AIデータセンター用12キロワット電源の内部を、開発元の93ページの技術文書から部品単位で解剖する。3つの材料の使い分け、開閉周波数を4倍に見せる回路、電力密度を2倍にした特許回路までを実測値で追う。
電源装置は、性能表の一番下に書かれる部品である。演算装置の型番は語られても、それに電気を送る箱の中身が記事になることはまずない。ところが今のAIデータセンターでは、この箱が律速になっている。演算機を1台増やすには、その電力を作って運ぶ経路を先に用意しなければならず、床面積でも冷却でもなく「棚に何キロワット詰められるか」が拡張速度を決めているからだ。
2025年11月30日、インフィニオン テクノロジーズが93ページの技術文書を公開した。管理番号AN133110、対象はREF12KWHFHD_PSUという型番の電源リファレンスデザインである。入力は単相交流180〜305ボルト、出力は直流49〜50ボルトで12キロワット。寸法は40×68×640ミリメートル、電力密度は1立方インチあたり113ワット。この1本の筐体に、炭化ケイ素16個・窒化ガリウム104個・シリコン13個、合計133個の電力用半導体が詰まっている。本稿はその文書と実測値から、なぜこの構成になったのかを部品単位で追う。半導体商社の資料にも技術系の報道にも出てこない、設計上の妥協と、その妥協が生む商流の話まで含めて解剖する。
3つの材料を1台に混ぜる、という判断
半導体の材料選択は、しばしば「シリコンから炭化ケイ素へ」「次は窒化ガリウムへ」という直線的な世代交代として語られる。この電源は、その語り方が現場では成立していないことを示している。
入口に近い高電圧・大電流の領域には炭化ケイ素を置いた。力率改善回路の高周波脚に650ボルト第2世代の10ミリオーム品を8個、低周波の整流脚に7ミリオーム品を4個。合わせて12個で、後述のエネルギーバッファ回路にさらに33ミリオーム品を4個使う。絶縁をまたぐ高周波の領域には窒化ガリウムを置いた。LLC共振回路の1次側フルブリッジに650ボルト25ミリオームのIGT65R025D2を8個、2次側の同期整流にIGC016K10S2を96個。シリコンは、動きの遅い保護と切り替えに残った。静止スイッチと突入電流制限に600ボルトのIPT60R016CM8を3個、出力の逆流防止に80ボルト品を10個である。
対象記事は力率改善段について「使用する8個のFETをフルSiC化」と記しているが、技術文書の部品一覧に照らすと、この8個は高周波の3レベル脚に限った数字になる。整流脚の4個を含めれば力率改善段だけで12個、エネルギーバッファまで数えれば炭化ケイ素は16個である。同じく「104個をGaN FET化」は文書の記載と完全に一致する。1次側8個と2次側96個で104個、そのうち1次側にIGT65R025D2が使われるという対応関係も、そのとおりだ。
材料を混ぜる理由は単純で、どれか1つが万能ではないからである。炭化ケイ素は高い電圧を低い損失で切れるが、単価が高く、超高周波では窒化ガリウムに劣る。窒化ガリウムは開閉が速く容量が小さいが、耐圧と電流容量の点で大電流の入口には向かない。シリコンは遅いが安く、まれにしか動かない用途では性能差が金額差を上回らない。この配分そのものが設計の中身であり、材料の名前ではない。
毎秒3万2,500回の開閉で、13万回分の波形を作る
力率改善段の中身は、実務者が読むと二度見する数字を含んでいる。素子1個あたりの開閉周波数は32.5キロヘルツしかない。数百キロヘルツで動く最新の電源と比べれば、いかにも遅い。
からくりは2段の周波数逓倍にある。3レベルフライングキャパシタ方式では、1つの脚に4個の素子が縦に並び、外側の対と内側の対を位相シフト方式で半周期ずらして駆動する。すると、スイッチング節点の電圧が1周期に2回動く。インダクタから見た実効周波数は開閉周波数の2倍、65キロヘルツになる。そのうえで同じ構造の脚をもう1組置き、駆動信号を4分の1周期ずらして並列に動かす。2つの脚のリプル電流が互いを打ち消し、変換器全体としては130キロヘルツで動いているのと変わらない波形が出る。
開閉損失は周波数にほぼ比例して増える。だから開閉自体は遅いまま据え置き、波形の見かけの速さだけを4倍にする。この一手で、インダクタは109マイクロヘンリー・27ターンまで小さくなった。磁心には韓国のChang Sungの高磁束ダスト磁心を2個重ねている。環状の磁心を選んだ理由も文書に書かれていて、漏れ磁束を構造の中に閉じ込め、近くのホール素子や磁気抵抗式の電流検出を乱さないためである。同時に、ステンレスの筐体に渦電流が流れるのも抑えられる。
