米オラクルは、米オープンAIの計算基盤としてニューメキシコ州で借りる施設を巡り、開発会社に不可抗力条項に基づく通知を送った。燃料電池向けのガス管は許可手続きが州と連邦で長引き、ガス供給の開始は2027年2月1日にずれ込む見通しだ。
米国とメキシコの国境に近いニューメキシコ州ドニャアナ郡の「プロジェクト・ジュピター」は、オラクルとオープンAI (OpenAI) が進めるデータセンター計画「スターゲート」の拠点の一つだ。投資額は最大1,650億ドル、電力容量は245万キロワット (2.45ギガワット) にのぼる。一方、燃料の天然ガスを運ぶパイプラインの建設費は約6,020万ドルで、投資額の約0.04%にすぎない。ただ、この施設は送電網から電力を調達せず、敷地内の燃料電池で発電する。オラクルは5月、米連邦エネルギー規制委員会に出した書面で、ガスが届かなければ発電設備が動かず、顧客との契約上の義務を果たせなくなると訴えていた。本誌は、同委員会の審査で提出された書類91件と、州の公有地管理局と環境局の書面、オラクルの決算資料を読み、パイプラインの完成時期と資金の流れを整理した。
オラクル、稼働が遅れた場合に支払いの先送りを求めたと報道
米ブルームバーグ通信は2026年9月24日、オラクルがジュピターについて不可抗力条項に基づく通知を出したと報じた。不可抗力条項は、天災など当事者の責任によらない事態が起きた場合に、契約上の義務の履行を免除する条項を指す。通知の宛先は開発会社のスタック・インフラストラクチャーで、同社は米投資会社ブルー・アウル・キャピタルの傘下にある。報道によると、オラクルは施設が2028年に稼働できない場合に支払いを先送りできるよう求めた。契約を解除して賃借を取りやめる趣旨ではないという。米CNBCは、コスト増に備えるための通知だと伝えた。パイプラインの遅れとの関係について、オラクルは説明していない。
オラクルは同日、「プロジェクト・ジュピターは予定どおり進んでいる。ニューメキシコ州での事業に引き続き全力で取り組む」との声明を出し、ジュピターが州に47億ドルを超える経済効果をもたらすとした。ブルー・アウルもCNBCに対し、通知を受けても数年がかりの計画に出資を続ける方針は変わらないと述べた。オラクルのクレイ・マグワイク共同最高経営責任者 (CEO) は9月10日の決算説明会で、ジュピターは2027年5月期の売上高と利益の見通しに影響しないと説明していた。
業界メディアによると、計画では約1,400エーカー (約570ヘクタール) の敷地に建屋4棟を建て、スタックと地元の開発会社ボーダープレックス・デジタル・アセッツが開発を担う。オラクルによると、事業者は郡に3億6,000万ドルを直接支払い、建設期間中に4,000人超、稼働後に最大1,500人の雇用を生む。オープンAIの2025年9月23日の発表によると、同社はオラクルと最大450万キロワット分のデータセンターを追加で開発する契約を7月に結び、提携の規模は5年間で3,000億ドルを超える。ドニャアナ郡はその新しい拠点の一つに選ばれた。スターゲート全体は、ソフトバンクグループも加わる総投資額5,000億ドル、電力容量1,000万キロワットの計画だ。オラクルの会社情報は企業データベースのオラクルのページにまとめている。
245万キロワットは原発2.4基分、全電力を燃料電池で自家発電する
米エネルギー情報局によると、2026年3月時点で米国の商業用原子炉96基の出力の合計は9,844万1,000キロワットで、1基あたり約103万キロワットになる。ジュピターの245万キロワットは原発約2.4基分の出力に相当する。
