グーグルが論文で示した光回路スイッチ (OCS) の電力41%減は、ネットワークの設計全体を変えた試算で、スイッチ1台の消費電力はもともと最大108Wだ。日本の4社は、光電融合を研究開発や出荷開始の段階として有報に記している。

AI向けのサーバーや半導体をつなぐ配線を光に置き換える技術のうち、本稿が扱うのは2つである。1つは光電融合で、電子回路と光回路を近づけて一体にする技術の総称だ。その代表的な方式がCPO (コパッケージド・オプティクス) で、スイッチやGPU (画像処理半導体) と同じパッケージの中に光の送受信部を載せ、電気で信号を運ぶ距離を縮める。もう1つは光回路スイッチで、届いた光を電気信号に変えずに、微小な鏡の向きを変えて行き先を切り替える。

どちらも電力を減らす技術として語られるが、何と比べて何がどれだけ減るのかは、開発した企業自身の資料を読まないと分からない。本稿では、2022年の時点で10年近く光回路スイッチを使ってきたグーグルの論文3本と、CPOを使ったスイッチを発表したエヌビディアの資料を読んだ。そのうえで、日本の上場企業4社の2026年3月期の有価証券報告書 (有報) から光電融合にかかわる記述と数字を抜き出し、両者と突き合わせた。

グーグルの光回路スイッチは消費電力が1台最大108W、TPU v4の費用に占める割合は5%未満

グーグルの技術者が2022年に公開した論文によると、同社は3次元MEMS (微小電気機械システム) 方式の光回路スイッチを自社で開発し、データセンターのネットワークで大規模に使っている。1台に入力と出力がそれぞれ136ポートあり、うち8ポートは予備だ。切り替えにかかる時間はミリ秒単位で、光が通るときの損失は最大でも2デシベルに収まる。反射して戻る光は、入ってきた光の38デシベル下 (約6,300分の1) 以下に抑える仕様である。2022年までの10年で数万台を製造し、導入したという。

装置の中心は、1枚のMEMSチップに並んだ176枚の微小な鏡だ。鏡は表面の金の膜で光を反射し、2つの軸の周りに傾いて向きを変える。校正の過程で136枚に絞り、残りは使わない。グーグルは論文で、装置全体の最大消費電力を108Wとし、同じ容量の電気式スイッチに比べごく一部だと説明した。ただし、比べた相手の消費電力の値は示していない。

費用の数字は限られる。グーグルは単価を公表していないが、ポート当たりの費用は同じ通信容量の電気式スイッチより低いとしている。実用化に踏み出すにあたっては、光回路スイッチに充てる費用の枠をネットワーク費用の15%とし、得られる利益はその2倍を超えると見込んだ。光サーキュレーターという部品で1本のファイバーに上りと下りの信号を両方通し、スイッチのポート数とファイバーの本数を半分にしている。サーキュレーターは、入った光を決まった順で隣の出口へ送る電源の要らない部品で、一般にガーネットの結晶を使ったファラデー回転子などで作る。

同社が論文で光を切り替える方式を比べた表には、導波路型 (基板に作った細い光の通り道で切り替える方式) の例として、NTTの研究者が2005年に発表した16入力16出力の石英系のスイッチが挙がっている。表では、この方式は費用が低い一方で規模が小さく、損失も6デシベル未満の区分で大きいとされている。

光回路スイッチをAI向けのスーパーコンピューターに使ったのが、2020年に導入が始まった第4世代のTPU (グーグルが自社で設計したAI向け半導体) である。2023年の論文によると、TPU v4のスーパーコンピューターは4,096個のチップで構成される。64個のチップを1単位にまとめ、1単位ごとに96本の光ファイバーの接続を出して48台の光回路スイッチにつなぐ。計算すると、光の接続は64単位×96本で6,144本になる。スイッチ側の使えるポートも48台×128 (136ポートから予備の8を除く) で6,144となり、数が合う。グーグルはこの論文で、光回路スイッチとその周辺の光部品がシステム全体の費用の5%未満、電力の3%未満にとどまると明記した。48台がすべて最大の電力で動いても、合計は5,184ワット (約5.2キロワット) だ。

電力41%減はネットワーク全体の試算で、大半は上位のスイッチ層をなくした効果

光回路スイッチの効果として広く引かれる「電力41%減、設備費30%減、速度と容量5倍」という数字の出所は、グーグルが2022年に発表した別の論文である。この論文は同社のデータセンター網の10年の設計の変化をまとめたもので、電力と設備費の数字は、現在の設計を同じ規模の従来の設計と比べた試算である。光回路スイッチ1台の性能を示す数字ではない。

試算の対象は、サーバーのラックを除くネットワーク部分だ。上位のスイッチ層で下位のスイッチ群を束ねる従来の階層型の設計に比べ、光回路スイッチで下位のスイッチ群同士を直接つなぐ現在の設計は、設備費が従来の70% (使用期間によって62〜70%)、電力費が59%になった。59%は41%減にあたり、論文の要旨の数字と合う。設備費は30%減だ。同社は、電力削減の大半は上位のスイッチとそれにつながる光部品をなくしたことによると説明している。サーキュレーターは電力を使わず、光回路スイッチの消費電力はごくわずかだという。効果の中心は、装置自体の消費電力の小ささではなく、上位のスイッチ層をまるごと不要にしたことにある。運用の面では、配線の組み替えが、人手で差し替えるパッチパネルに比べ中央値で9.6倍速くなった。

