1.6Tの光トランシーバーは、1レーンあたり毎秒200ギガビットの信号を8レーン束ねる。三菱電機はEMLチップの生産能力を2029年度に3倍超へ、住友電工はデータセンター内で使う光デバイスの生産能力を4年で4倍に増やす。
AIデータセンターのサーバーやスイッチをつなぐ光トランシーバー (装置の前面に差し込み、電気信号と光信号を変換する部品) は、通信速度が毎秒800ギガビット (800G) の製品から毎秒1.6テラビット (1.6T) の製品へ世代交代が進んでいる。通信速度を2倍にする主な方法は、1レーンで送る速さを毎秒100ギガビットから200ギガビットに引き上げることだ。米ルメンタムによると、同社のレーザーチップの単価は主に1レーン200ギガビットへの移行でわずかに上がった。一方、同社のクラウド向けの光トランシーバーは単価が下がった。日本では三菱電機と住友電工がレーザーチップを含む光デバイスの、JX金属がその材料になるインジウムリン基板の生産能力を、それぞれ大きく増やしている。
1.6T品は毎秒200ギガビットのレーンを8本束ね、2028年までは800G品が最大
光トランシーバーは、送信用のレーザーと受信用の受光素子を何組か束ねて通信容量を増やす。この1組をレーンと呼ぶ。三菱電機は2024年8月20日、毎秒200ギガビットの受信用チップのサンプル提供を発表した際、このチップを光トランシーバーに4個載せると800G、8個載せると1.6Tになると説明した。同社は同じ速さの送信用チップ (EMLチップ) を2024年4月から量産している。EML (電界吸収型変調器集積レーザー) は、光を出すレーザーと、光を電気信号で高速に点滅させる変調器を1つのチップにまとめた部品で、材料にはインジウムリン (InP) を使う。
ルメンタムは2026年8月17日に提出した年次報告書で、1レーンあたり毎秒200ギガビットの光部品は、従来の100ギガビットに比べてデータ転送速度が2倍になると説明した。1レーン200ギガビットなら、4レーンで800G、8レーンで1.6Tになる。どちらの場合も、1レーンあたりの速さを上げる部品 (EMLなど) が要になる。
市場の中心はまだ800G品だ。三菱電機は2026年5月29日の事業説明会で、米調査会社ライトカウンティングの2026年1月の予測を示した。イーサネット用の光トランシーバーとCPO (光部品を演算チップの近くに一体で実装する方式) を合わせた市場は、2024年から2030年まで年平均27%伸びるという。この予測の速度別の内訳では、800G品が2026年から2028年まで最も大きく、1.6T品が上回るのは2029年だ。800G品と1.6T品は数年にわたって並んで売れる。
ルメンタムではレーザーチップがわずかに値上がりし、光トランシーバーは値下がりした
レーザーチップと光トランシーバーの単価がどちらに動いたかは、ルメンタムの年次報告書に出ている。2026年6月期の売上高は約30億ドルで、前期比83.2%増えた。このうち部品は約20億ドルで79.7%増え、全体の66.5%を占めた。完成品を含むシステムは約10億ドルで90.7%増え、伸び率は部品を上回った。同社は、部品の増収分8億8,930万ドルの78%がレーザーチップとレーザーの組立部品の出荷増によると説明した。金額にすると約6億9,400万ドルになる (編集部の計算、以下同じ)。レーザーチップの平均単価は、主に1レーン200ギガビットへの移行でわずかに上がったという。
一方、システムに入るクラウド向けの光トランシーバーは、出荷量の増加で売上高が173%超増えたものの、平均単価は下がった。同社は2026年6月期から事業の区分を1つにまとめており、部品とシステムを分けた利益は開示していない。分かるのは売上高と単価の動きまでだ。最大の最終顧客1社が売上高の26.6%を占める。
同社は、需要が供給を上回り、顧客ごとに出荷量を割り振る必要が出ていると説明する。自社工場と受託製造先の両方で生産能力を増強している。2024年7月には神奈川県相模原市のウエハー工場の土地と建物を4,220万ドルで買い取った。主要な製造拠点は日本、米国、英国、スロベニア、タイ、中国の6か国にあり、日本はその1つだ。2026年には米ノースカロライナ州グリーンズボロの工場も取得した。
