英エコノミスト誌がAIで稼ぐ日本企業として挙げた5社のうち、味の素、TOTO、日東紡の決算を調べた。2025年度に半導体関連の部門が全社の利益に占めた割合は、味の素が3割、TOTOが5割、日東紡が9割に達していた。

英エコノミスト誌は2026年5月14日、「AIで大もうけする奇妙な日本企業」と題する記事を掲載した。同誌は、味の素がAI半導体の基板に使う絶縁フィルム「ABF」で、世界シェアの95%超を握っていると報じた。台湾の科技新報が後追いで伝えた内容によると、同誌が挙げたのは味の素、TOTO、HOYA、サクラクレパス、日東紡の5社だ。経済産業省の資料によると、日本の半導体の世界シェアは1988年に50.3%あったが、2019年には10.0%まで下がった。半導体そのもののシェアは下がったが、材料や部品では日本企業が稼いでいる。本稿では5社のうち味の素、TOTO、日東紡の3社について、決算短信、決算説明資料、統合報告書の数字でその構図を確かめる。2025年度は2026年3月期を指す (ほかの年度も同じ)。HOYAは扱わず、非上場のサクラクレパスは最後に短く触れる。

味の素、ABFを含む電子材料等の区分は売上高の6%、事業利益の30%

味の素の「味の素ビルドアップフィルム (ABF)」は、半導体を載せるパッケージ基板の層と層の間を絶縁するフィルムだ。同社はABFを、アミノ酸の製造技術を生かして生まれた材料と説明している。同社は2026年6月30日の事業説明会で、ABFのシェアを「95%超」とした。同社はABFだけの売上高と利益を開示していないため、本稿ではABFを含む「ファンクショナルマテリアルズ (電子材料等)」区分 (以下、電子材料等の区分) の数字を使う。この区分には接着剤や活性炭なども入るが、同社自身もABFの説明にこの区分の数字を使っている。

表1 味の素のファンクショナルマテリアルズ (電子材料等) 区分 (億円)

年度売上高事業利益事業利益率
2022年度70136952.6%
2023年度60827645.4%
2024年度76540252.5%
2025年度1,00754654.2%
2026年度予想1,20665554.3%

出所: 味の素の決算概要・セグメント別業績予想 (2025年5月、2026年5月7日、8月6日)。2022〜2024年度は、全社共通費を区分に配分しない現在の方法で会社が組み替えた値。2026年度は8月に修正した予想。事業利益率は本稿の計算

電子材料等の区分の2025年度の売上高は前年度比31.6%増の1,007億円、事業利益は35.8%増の546億円だった。全社の売上高1兆5,837億円に占める割合は6.4%にとどまるが、事業利益1,811億円に占める割合は30.1%に達する。全社の増益額218億円のうち、66%に当たる144億円をこの区分が占めた。2026年4〜6月期も、区分の売上高は前年同期比54%増の331億円、事業利益は77%増の191億円だった。

伸びを支えているのはサーバー向けだ。ABFの数量に占めるサーバー・ネットワーク向けの割合は、2017年度の40%から2025年度には70%に高まった。同じ期間に、パソコン向けは45%から20%に下がった。基板1枚に使う量も増えている。同社の推定では、2023年ごろまでの高性能半導体向けの基板は約70ミリメートル角で、絶縁層は上下に9層ずつだった。2026年のAI向けは約100ミリメートル角で11層ずつになり、2031年以降は約120ミリメートル角で13層ずつになる見込みだ。

同社は2030年までの増産に向けて、2023年から約250億円を投じる計画だ。その第1弾として約100億円をかけた群馬県の新工場が、2025年3月に完成した。同社は2026年5月、この250億円とは別に、子会社の味の素ファインテクノが岐阜県可児市に第3の生産拠点の用地を約12億円で取得すると発表した。2028年に着工し、2032年の稼働を予定している。一方、同社は有価証券報告書で、各国が求める調達先の多様化や国産化、競合の技術革新によって「当社素材の代替技術が普及」すれば、採用率とシェアが下がるおそれがあると記している。