もう1つの効き目が電圧の分担だ。中間の直流電圧は445ボルト。2レベル構成なら素子1個がこれを丸ごと受けるが、3レベルでは飛び越しコンデンサが半分を持つので、素子1個あたりは222.5ボルトで済む。耐圧の低い素子ほどオン抵抗も出力容量も小さく、導通損と開閉損が同時に下がる。
ここに、あまり報じられない代償がある。222.5ボルトしかかからないはずの回路に、なぜ650ボルト耐圧の素子を使っているのか。文書は理由を明記している。容積の制約から飛び越しコンデンサの容量を十分に取れず、入力電圧が急に落ちる過渡では電圧の釣り合いが崩れて、片側の素子に想定を超える電圧が乗る。だから耐圧に余裕を持たせた。そのうえで「寸法の要求が緩めば容量を増やせ、第2世代の400ボルト品を選べる」と書き添えてある。余裕は容積で買っている、という設計者の自己申告だ。この一文は、電力密度113ワットという数字が何を犠牲にして成立しているかを最も正直に語っている。
445ボルトを49.4ボルトへ ― 巻数比18対2の由来
後段の絶縁変換はフルブリッジLLC共振方式で、対象記事の言う「絶縁トランスを直列化して高電圧対応」が実装の核心にあたる。正確には、9対2の平面トランスを2個用意し、1次巻線を直列に、2次側のブリッジを並列に接続する。この構成は入力直列・出力並列、略してISOPと呼ばれる。
巻数比が18対2である理由は逆算で出る。中間直流445ボルトを9で割ると49.4ボルト。出力の公称値49〜50ボルトにちょうど収まる。先に巻数比を決めたのではなく、力率改善段が作る母線電圧と負荷が求める電圧の比が18対2を決め、それを9対2の2個に割ったうえで筐体の高さ40ミリメートルに押し込んだ、という順序になる。実際の磁性構造の高さは37ミリメートルで、主基板には切り欠きを設けて沈めている。
1次を直列にする効能は、電流の釣り合いが自動的に取れることだ。同じ励磁電流が両方のトランスを通るため、2個の出力電流が自然に揃う。制御で釣り合わせる回路が要らない。2次を並列にする効能は熱の分散である。12キロワットを50ボルトで出せば240アンペア。1個のトランスで受ければ巻線も整流素子も240アンペア級の設計になるが、2個に割れば120アンペア、さらに2次側基板を12枚に分けると1枚あたり20アンペアまで下がる。銅の断面積が現実的な寸法に収まる。
同期整流に96個も並べる理由も、性能ではなく面積である。100ボルトで1.6ミリオームという素子でも、240アンペアを1組で受ければ発熱が一点に集中して基板が焼ける。1か所あたり2個並列を4か所、それを12枚の基板に分散して初めて放熱が成立する。部品点数の多さは未熟さの印ではなく、電力密度という制約から逆算された結果だ。
この段でもう1つ、教科書に載りにくい逆説が使われている。平面磁性で巻数を稼ぐと1次インダクタンスが上がりすぎ、励磁電流が不足して1次側の零電圧開閉が成立しなくなる。零電圧開閉が崩れれば、窒化ガリウムを使う意味の半分が消える。そこで磁心の上にリッツ線を8ターン重ねて1次巻線と並列に入れ、励磁インダクタンスを意図的に下げている。リッツ線は50マイクロメートルの素線を300本束ねたものだ。効率を上げるために、わざと磁気を漏らす。1次と2次の巻線基板の間にはカプトンの薄膜とFR4のリングを挟み、巻線間容量を減らして伝導雑音と零電圧開閉の両方を助けている。磁心はPQ40、材質は中国DMEGCのDMR59。共振インダクタは別部品で、PQ35磁心を使い1.65マイクロヘンリー、2つに分けて磁束が中央で打ち消し合う向きに巻いてある。
電力密度を2倍にした本当の主役は、脇に置かれた昇降圧回路
寸法と効率の数字だけを見ると、この電源の主役は3レベル回路と窒化ガリウムに見える。実際に電力密度を旧規格の2倍以上へ押し上げたのは、直流母線の脇に置かれた小さな双方向昇降圧回路だった。開発元はこれをエネルギーバッファと呼ぶ。
解くべき問題は、規格が定める20ミリ秒の保持時間である。交流が20ミリ秒消えても出力を維持しろ、という要求を素直に守るなら、電解コンデンサを大量に積むしかない。しかもLLC共振回路は調整できる入力電圧の幅が狭いため、コンデンサを深くまで放電できない。蓄えた電気のうち使えるのは一部だけで、結果として容量は必要量の何倍にも膨らみ、容積を食い尽くす。文書は「保持時間の要求は、電力密度の観点から最も影響が大きい」と書き、公平な比較には全機種で保持時間を満たしていることが前提だ、と釘を刺している。競合の電力密度と並べるときに真っ先に確認すべき条件がここにある。