米コヒレントは、データセンター・通信部門の2026年6月期の売上高が52億7,500万ドルと40%増えた。増収の主因は光トランシーバーで、部門利益は13億3,000万ドルと47%増えた。同社は光トランシーバーと、レーザーを含む主要部品の多くを自社で設計・製造する。顧客の需要増と業界全体の供給不足に対応するため、米テキサス州シャーマンなど米国と欧州で、直径6インチのインジウムリンの生産能力を増やしている。インジウムリンなどの材料は調達先が1社か少数に限られる場合があることも、リスク要因に挙げた。
三菱電機はEMLチップの生産能力を2029年度に3倍超へ増やすが、売上高の目標は2倍
三菱電機は、データセンター向けEMLチップで世界シェア1位だと説明している。ただし根拠は2024年度実績の自社調べで、第三者の集計ではない。2025年度までの累計出荷数は1億個に達した。2026年5月29日の説明会では、EMLチップの生産能力を2029年度までに2025年度比で3倍超へ増強し、2020年度比では20倍になると示した。そのための400億円の投資は2025年度に決めた。2つの倍率から逆算すると、2025年度の生産能力は2020年度の6.7倍弱になる。同社が示した倍率は丸めた数字のため目安だが、5年で大きく積み上げた生産能力を、さらに4年で3倍超にする計画だ。
この増産は、全社の投資配分を組み替えた結果でもある。同社は2025年5月28日の説明会で、パワー半導体の市況に合わせて生産能力の増強投資を抑え、時期を先送りし、その一部を光デバイスの増産に回すと説明していた。
売上高の目標の伸びは、生産能力の伸びに及ばない。光デバイス (EMLチップ) の売上高は2025年度が400億円で、2030年度に2倍の800億円を目指す。生産能力と売上高では、目標の年度も倍率も異なる。単価の下落を見込んでいるのか、増やした生産能力の稼働率を低めに見積もっているのか、同社の資料からは分からない。2025年度のデータセンター関連事業の売上高1,763億円のうち、光デバイスは22.7%を占め、電源システムの865億円に次ぐ。同社はCPO向けにも、インジウムリンを使う連続発振 (光を出し続ける) の光源と変調器を投入する計画だ。
住友電工は伝送デバイスの売上高を2026年度に46.7%増と見込み、情報通信の設備投資を約3倍に
住友電工は、光トランシーバーに入る光デバイスと、その材料のインジウムリン基板の両方を手がける。2026年3月期の情報通信関連事業 (以下、情報通信) は、売上高が46.3%増の3,266億円、営業利益が575億円増の774億円だった。営業利益率は23.7%である。同社が2026年5月22日の説明会で示した内訳では、光デバイスや基地局向けのGaNなどの電子デバイスを含む伝送デバイス (同社の決算データ集の区分では光・電子デバイス製品にあたる。年度の合計が一致する) の売上高は2024年度が707億円、2025年度が952億円で、同社は2026年度に1,397億円を見込む。伸び率は2025年度の34.7%から、2026年度の予想では46.7%に高まる。
5月時点の見通しでは、情報通信の2026年度の売上高は5,000億円、営業利益は1,300億円で、営業利益率は26.0%に上がる。中期経営計画で最終年度の2028年度に掲げた目標は売上高9,700億円、営業利益2,400億円 (営業利益率24.7%) で、売上高は2025年度の2.97倍、約3倍になる。同社は情報通信の設備投資 (検収ベース) を2025年度の237億円から2026年度は720億円と約3倍に増やす。全社の設備投資も2,432億円から3,500億円に増やす計画だ。
2026年4〜6月期の情報通信は、売上高が約865億円、営業利益が約272億円だった。前年同期と比べると売上高は40.3%増、営業利益は3.35倍で、営業利益率は31.5%に達した。円安による押し上げ分も含む。伸びの主因は光ファイバー・ケーブルなどの製品で、前年同期の283億円から467億円へ65.0%増えた。伝送デバイスにあたる光・電子デバイス製品は201億円から233億円へ15.9%増にとどまり、1〜3月期の270億円を下回った。233億円は2026年度の見通し1,397億円の16.7%にあたる。同社は7月31日に業績予想を上方修正し、情報通信の営業利益の見通しを4〜9月期は510億円から540億円に、通期は1,300億円から1,330億円に、それぞれ30億円引き上げた。売上高の見通しは4〜9月期2,000億円、通期5,000億円で据え置いた。修正後の見通しに対する4〜6月期の進捗率は、売上高が4〜9月期の43.2%、通期の17.3%、営業利益が4〜9月期の50.4%、通期の20.5%で、下期に大きく伸ばす計画だ。通期の営業利益率の見通しは26.6%になる。
