。同社は2025年にサンディスクを分離し、HDDと企業向け記憶装置に特化した会社になっている。2026年のHDD生産は完売済みで、顧客とは2027年と2028年に及ぶ長期契約を結んでいた。直前の四半期も1株利益2.72ドルと、市場予想の2.39ドルを上回っている。

市場が次の四半期に見込んでいたのは1株利益3.32ドル、売上高37億ドル。実現すれば利益はほぼ倍増、売上高は42%増という水準だった。

テクニカル面では、株価は下降チャネルの上限に近づいていた。当面の抵抗は555.47ドル(100日EMAとチャネル上限が交わる位置)で、これを終値で超えれば594.43ドル、次に635.81ドルを試す。逆に525.49ドルを割り、50日EMAの519.17ドルを下抜ければ485.98ドルまで戻る、という読みである。RSIは60台で、買われ過ぎの水準には達していなかった。

数字は良かった。それでも株価は崩れた

決算の中身は、事前の期待を上回っていた。

項目市場予想実績前年同期比
1株利益3.29〜3.32ドル3.56ドル+109%
売上高36.9〜37.0億ドル37.5億ドル+44%
粗利率54.4%+13.10ポイント
出荷容量231エクサバイト+22%
クラウド向け売上高33億ドル(全体の89%)+43%

通期でも売上高は129億ドルで36%増、1株利益は10.22ドルと2倍以上になった。事前に指摘されていた「価格決定力」は、粗利率が13.10ポイント改善したことで裏づけられた。決算そのものに失望する要素は見当たらない。

にもかかわらず、株価は崩れた。8月5日の取引時間中には564.66ドルまで買われ、注目されていた抵抗555.47ドルを一度は上抜けている。だが終値は519.17ドルまで押し戻された。

翌8月6日は13.0%安の451.52ドル。取引時間中には407.48ドルまで売られている。事前の見立てが下値の目安に置いていた485.98ドルは、ものの1日で通過点になった。その後も戻りは鈍く、8月10日の終値は438.34ドルにとどまる。

7月22日の節目と、8月5日以降に実際に起きた値動き
7月22日の節目と、8月5日以降に実際に起きた値動き

株価に織り込まれた期待は、公表された予想より高い

好決算での下落を理解する鍵は、「予想」という言葉が3つの層を持つことにある。

最も外側にあるのが、証券会社の分析者が公表する予想の平均、いわゆるコンセンサスである。今回は1株利益3.29〜3.32ドル。その内側に、公表されないが市場参加者が共有する期待値、ウィスパーナンバーがある。今回は3.53ドル前後とされ、実績の3.56ドルはこれも上回った。そして最も内側にあり、最も強力なのが、株価そのものが織り込んでいる水準である。同社の株価は年初の187.70ドルから、決算直前には約3倍の水準にあった。この上昇は「並の上振れ」を前提として既に買われていたことを意味する。

売られた直接の引き金は、次期の見通しだった。示された売上高の範囲が市場予想をわずかに上回る程度にとどまり、3倍まで買い上げた投資家が求めていた水準に届かなかった。加えて、HDDの大容量化に不可欠な次世代の記録技術への投資が、当面の手元資金を圧迫するという見方が重なった。1株利益で予想を8%上回っても、見通しが「わずかに上回る」でしかなければ、織り込みとの差は埋まらない。

この構造は、8月上旬の日本市場でも別の形で観察できた。住友金属鉱山が通期予想を55%引き上げた8月10日、株価は11.8%高で反応している。同社の新しい会社予想は市場予想を6.7%上回っており、株価に織り込まれていた水準を超えたためだ。同じ「予想超え」でも、株価が既にどこまで買われていたかによって、反応は正反対になる。決算またぎの判断で見るべきは、会社の旧予想でも公表コンセンサスでもなく、株価が既に織り込んでいる水準との距離である。

好決算で下がる仕組み ― 期待は3つの層に分かれている
好決算で下がる仕組み ― 期待は3つの層に分かれている

チャートの節目は当たり、方向は外れた

今回の一連は、テクニカル分析に何ができて何ができないかを、同じ画面の上で見せた。

事前に置かれた目盛りは、機能した。上値では555.47ドルが実際に上抜けを許さない壁として働き、取引時間中に564.66ドルまで買われながら終値で押し戻された。下値では、525.49ドルと519.17ドルを割り込んだ後に急落が加速するという道筋が、そのまま再現されている。価格がどの水準で反応するかという意味で、目盛りは役に立った。

一方で、目盛りは肝心なことを教えなかった。上へ抜けるのか下へ崩れるのかという方向である。RSIが60台で買われ過ぎではないという読みは、その後の4割超の下落を防がなかった。理由は指標の作りにある。EMAもRSIも、過去の価格から計算される。決算の中身も、次期見通しの水準も、投資家が3倍まで買い上げていたという事実も、計算式には入っていない。移動平均の期間を50日にするか100日にするかにも理論的な根拠はなく、多くの参加者が同じ期間を見ているために意識される、という自己成就的な性格を持つ。

実務的な含意は明快で、テクニカルの目盛りは「価格がどこで反応しやすいか」という地図であって、方向を決める羅針盤ではない。決算発表という、地図の外にある情報が入ってくる日には、地図は一瞬で書き換えられる。決算日をまたいで持つかどうかは、チャートではなく、織り込み水準の見立てで決めるべき判断である。