この回路の巧妙さは、平常時には動かないことにある。静止スイッチが閉じてバルクコンデンサを母線に直結しているため、電流は昇降圧回路を通らない。変換段を1つ増やしたのに平常時の効率が落ちないのは、そのためだ。交流が失われると静止スイッチが開き、昇降圧回路が起動する。コンデンサ側の電圧を低いところまで搾り取りながら、昇圧して母線電圧を一定に保つ。同じ容量から取り出せるエネルギーが増え、必要な容量が減る。
同じ回路が、まったく別の役目も担う。学習処理の負荷は数ミリ秒単位で跳ねる。それがそのまま系統へ伝わると受電設備と力率が荒れるため、過渡の間だけ系統から引く電力に上限を設け、不足分をバルクから出す。落ち着いた後、母線経由でゆっくり充電し直す。電源装置が施設側の設備を守る緩衝材として働く構造で、この機能はデータセンター用電源に固有の要求である。回路構成と、データセンター向けの運用方法は開発元が特許を押さえた。模倣が最も難しい部分は、素子でも磁性部品でもなく、この制御にある。
副作用も文書は隠していない。静止スイッチを開いている間、バルクコンデンサは母線から切り離されている。この状態で雷サージが入ると、エネルギーを吸う相手が居ない。避雷素子と放電管と入力フィルタだけでは素子の耐圧を守れず、規格が求める2キロボルトの試験に通らなかった。そこで240マイクロファラッド・475ボルトの電解コンデンサと突入制限回路を別基板で追加している。新機能が新しい弱点を作り、その始末に部品が増える。設計とはそういう積み上げだ、ということが1つの節から読み取れる。
実測値をどう読むか ― 97.8%という数字の条件
公表されている効率は、230ボルト入力でピーク97.8パーセント、負荷率30〜100パーセントの範囲で最低96.5パーセント。277ボルト入力ではピーク97.95パーセントまで上がる。旧規格が求める水準はピーク97.5パーセント、最低96.5パーセントなので、余裕をもって上回っている。
読み方で注意が要るのは3点ある。第一に、この数字は冷却ファンの消費電力を含み、筐体に収めた状態での実測値である。段単体の効率だけを並べる資料と直接は比較できない。第二に、全出力12キロワットを出せるのは入力208ボルト以上で、180ボルトでは11キロワットに制限される。208ボルトまで直線的に低減する仕様だ。第三に、段ごとの効率は力率改善段が99パーセント超、絶縁段が98.5パーセント超と公表されているが、両者の積は97.5パーセント前後になる。全体で97.8パーセントが出ているのは、段単体の測定条件と全体の測定条件が違うためで、掛け算で検算すると合わない。数字の出所を確認せずに他社と比べると、この差で判断を誤る。
過渡応答の数字は、規格の要求をかなり引き離している。毎マイクロ秒5アンペアの速さで負荷を10パーセントから100パーセントへ振ったとき、出力電圧の変動は0.12ボルト以下。規格の許容は0.5ボルトなので4分の1に収まる。整定時間も1ミリ秒以下で、許容の3ミリ秒に対して3分の1だ。演算装置の消費電力が瞬時に跳ねる用途を想定した設計であることが、この2つの数字に表れている。保護の設定値も具体的で、出力の過電流は500アンペア、過電圧は58ボルト、不足電圧は38ボルト、LLC1次側の共振電流は150アンペア。いずれも5回の再起動を試みたうえで停止する。
伝導雑音の試験には、実務でそのまま使える知見が含まれている。入力のコモンモードチョークに使う磁性材を変えると、抑えられる周波数帯が動く。透磁率の高い材料を両方に使うと低い周波数側は落ちるが、LLC段の動作周波数帯の減衰が足りない。逆の材料では130キロヘルツ付近の側波帯が規格線をわずかに超える。最終的に選ばれたのは、系統側と変換器側で異なる材料を組み合わせる構成だった。磁性材の選定が2つの変換段の周波数を同時に相手にする、という設計上の板挟みがここに見える。
設計図を無料で配ると、部品の指名買いが起きる
技術の話をここまで詳しく書けるのは、開発元が回路図・部品表・磁性部品の巻数・基板の層構成・実測波形まで93ページに載せて公開しているからだ。この気前の良さには、はっきりした商売の設計がある。