| 住友電工の生産能力 (2024年=1) | 2026年 | 2028年 |
|---|---|---|
| データセンター内用の光デバイス | 2倍 | 4倍 |
| インジウムリン基板 | 1.8倍 | 3倍 |
| 光コネクタ | 6倍 | 13倍 |
インジウムリン基板は面積で換算した値で、データセンター向け以外も含む。生産能力の増強幅が最も大きいのは光コネクタで、同社は配線の側にも大きく投資している。光デバイスについては、これでも足りないという。同社は2025年度の決算説明会の質疑で、顧客から示された2030年までの需要見通しを踏まえると、光デバイスの生産能力を2028年度からさらに倍増させる必要があり、対応策を検討していると答えた。
JX金属はインジウムリン基板の増産目標を11か月で「2割増」から「7〜10倍」へ引き上げた
レーザーチップの材料になるインジウムリン基板では、JX金属が増産目標を相次いで引き上げたことに、需要見通しの変化が表れている。同社は2025年7月23日、磯原工場 (茨城県北茨城市) に約15億円を投じ、生産能力を2025年比で2割程度増やすと発表した。10月8日に約33億円を追加して5割程度増に、2026年2月10日には約200億円を積み増して2030年時点で3倍程度に引き上げた。同社は、インジウムリン基板を製造できるのは世界でも限られた数社で、自社はその1社だと説明している。
6月16日には、今後4年間で最大1,200億円を投じる方針を決めた。ひたちなか地区 (茨城県ひたちなか市) にも生産体制を整え、生産能力を2025年度比で7〜10倍に引き上げる。4回の投資額を合計すると1,448億円になり、同社が示した総額「およそ1,500億円規模」とほぼ一致する。顧客には「価格改定」も求める。同社は、設備を増強する顧客から大幅な増産の要請を受け続けているという。基板メーカーの顔ぶれや価格の動きは、インジウムリン基板からレーザーまでの供給網を扱った記事で詳しく取り上げた。
CPOは差し込み式と並行して検討する段階で、当面の主力は差し込み式の光トランシーバー
光トランシーバーを使わないCPOについても、日本企業は開発の状況を明らかにしている。住友電工は決算説明会の質疑で、CPO向けの高出力の連続発振レーザーについて、最終サンプルの出荷と顧客の品質認定に入る段階だと説明した。2026年度末に「パイロット出荷」を始め、2027年度から量産が本格化するとみている。一方で、顧客はCPOと従来の差し込み式を並行して検討しており、CPOが短期間で急速に普及するかについて同社は慎重にみていると述べた。CPOの方式の違いは光電融合の方式の違いを扱った記事にまとめている。
CPOでは、インジウムリンのレーザーを、連続して光を出す外部の光源として使う。三菱電機と住友電工が開発しているのもこの光源で、インジウムリン基板とそのメーカーが欠かせない点は差し込み式と変わらない。本稿が扱った光トランシーバーの部品では、1.6Tの差し込み式でも、その先のCPOでも、日本の3社はレーザーチップと基板の生産能力を積み増している。ただ三菱電機の世界首位は自社調べにとどまり、コヒレントも米国と欧州でインジウムリンの生産能力を広げている。日本企業はこの分野の有力な供給元だが、独占はしていない。
※2026年10月4日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版の「ルメンタムが東京工場の生産能力を12倍に増強」は、同社の日本の工場が神奈川県相模原市にあり、12倍の数字も確認できなかったため削除しました。「200G EMLの製造技術は日本のファブにしか存在しない」「日本の材料企業が独占的技術を持つ」との記述は、米国と欧州でもインジウムリンの生産能力が増強されていることから改めました。800G品の出荷台数、2027年まで1年以上とした納期、年平均35.5%の市場成長、純度の数字、中国企業の拠点移転など、出所を確認できなかった数字と記述は削除しました。メタとコーニングの光ファイバー契約は光トランシーバーとは別の取引のため外しました。
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