オラクルは、送電網に負担をかけないとして、全電力を敷地内の自家発電で賄う。開発側の事業会社が1月に州環境局に提出した大気汚染物質の排出許可の申請では、ガスタービンとディーゼル発電機で発電する計画だった。オラクルは4月27日、米ブルーム・エナジーの燃料電池を最大245万キロワット分設置する計画に改めたと発表した。燃料電池は水素と空気中の酸素を化学反応させて発電する装置で、燃焼を伴わない。ブルームの装置は固体酸化物形燃料電池 (SOFC) で、セラミックの電解質を高温で使い、天然ガスから取り出した水素で発電する。オラクルによると、1月の申請と比べて窒素酸化物の排出量は約92%、一酸化炭素は67%、二酸化炭素は21%減る。燃料は天然ガスのままなので、二酸化炭素は排出される。
州環境局の告知によると、排出許可の申請者はユッカ・グロース・インフラストラクチャーで、発電能力246万2,000キロワットの燃料電池を通年 (年8,760時間) 連続で運転する許可を求めている。オラクルの発表より1万2,000キロワット多い。運転はブルームが担う。州環境局に提出された大気拡散シミュレーションの報告書によると、排気口は2,275か所にのぼる。告知に記載された年間排出量の見込みは、米トンをメートル法のトンに換算すると窒素酸化物約33.7トン、一酸化炭素約146.2トン、揮発性有機化合物約112.5トン、粒子状物質約68.4トンだ。温室効果ガスについては、規制上の基準である二酸化炭素換算7万5,000米トン (約6万8,000トン) を超えるとしただけで、排出量の見込みは示していない。
ブルームは2025年12月期の年次報告書で、工場の年間生産能力を2026年末までに100万キロワットから200万キロワットに倍増させる計画を示した。ジュピターの245万キロワットは、倍増後の生産能力で約1.2年分にあたる。ブルームは4月9日、オラクルに1株113.28ドルで最大353万1,073株を取得できる新株予約権を発行した。
パイプラインの輸送能力は、州の発電用ガス消費量の約1.4倍
燃料電池向けのガスは、米エネルギー大手エナジー・トランスファー傘下のトランスウエスタン・パイプラインの「グリーン・チリ計画」のパイプラインで供給される。米連邦官報によると、パイプラインは既存のエルパソ・ナチュラル・ガスの幹線から分岐する。全長は約28.6キロ (17.77マイル)、口径は約61センチ (24インチ) で、輸送能力は日量40万デカサームだ。デカサームはガスの熱量の単位で、1デカサームは100万英国熱量単位、1英国熱量単位は1,055.06ジュールにあたる。輸送契約を結んだのは、オラクルの子会社グリーン・チリ・ベンチャーズ1社だけだ。オラクルが米連邦エネルギー規制委員会に出した書面によると、両社は2025年9月12日に輸送に関する基本契約を結んだ。
輸送能力を発電能力と比べた。日量40万デカサームは1日約4,220億キロジュールの熱量で、出力に換算すると約488万キロワットになる。輸送能力の上限までガスを流し、すべて発電に使う場合、246万2,000キロワットの出力に必要な発電効率は約50%となる計算だ。この値は、水蒸気が水に戻るときの熱まで含める高位発熱量基準で、その熱を除く低位発熱量基準では約56%になる。ただし輸送能力は、ガスタービンで発電する計画だった2025年9月の基本契約の時点で決まっており、燃料電池に合わせて設定したものではない。
輸送能力を体積に換算する。米エネルギー情報局によると、ニューメキシコ州で需要家向けに供給されたガスの平均熱量は2024年に1立方フィートあたり1,025英国熱量単位だった。この値で換算すると、輸送能力は日量約1,100万立方メートル (約3億9,000万立方フィート) になる。同州の2024年の天然ガス総消費量は約88億2,600万立方メートルだが、この中にはガス田・ガス処理施設やパイプラインの圧縮機で燃料として使われた分が約4割含まれる。家庭や企業、発電所などの需要家への供給量は約50億7,200万立方メートル、うち発電用は約28億2,600万立方メートルだった。うるう年の2024年は366日で割り、1日あたりで比べると、ジュピター向けの輸送能力は総消費量の約46%、需要家への供給量の約80%、発電用の約1.4倍にあたる。