受託電源メーカーがこの文書を写せば、12キロワット級の設計期間を数か月縮められる。その代わり、133個の半導体は型番ごと指定される。駆動IC、マイコン、電流検出まで自社品で埋めてあるため、1台あたりの取り分は素子単価の合計を超える。設計図は無償で配り、利益は部品で回収する。電源設計の主導権が電源メーカーから半導体メーカーへ移る仕組みが、この文書そのものである。
規格の側も、需要の階段を用意している。旧来の5.5キロワット電源の電力密度は1立方インチあたり48ワット。この12キロワット機は113ワットで、2倍を超える。電源棚の仕様は33キロワットから72キロワットへ更新されており、12キロワット機を6台と予備1台で構成する形が想定されている。棚の容量が倍になるたび、電源1台に求められる出力も倍になる。
開発元の事業規模で見ると、2025年9月期の売上高は146億6,200万ユーロ、部門利益率17.5パーセント。AIデータセンター向けは2026年9月期に約15億ユーロ、2027年9月期に約25億ユーロを計画し、この目標は2025年11月に引き上げられた。設備投資枠も5億ユーロ積み増している。全社売上に対する比率で見れば1割前後だが、伸び率では他のどの用途も及ばない。
この部品表を国籍で塗り分けると見えるもの
日本の読者にとって最も直視すべき事実は、133個の電力用半導体すべてがドイツの1社の製品で、日本勢の採用がゼロだという点である。ロームやルネサスエレクトロニクスを含む国内勢は炭化ケイ素でも窒化ガリウムでも製品を持つが、この部品表には入っていない。
磁性部品も国外だ。力率改善段とエネルギーバッファのインダクタに使うダスト磁心は韓国のChang Sung、トランスと共振インダクタのフェライトは中国のDMEGC。かつて日本勢が圧倒的だった磁心の領域が、この設計では東アジアの他国に置き換わっている。
日本勢が確実に残っているのはアルミ電解コンデンサである。中間直流母線のバルクコンデンサは680マイクロファラッドを7本、サージ対策の追加基板に240マイクロファラッドを1本。EPCOSブランドの製品が使われており、EPCOSは2008年からTDKグループに属する。この分野は日本ケミコン・ニチコン・ルビコン・TDKで上位が固まり、上位5社で市場の過半という集中度にある。高圧・大容量・長寿命という条件が重なる直流母線用は、置き換えが難しい領域として残った。
構図を単純化すれば、価値の源泉である半導体はドイツ、体積を決める磁心は韓国と中国、そして日本の取り分は受動部品に閉じつつある。半導体の材料転換に議論が集中している間に、磁心という地味な部品で足元が動いていた、というのが本稿の見立てである。国内の電源設計者にとっては、この部品表が自社の調達先といくつ重なるかを数えることが、そのまま競争力の点検になる。
数年で不要になる可能性を織り込んだ製品
もう1つ、この電源を評価するときに落とせない前提がある。2025年5月に公表された800ボルト高圧直流の構想では、交流から直流への変換を電源棚ではなく施設側へ集約する。棚に電源ユニットを並べる形そのものが変わり、この12キロワット機のような装置は役目を終える。半導体側にドイツ・伊仏・米の3社、電源機器側に台湾勢、施設側に米欧の重電勢が並ぶ布陣が発表されており、主要な役割に日本企業の名前は無い。
12キロワット機は、その移行までの数年を埋める製品でもある。技術の完成度と、その技術が使われる規格の寿命は別の時計で動く。113ワットという電力密度を達成した設計が、5年後に骨董品になっている可能性を開発元自身が織り込んでいて、だからこそ設計図を惜しみなく配って早期の普及を取りに行く。無償公開の気前の良さは、余裕ではなく時間との競争から来ている。
データセンターの電力設備を上位25社まで並べた別稿や、受電口から筐体までの物理を追った記事、供給網を7層に分けて納期を数えた分析と合わせると、この1本の筐体が電力の連鎖のどこに位置するかが立体で見える。国内の半導体関連企業とデータセンター施設の一覧は弊誌のデータベースに整理してある。
技術文書の末尾には、この設計の限界も淡々と記されている。飛び越しコンデンサの容量は容積で妥協した。サージ対策は後付けで足した。伝導雑音は磁性材の組み合わせでようやく規格線に収めた。効率97.8パーセントという見出しの数字の裏には、こうした妥協が層になって積まれている。設計とは制約の配分であって、性能の追求ではない。133個という部品点数は、その配分の記録そのものだ。
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