TOTO、静電チャックを含むセラミック事業が営業利益の5割超

TOTOのセラミック事業は、半導体製造装置の部品をつくる。決算短信の「新領域事業」が2021年度からこのセラミック事業だけになったため、本稿では新領域事業の数字を使う。主力の静電チャックは、製造装置の中でシリコンウエハーを静電気の力で固定する部品だ。同社は2026年4月の決算説明会で、セラミック事業の売上高の約8割を静電チャックが占めると答えた。静電チャックは主に、NAND型フラッシュメモリーの製造に使うエッチング装置に組み込まれている。同社は統合報告書で、セラミック事業の売上高の大半は、稼働中の装置の部品の交換需要だと説明している。2025年度は、メモリー大手がDRAMへの投資を優先したため、NAND向けの新しい装置の需要は鈍化した。一方で、交換需要は大きく増えた。

表2 TOTOのセラミック事業 (百万円)

年度売上高セグメント利益連結営業利益に占める割合
2021年度30,1289,33417.9%
2022年度49,48819,38539.5%
2023年度36,47610,96525.6%
2024年度50,32520,41942.1%
2025年度67,41428,94353.8%

出所: TOTOの各年度の決算短信。割合は本稿の計算 (セグメント利益÷連結営業利益)

2025年度のセラミック事業の利益は289億円で、連結営業利益538億円の53.8%を占めた。一方、売上高674億円が連結売上高に占める割合は9.1%にすぎない。トイレなどを扱う日本住設事業の利益は203億円で、セラミック事業はその1.43倍を稼いだ。同社自身は、日本住設・海外住設・セラミックの3事業の利益の合計のうち、セラミック事業が占める割合を51%としている。連結営業利益に占める割合は半導体の市況で上下し、市況が低迷した2023年度には25.6%まで下がった。2021年度以降で、5割を超えたのは2025年度が初めてだ。

同社の2026年度の計画では、セラミック事業の利益は365億円で、連結営業利益600億円の60.8%に当たる。日本住設事業の利益は130億円に減る見込みだ。2026年4〜6月期のセラミック事業は増収増益だったが、為替の影響を除くと減収減益だった。需要の急増を受けて供給網全体で設備の納入や部材の供給が遅れ、同社の納入が7〜9月期以降にずれ込んだ。同社は一時的な影響としている。

TOTOが決算説明資料で引用した富士キメラ総研の調査によると、2025年の静電チャックの数量ベースの世界シェアで、同社は2位だった。日本企業のシェアは合計で97%を超える。同社は2028年度までに、神奈川県茅ケ崎市、大分県中津市、福岡県豊前市の3拠点に約300億円を投じる。豊前市では、静電チャックの焼成工程を増強する新棟を2027年1月に完成させる予定だ。

日東紡、Tガラスを含む電子材料事業が営業利益の9割

日東紡のTガラスは、熱膨張を抑えたガラス繊維だ。ガラス糸で織った布 (ガラスクロス) にして、パッケージ基板の芯材に使う。同社の製品資料によると、ガラスそのものの熱膨張係数は、汎用のEガラスの5.6に対し、Tガラスは2.8だ (単位は1℃あたり100万分の1、会社の測定例)。熱による伸び縮みは半分で済む。AI半導体向けの大型の基板では熱による反りが問題になり、Tガラスの採用が広がった。

表3 日東紡の電子材料事業 (百万円)

年度売上高 (内部売上高を含む)セグメント利益連結営業利益に占める割合
2023年度37,9915,38264.2%
2024年度52,09313,88084.4%
2025年度61,41819,39193.1%

出所: 日東紡の決算短信 (2023年度は2025年3月期の決算短信にある組み替え後の値)。割合は本稿の計算 (セグメント利益÷連結営業利益)

2025年度の電子材料事業の利益は194億円で、連結営業利益208億円の93.1%を占めた。外部顧客への売上高 (表3の614億円から社内取引を除いた額) は493億円で、連結売上高1,182億円の41.7%に当たる。同社はTガラスだけの売上高を開示していない。開示しているのは、Tガラスと低誘電ガラスを合わせた「スペシャルガラス」のガラス糸とガラスクロスの売上高を、2015年度を100として指数にした値だ。2025年度の指数は769で、10年で7.7倍になった。前年度と比べると26.3%伸びた。2026年4〜6月期は、スペシャルガラスの販売増と値上げで、電子材料事業の利益が前年同期比70.0%増の70億円になった。