本誌が確認した限り、ジュピター向けに輸送契約が結ばれているパイプラインはこの1本だ。トランスウエスタンは、テキサス、ニューメキシコ、アリゾナの3州にまたがる大型パイプライン「デザート・サウスウエスト拡張計画」(日量最大約6,500万立方メートル、支線13本) を別途進めており、正式な申請に先立つ事前協議の手続きに入っている。地元団体はその支線の一つがグリーン・チリ計画のすぐ近くを通ると指摘しているが、ジュピター向けかどうかは明らかになっていない。
州公有地管理局が州有地の通過を2度認めず、連邦の審査も長引いた
州有地の通過を認めなかったのは、州の公有地管理局だ。同局は連邦政府から州に付与された土地を管理し、その収入を学校や病院の財源に充てている。エナジー・トランスファー傘下の2社は、州有地を横切るパイプラインの敷設用地の使用権2件と、エルパソの幹線と接続する計量所の用地の賃借1件を申請し、同局は2026年2月6日と9日に受理した。使用権を求めた区間は南側約610メートル (約2,000フィート) と北側約980メートル (約3,200フィート) で、合わせて約1.6キロ (約5,200フィート) になる。全長の約5.5%だ。同局は7月15日の発表で区間を約970メートル (0.6マイル) としており、北側の区間とほぼ同じ長さだ。
同局は3月20日付の書面で申請の審査を打ち切り、4月2日付の再審査の請求も7月14日付の長官の書面で退けた。書面は理由として、まず州が得る収入が少ないことを挙げた。使用権2件の対価は35年分を一括で1万1,282.20ドルと2万624.65ドル、計量所の用地は5年間で年4万3,406ドルにとどまる。次に環境負荷を挙げた。書面によると、ジュピターは燃料電池に切り替えた後の許可申請でも、温室効果ガスの排出量を年1,000万トン超と見込んでいる。これは州最大の都市アルバカーキ全体の排出量のほぼ2倍にあたる。本誌が米環境保護局の排出係数 (100万英国熱量単位あたり二酸化炭素53.06キロ) で計算すると、輸送能力の上限までガスを年間を通じて使った場合の二酸化炭素排出量は約775万トンだ。書面の数字は単位や算定範囲が明らかでなく、申請書の本文も入手できなかったため、単純には比較できない。書面はまた、施設が水を1日380万リットル (100万ガロン) 近く使うという地元紙の報道も引用した。オラクルは、冷却水は循環させて再利用し、水源には公共の水道ではなく飲用に適さない井戸水を充てると説明している。
連邦の審査も長引いた。トランスウエスタンは1月29日、あらかじめ認められた範囲の工事なら事前の届け出で済む仕組み (包括許可) を使って米連邦エネルギー規制委員会に届け出た。同委員会の職員は4月13日、州歴史保存局による「文化財への影響はない」との確認書がないとして異議を申し立てた。異議の取り下げに必要な確認書は期限の5月13日までに出されず、申請は天然ガス法第7条に基づく個別の審査に移った。オラクルは5月1日付の書面で同委員会に早期の判断を求めた。基本契約は供給開始を2026年8月15日としており、オラクルは書面で「両社の契約上の義務はこの日程を前提としている」とし、遅れれば費用が大幅に増えると訴えた。トランスウエスタンも7月1日、8月15日の供給開始に間に合わなくなるとして早期の判断を求めた。
トランスウエスタンは8月14日、同委員会の職員の質問に回答し、供給開始の予定を2027年2月1日に変更した。当初より約5か月半遅い。建設は2026年11月から2027年1月にかけて行う見込みだ。回答は変更の理由を示していない。同委員会は9月に環境評価書を公表し、「環境に重大な影響はない」と結論づけた。意見募集の締め切りは10月5日、連邦政府が許可の可否を判断する期限は12月3日だ。経路の一部が通る連邦有地については、米内務省土地管理局が独自に環境評価を行い、5月1日に内務長官の承認を得て決定を出している。州有地を避ける経路に変えたかどうかは、公開資料からは明らかでない。