キオクシアは9.6倍まで駆け上がり、そこから半値以下になった

この一件を日本の視点に移すと、当事者が入れ替わる。

キオクシアホールディングス(証券コード285A)の値動きは、ウエスタンデジタルよりはるかに激しい。年初の11,350円から6月22日には108,700円まで、半年で9.6倍に駆け上がった。

そこからの下げも急だった。8月10日の終値は48,010円。6月の高値からは55.8%安で、ウエスタンデジタルの41.3%を大きく上回る。年初来では依然として3倍を超える水準にあるが、高値をつかんだ投資家の含み損は半分を超えている。

決算翌日の動きは、この銘柄の立ち位置をよく表している。8月5日に54,300円だった株価は、6日に48,740円へ10.2%下げた。米国企業の決算発表が、日本市場の1銘柄を1日で1割動かしたことになる。

同じメモリでも、反応には差が出た。マイクロン・テクノロジーは8月4日から10日にかけて3.5%安にとどまり、記憶装置に近いサンディスクは13.3%安、キオクシアは10%超の下落となっている。DRAMと広帯域メモリを主軸とする企業と、NAND型フラッシュメモリと記憶装置を主軸とする企業とで、投資家の見方が分かれた。「メモリ株」という一括りでは、この差は捉えられない。同じ言葉で語られる企業がどこで違うのかは、製品の構成まで降りないと見えてこない。弊誌の企業データベースではキオクシアマイクロンを個別に収録している。

統合を止めているのは、競合企業が握る拒否権

株価を動かした「統合交渉の再開」という材料についても、構造を押さえておく必要がある。この話は今回が初めてではない。

キオクシアは2018年、米ベインキャピタルが主導する企業連合が東芝からメモリ事業を買い取って発足した。この時、韓国のSKハイニックスは3,950億円を拠出し、最大15%の株式に転換できる社債を保有する立場に就いた。そして統合の前提条件として、SKハイニックスの同意が必要という取り決めが置かれている。ウエスタンデジタルとの経営統合は2021年から2023年にかけて交渉されたが、2023年10月、SKハイニックスがキオクシアへの投資価値への影響を理由に同意しなかったことで破談した。

ここに、あまり語られない構造がある。SKハイニックスはNAND型フラッシュメモリの主要な競合企業である。統合が実現すれば、両社を合わせたNANDの世界シェアは34%を超え、サムスン電子を抜いて首位に立つ。つまり競合企業が、自社を上回る規模の会社が生まれる取引に拒否権を握っている。この構造が変わらない限り、交渉再開の観測は何度でも流れ、そのたびに株価は反応し、そして同じ壁の前で止まる。5年間で繰り返されてきたのはその往復である。統合の話を材料として扱うなら、交渉が始まったかどうかではなく、拒否権を持つ側の投資回収の見通しが変わったかどうかを見るのが筋になる。

HDDが売れて稼ぐのは、日本の部品メーカーである

最後に、この会社が何を売っているのかという土台に戻る。ここが投資判断の芯にあたる。

HDDは磁気の円盤を回す機械であり、半導体メモリより古い技術である。それでもAIデータセンターで需要が伸びているのは、1テラバイトあたりの費用が最も安いからだ。AIの学習と運用は膨大なデータを生むが、その大半は「すぐには使わないが、消すわけにもいかない」種類のものである。この階層をNAND型フラッシュメモリで埋めれば費用が跳ね上がる。同社の第4四半期の出荷が231エクサバイト、売上高の89%がクラウド向けという構成は、AI投資の増加がそのままHDDの出荷量に変換されている状態を示す。国内のデータセンターの新設が続く日本でも、同じ階層構造の需要が立ち上がっている。

容量を増やす手段が、レーザーで記録面を局所的に加熱してから磁化する熱アシスト磁気記録(HAMR)である。加熱により、より小さな領域へ安定して書き込めるようになる。ウエスタンデジタルは2026年末に36テラバイト超、2027年末に44テラバイトの製品を計画し、シーゲイトは2026年に50テラバイト、2030年に100テラバイトという道筋を示している。決算後に株価を圧迫した「投資負担」とは、この移行に必要な費用のことだ。技術の転換期には、将来の競争力への支出が、目先の手元資金を減らす形で現れる。

日本の投資家にとって実務的なのは、HDDが売れると誰が稼ぐのかという問いである。円盤を回すスピンドルモーターはニデック(6594)、読み書きする磁気ヘッドはTDK(6762)。記録面となるガラス基板ではHOYA(7741)、アルミ製の記録媒体ではレゾナック(4004)が、それぞれ世界の主要な供給者に名を連ねる。完成品のHDDを作る会社は米国とシンガポールに本社を置くが、その中身の主要部品は日本製である。ウエスタンデジタルの株価が4割下げても、HDDの出荷容量が22%増えているという事実の側に賭けるなら、投資対象は完成品メーカーではなく部品の供給者になる。半導体産業の体系解説で扱った構図と同じく、完成品の値動きと、その中で不可欠な部品を握る企業の収益は、別々に動く。

決算で予想を上回った会社の株が4割下げ、その部品を作る会社の需要は増え続けている。この非対称を読み違えないことが、記憶装置という主題を投資に翻訳する最初の作業になる。