同社は2025年8月の決算説明会で、Tガラスについて顧客の需要を満たせず、需給が逼迫していると説明した。2026年8月の説明会でも、需要は引き続き非常に強いと述べた。福島市の工場では約150億円を投じて新工場棟を建設しており、2026年12月に完成する予定だ。同社によると、新工場棟で増やす生産能力をすべて最先端のロジック半導体向けのTガラスクロスに充てれば、その生産量を2025年8月時点の実績の3倍程度にできる。新工場棟のうちTガラスクロスの増産に充てる設備 (事業費約72億円) は2025年8月、経済安全保障推進法に基づく供給確保計画として経産省の認定を受けた。助成金は最大約24億円になる。

日東紡全体の設備投資は、2024年度の136億円から2025年度は217億円に増えた。2026年度は450億円を見込む。同社は台湾の南亜プラスチックに織布工程の一部を委託することを決めた。2027年には、日東紡が供給するガラスクロスの約2割を南亜が織る予定だ。日東紡の増産の経緯は設備投資の倍増を伝えた記事で詳しく扱った。

3社の利益は半導体関連の部門に偏る

3社の数字を並べると、売上高に占める割合と利益に占める割合の差がはっきりする。

表4 3社の半導体関連の部門 (2025年度)

会社部門全社の売上高に占める割合全社の利益に占める割合部門の利益率
味の素電子材料等6.4%30.1%54.2%
TOTOセラミック9.1%53.8%42.9%
日東紡電子材料41.7%93.1%31.6%

出所: 各社の決算資料。割合と利益率は本稿の計算。利益の割合の分母は、味の素が国際会計基準の事業利益、TOTOと日東紡が日本基準の連結営業利益で、いずれも全社費用を差し引いた後の値。日東紡の売上高の割合は外部顧客への売上高、利益率は内部売上高を含む売上高で計算

味の素とTOTOは、売上高の1割に満たない部門が利益の3〜5割を生んでいる。部門の利益率も味の素で54.2%、TOTOで42.9%と高い。日東紡は、売上高の4割を占める部門が利益の9割を稼いでいる。3社の利益は、半導体関連の需要に左右される。2023年度には、味の素の電子材料等の区分の事業利益が前年度比25%減り、TOTOのセラミック事業の利益は43%減った。

日東紡、顧客は他社の低熱膨張ガラスも検討

日東紡は統合報告書で、Tガラスを含むスペシャルガラスについて「圧倒的なトップシェア」を維持していると書いている。ただ、同社は2025年8月の決算説明会で、台湾の競合企業が顧客の採用に向けた認定を取り始めたと説明した。品質と供給量は十分な水準に達していないとの認識も示した。2026年8月の説明会では、顧客が他社製の、熱膨張を抑えたガラスの使用を検討していることを「認識している」と答えた。同社は統合報告書で、競合の追い上げに備え、低熱膨張・低損失の次世代品「Vlex」の開発を急ぐとしている。

ガラスクロスを手がける中国の宏和科技は、熱膨張を抑えた特殊なガラスクロスについて、2024年に顧客の認証を得て、2025年から銅張積層板のメーカーに量産品を供給していると開示している。同社の2026年1〜6月の売上高は前年同期比90%増の約10.5億元だった。同社は増収の理由に、汎用のEガラスの布の需要増と値上がり、低誘電・低熱膨張の布の販売増を挙げている。

サクラクレパスはプラズマインジケータを販売

エコノミスト誌が挙げた5社のうち、サクラクレパスは非上場だ。同社は半導体の製造工程向けに、プラズマインジケータ「PLAZMARK」を販売している。プラズマ処理の度合いやむらを色の変化で確かめるもので、ウエハーの形をした製品は直径300ミリメートルまである。

※2026年10月5日、一次資料に基づき本文を全面的に書き直しました。旧版の「TOTOの先進セラミックス事業は総利益の50%以上」という趣旨の記述は、「セラミック事業の利益が連結営業利益に占める割合は2025年度に53.8% (2024年度は42.1%)」に改めました。旧版の「日東紡はAIチップ基板向けで世界唯一のサプライヤー」は同社の表現である「圧倒的なトップシェア」に、「Tガラスの熱膨張率は約3割低い」は製品資料の数値 (熱膨張係数はEガラスの半分) に改めました。旧版の「サクラクレパスの欠陥検査技術」は、プラズマ処理を評価するインジケータに改めました。株価の記述と、一次資料で確かめられなかった記述 (回路線幅2ナノメートル世代での採用状況、中国の材料メーカーによる国産化の進み具合、PFAS規制で既存の配合が無効になるとの内容など) を削除しました。

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