州の排出許可の手続きも進んでいない。州環境局は公聴会を9月14日に開くと告知したが、州最高裁が8月に環境団体の申し立てを受けて手続きの停止を命じた。最高裁は9月18日に訴えを退けて停止を解除したものの、地元報道によると、公聴会を主宰する聴聞官が中立性を疑う忌避の申し立てを受けて辞任し、新たな日程は決まっていない。
建設融資の債権に額面割れの価格、オラクルは未開始のリース2,880億ドルを抱える
資金面では、通知が報じられる6日前に、建設融資の債権に額面を下回る価格が付いていた。ロイター通信が伝えた英フィナンシャル・タイムズの9月18日の報道によると、ジュピターの建設のために2025年末に銀行団が組成した約180億ドルの融資について、幹事を務めたスペインの大手銀行サンタンデールや米証券ジェフリーズが、額面の89〜91%の価格を提示している。オラクルの借り入れ増加と信用力低下への懸念から投資家への売却が進まず、銀行は想定以上の債権を抱えているという。同紙は、水資源や大気への影響を巡る地元の反対も要因に挙げた。借り手は公開資料からは明らかでない。この価格を180億ドル全体に当てはめると、額面との差は16億〜20億ドル規模になる。ただし、実際に損失が生じたわけではない。ロイターは、7月に米S&Pグローバル・レーティングが格下げし、オラクルの格付けは投資適格の最低水準になったと伝えた。オラクルは年次報告書で、格下げがデータセンターのリースなど長期契約の条件に影響を及ぼすおそれをリスク要因に挙げている。
オラクルの決算資料からは、今後支払う賃料の規模が分かる。2026年6〜8月期の四半期報告書によると、契約済みでリース期間がまだ始まっていないリース (未開始のリース) は2,880億ドルにのぼり、ほぼすべてがデータセンター向けだ。2027年5月期の第2四半期から2029年5月期にかけて始まり、期間は15〜19年で、貸借対照表には計上されていない。5月末の2,600億ドルから3か月で280億ドル増えた。このうちジュピター分の金額は開示されていない。2026年5月期の年次報告書によると、オラクルは5月末時点の未開始のリースのうち1件で、貸主の借入金を最大33億ドル債務保証しており、その借入金は2026年9月に満期を迎える。6〜8月期の四半期報告書にはこの保証の記述がなく、ジュピターとの関係も示されていない。
| 項目 | 2026年6〜8月期・8月末 |
|---|---|
| 未開始のリース | 2,880億ドル (5月末2,600億ドル) |
| 受注残高 (残存履行義務) | 6,640億ドル (5月末6,380億ドル) |
| 設備投資 | 284億9,900万ドル (前年同期85億200万ドル) |
| フリーキャッシュフロー | マイナス53億9,600万ドル |
| ATM方式の増資 | 199億900万ドル |
| 有利子負債 | 1,253億3,700万ドル (短期76億2,500万・長期1,177億1,200万ドル) |
受注残高は、顧客と結んだ契約のうちまだ売上高に計上していない額で、12か月以内に計上するのは約13%にとどまる。6〜8月期の設備投資は営業キャッシュフロー231億300万ドルを上回った。この期にオラクルは、市場で随時新株を売り出すATM (アット・ザ・マーケット) 方式の増資で199億ドルを調達している。ブルームバーグ通信によると、不可抗力条項に基づく通知は、稼働が2028年に間に合わず、賃料の支払い開始時期がずれ込む場合に備えたものだ。
ジュピターが2028年に稼働できるかは、12月3日が期限の連邦の審査結果、日程が未定の州の排出許可の公聴会、ガスの供給開始時期に左右される。全電力を敷地内で発電するジュピターでは、ガスパイプラインの許可の遅れが、賃料の支払い開始や融資の返済に響きかねない。世界のデータセンターの一覧はデータセンターのページに掲載している。
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