中国語の報道は、幹部5人が税を払うために16万株を売ったと伝えた。米証券取引委員会に提出された5人分の報告書を突き合わせると、この16万株は1株も市場で売られていない。報告書に載らない数字も、脚注を足せば割り出せる。

米国では、上場企業の役員が自社株を売買すると、2営業日以内に米証券取引委員会へ報告書を出さなければならない。報告書に記されるのは、取引の日付と株数、それに取引の区分を示す記号である。同じ「手放した」でも、区分が違えば意味はまったく異なる。9月18日に提出された5人分の報告書は、この区別を確かめるのにちょうどよい例である。

エヌビディア幹部が納税のために差し引かれた16万153株は、市場で売られていない

5人分の報告書は、いずれも取引日が2026年9月16日で、取引の区分を示す記号もすべてFである。株数は最も多いジェンスン・ファン最高経営責任者の4万5,728株から、最も少ない会計責任者ガウェル氏の2,932株まで開きがあり、合計すると16万153株になる。

対象者役職 (報告書の記載)差し引かれた株数
ジェンスン・ファン社長兼最高経営責任者4万5,728株
コレット・クレス副社長兼最高財務責任者4万747株
ティモシー・テター副社長兼法務責任者3万5,738株
デボラ・ショキスト業務担当副社長3万5,008株
スコット・ガウェル会計責任者2,932株
合計16万153株

記号Fの意味は、5人分すべてに付いた同じ脚注で確かめられる。脚注は「会社が差し引いた株式で、以前に報告した譲渡制限付株式の権利確定に伴って本人に生じた税の支払いに充てる」と記している。譲渡制限付株式は、一定の期間を過ぎると本人のものになる株式報酬で、そのときに給与と同じように課税される。税を現金で納めるかわりに、会社が渡すはずの株式の一部を差し引き、その分を納税に回す。市場で売る手続きはどこにも含まれない。

中国語の報道は株数を正しく伝えながら、これを売却と書いた。売却なら買い手がいて、本人に代金が入る。納税のための差し引きでは、そのどちらも起きない。5人分の報告書は1株あたりの価格の欄がいずれも同じ値で、これは税額を計算するための評価額であり、売買が成立した価格ではない。

同じ2日間の取引が、3つの区分に分かれる
同じ2日間の取引が、3つの区分に分かれる

役職の表記にもずれがある。同じ報道はショキスト氏を最高執行責任者と紹介したが、報告書の役職欄は業務担当の副社長である。

開示されない権利確定の株数は、交付分と差し引き分を足すと割り出せる

報告書は差し引いた株数を書く一方で、何株の権利が確定したのかは書かない。ただ、保有株数の欄に付いた脚注に、もう1つの数字がある。「うち◯株は権利確定により交付された株式」という記載で、ファン氏は4万6,501株、クレス氏は3万6,303株、ショキスト氏は3万1,190株、テター氏は3万460株、ガウェル氏は2,498株である。

この交付の株数を権利確定の総数と読むと、ガウェル氏の分で計算が合わなくなる。差し引かれた2,932株が交付の2,498株を上回り、差し引かれた割合が117%になってしまうからだ。交付の株数は、差し引きを済ませたあとに本人へ実際に渡った株数であり、総数はこれに差し引き分を足した値になる。足すとファン氏9万2,229株、クレス氏7万7,050株、ショキスト氏6万6,198株、テター氏6万6,198株、ガウェル氏5,430株である。

開示されない権利確定の株数は、足し算で割り出せる
開示されない権利確定の株数は、足し算で割り出せる

この読み方が正しいことは、3つの点から確かめられる。1つ目に、ショキスト氏とテター氏の総数が6万6,198株で一致する。同じ規模の株式報酬が同じ日に権利確定したとみられ、差し引かれた割合だけが52.88%と53.99%に分かれている。2つ目に、保有株数の増減が合う。ファン氏の本人名義の保有株数は、6月の報告書の7,014万6,252株から7,010万666株へ4万5,586株減った。これは差し引かれた4万5,728株から、8月31日に従業員株式購入制度で買った142株を引いた数と一致する。ガウェル氏の保有株数も5万9,509株から5万6,577株へ、差し引かれた2,932株と同じだけ減っている。譲渡制限付株式は付与の時点で保有株数に数えられているため、権利確定のときは差し引かれた分しか保有株数が動かない。

3つ目に、別の四半期でも同じ割合になる。ファン氏の6月17日の権利確定は、交付4万6,495株と差し引き4万5,723株で、総数は9万2,218株、差し引かれた割合は49.58%である。9月の49.58%と小数点以下まで一致する。5人の割合は49.58%から54.00%の間に収まる。人によって割合が違う理由を、報告書は説明していない。

8月31日の従業員株式購入制度には、ファン氏とクレス氏の2人が参加し、それぞれ142株と127株を買った。5人分の報告書のうち、本人がお金を払って株式を手に入れた取引はこの2件だけである。

市場で売ったのは最高財務責任者の3万4,918株だけで、売買計画を定めてから93日後だった

5人のうち、翌17日に市場で株を売ったのはクレス氏だけだった。記号Sの売却が3件あり、4,681株、2万369株、9,868株の計3万4,918株である。価格はいずれも加重平均で報告され、価格ごとの株数は求めがあれば当局などに示すと脚注にある。売却後の本人名義の保有株数は76万5,103株で、売った株数は差し引き後の保有株数80万21株の4.36%にあたる。

この売却について、脚注は「本人が2026年6月16日に定めた規則10b5-1に基づく売買計画に沿って実行した」と記している。規則10b5-1は、売る株数や時期をあらかじめ決めておき、実行のときには本人の判断を挟まないようにする仕組みで、インサイダー取引の疑いを避けるために使われる。当サイトはマイクロンの社長の株式売却を扱った記事でこの仕組みを取り上げた。売った日の値動きに意味を見いだせないのが、この仕組みの特徴である。

計画を定めた日と売った日の間隔には、決まりがある。規則10b5-1は、役員が売買計画を定めた場合、定めた日から90日後と、その四半期の業績を四半期報告書または年次報告書で開示した日から2営業日後のうち、遅いほうの日まで売買を禁じている。ただし、定めた日から120日を超えて待つ必要はない。クレス氏が計画を定めたのは6月16日、売ったのは9月17日で、間隔は93日である。その四半期の四半期報告書は8月26日に提出されたので、2営業日後は8月28日となり、90日後の9月14日のほうが遅い。売却が認められる最も早い日の3日後に、最初の売却があったことになる。

前の計画と比べると、今回の株数はむしろ少ない。クレス氏は2025年3月4日に定めた計画に沿って、2025年6月から2026年3月まで、1回あたり4万7,640株から6万2,650株を売り続けていた。9月17日の3万4,918株は、その1回分を下回る。

43万8,000株は無償の寄付で、同じ区分が信託どうしの移し替えにも使われる

同じ17日、ファン氏夫妻の生前信託が43万8,000株を手放した。記号はGで、1株あたりの価格の欄は0、保有の形は信託を通じた間接保有である。脚注は「1995年5月1日付の生前信託による無償の贈与」とし、29万2,000株を慈善団体である夫妻の財団へ、14万6,000株をドナー・アドバイズド・ファンドへ渡したと記す。ドナー・アドバイズド・ファンドは寄付の受け皿となる基金で、寄付した人があとから寄付先を指定できる。信託の保有株数は4億6,813万1,547株から4億6,769万3,547株になった。

財団と基金への配分は29万2,000株対14万6,000株で、ちょうど2対1である。6月18日の贈与も26万6,670株と13万3,330株の計40万株で、同じく2対1だった。同じ割合での寄付が2四半期続いている。

記号Gには読み違えやすい点がある。慈善団体への寄付にも、本人の信託から別の信託への移し替えにも、同じ記号が使われるからだ。ファン氏の2026年の記号Gの合計は1億1,876万3,204株にのぼるが、内訳は3月20日の1億1,792万5,204株、6月の40万株、9月の43万8,000株である。3月分について脚注は、一定期間ごとに株式を払い出す信託が満期を迎え、残りの株式を家族のための別の信託へ移したものと、その払い出しに充てたものだと説明している。株式は本人と家族の信託の間で移っただけで、外には出ていない。慈善団体へ渡ったのは2回で計83万8,000株にとどまる。合計だけを見て「1億株超を手放した」と読むと、事実から大きく外れる。

ファン氏が報告している保有株数は、本人名義の分と3つの信託、6つの有限責任会社を合わせて8億1,152万1,160株である。2026年8月21日時点の発行済み株式241億株の3.37%にあたる。今回の43万8,000株は、その0.054%にすぎない。

ファン氏がエヌビディア株を最後に市場で売ったのは2025年10月で、600万株の計画は終わっている

中国語の報道の題は、ファン氏が持ち株を減らしたのかと問いかけている。答えは報告書の履歴にある。ファン氏の報告書は2003年5月5日から今回まで216件あり、2025年1月以降の39件を取引日ごとに集計すると、市場での売却は2025年が600万株ちょうど、2026年は0株である。600万株はすべて2025年3月20日に定めた規則10b5-1の売買計画によるもので、市場での売却が載った最後の報告書は2025年10月31日の提出分である。それから11か月、市場で売った記録はない。

ファン氏の市場での売却は2025年で止まっている
ファン氏の市場での売却は2025年で止まっている

2026年の取引は、納税のための差し引きが52万9,359株、株式報酬の付与が93万6,771株、無償の贈与が1億1,876万3,204株で、市場での売却だけがない。600万株を売った2025年でも、その株数は発行済み株式の0.025%にすぎなかった。

市場で売られた株数で比べると、差はさらに大きい。9月16日と17日の2日間に市場で売られたのはクレス氏の3万4,918株だけで、発行済み株式の0.00014%である。同じ2日間に差し引かれた16万153株は0.00066%にあたるが、こちらは市場で売られていない。

役員の報告書を読むときは、株数より先に取引の区分を見る必要がある。記号Fは税の支払いに回った株、記号Gは無償で移った株で、市場で売られたのは記号Sの株だけである。報道が掲げた16万株と、実際に売られた3万4,918株の開きは、この順番を取り違えたところから生じている。

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