第7世代TPU「Ironwood」は最大9,216個のチップを1単位に、光回路スイッチは障害の迂回に使う

グーグルは2025年11月7日のブログで、第7世代のTPU「Ironwood (アイアンウッド)」の大型構成について説明した。1つの構成で最大9,216個のチップをチップ間接続 (毎秒9.6テラビット) でつなぎ、1.77ペタバイトの広帯域メモリーを共有する。TPU v4の2.25倍のチップ数になる。光回路スイッチについては、障害が起きた部分を迂回して処理を続けるための仕組みと説明している。

エヌビディアの光電融合スイッチ、協業先11社のうち日本の上場企業は住友電工だけ

一方、CPOでは、エヌビディアが2025年3月18日に、光電融合のネットワークスイッチ「Spectrum-X Photonics」と「Quantum-X Photonics」を発表した。1ポートあたりの通信速度は毎秒1.6テラビットで、従来の方式に比べ、レーザーの数は4分の1、電力効率は3.5倍になるとうたう。発表時点では、Quantum-X Photonicsを2025年後半、Spectrum-X Photonicsを2026年に発売する予定としていた。量産の段階については光電融合のイーサネット用スイッチの量産を扱った記事で詳しく報じた。

エヌビディアは発表で、光電融合の協業先として11社を挙げた。TSMC、台湾の波若威科技 (ブラウェーブ)、米コヒレント、米コーニング、ファブリネット、鴻海精密工業、米ルメンタム、センコー・アドバンスト・コンポーネンツ、台湾の後工程大手シリコンウェア・プレシジョン・インダストリーズ、住友電気工業 (住友電工)、中国の天孚通信である。日本の上場企業は住友電工だけだった。センコー・アドバンスト・コンポーネンツは光コネクタの会社で、日本のセンコーアドバンス (旧扇港産業) の子会社にあたる。東証に上場する物流のセンコーグループホールディングスとは別の会社だ。発表は差し込み型の光送受信器を支える会社も別に挙げているが、ここには含めていない。

同社は2026年3月2日、ルメンタムとコヒレントにそれぞれ20億ドル、合わせて40億ドルを出資するとも発表した。いずれも複数年の戦略契約で、数十億ドル規模の購入の確約と、将来の生産枠を使う権利を含む。対象はルメンタムが先端レーザー部品、コヒレントがレーザーと光通信製品である。契約は独占的なものではない。2社は出資金を、米国で製造拠点を広げるなかでの研究開発、将来の生産能力、事業運営に充てる。

CPOが従来の差し込み型とどう違うかは、光電融合と近い方式の違いを整理した記事で解説している。

日本の4社の有報、光電融合の売上高を単独で開示した会社はない

協業先に名前が挙がった住友電工を含め、光部品を手がける日本の上場企業4社が2026年3月期の有報に記した光電融合は、研究開発、試作品の顧客評価、出荷開始といった段階にとどまる。売上高の内訳として光電融合やCPOを示した会社はなかった。数字で追えるのは、光関連製品を含む部門全体の業績である。

会社と部門売上高前期比研究開発費研究開発費の対売上高比率
住友電工・情報通信関連3,266億円+46.3%222億円6.8%
フジクラ・情報通信6,530億円+44.7%115億円1.8%
古河電工・インフラ3,709億円+20.0%158億円4.3%
精工技研・光製品関連201億円+86.6%5.7億円2.8%

研究開発費の比率は、有報に載った部門別の研究開発費を部門の売上高で割って本稿で計算した。古河電工のインフラ部門は電力ケーブルを含み、フジクラの情報通信事業部門は光ケーブルの比重が大きいため、比率は部門の構成の違いも反映している。期は4社とも2025年度 (2026年3月期) である。

住友電工の情報通信関連事業は、データセンター向けの光配線製品、光ケーブル、光デバイスの需要が増え、売上高が前期の2,233億円から3,266億円に伸びた。営業利益は199億円から774億円へ3.9倍に増え、営業利益率は23.7%だった。同社は有報の研究開発活動の欄で、データセンター向けの大容量・高密度の光配線製品の開発に加え、計算能力の向上と消費電力の低減を両立する光電融合に向けた新技術の創出に取り組むとした。製品名や時期には触れていない。目立つのは設備投資の計画である。この事業の2025年度の設備投資は237億円だったが、2026年度は光ファイバー・ケーブル、光配線製品、光・電子デバイスの製造設備に720億円を計画しており、約3倍になる。

フジクラは、4社の中でCPO向けの出荷に最も具体的に触れている。有報によると、同社の偏波面保持ファイバはCPO向けで採用が進み、2025年度は出荷が増えた。偏波面保持ファイバは、光の振動の向き (偏波) を保ったまま伝える光ファイバーである。同社は研究開発部門の重点技術の1つにも次世代の光ファイバーを掲げ、偏波面保持ファイバと画像を送るファイバーの技術で、CPOなど光電融合の技術の発展に貢献するとした。出荷の量や金額は明らかにしていない。情報通信事業部門の売上高は6,530億円で、営業利益は65.7%増の1,527億円だった。

古河電気工業 (古河電工) は、CPO向けの小型の光コネクタを開発している。光集積回路と光ファイバーを高い密度でつなぐ部品である。同社は有報で、40チャンネルのコネクタと、光集積回路の表面に結合する型のコネクタで、損失の小さい接続特性を確かめたとしている。2025年に欧州の光通信の国際会議で報告し、2026年に米国の光通信の展示会に出展した。いまは事業化に向けて顧客の評価を受けている段階だ。全社の研究開発費は284億円で、前期より11.7%増えた。光関連製品と電力ケーブルを含むインフラ部門の売上高は3,709億円、営業利益は214億円だった。同社は有報の経営方針の欄で、CPOを需要の動向を踏まえて先行して取り組む分野とし、2028年度の利益見通しではデータセンター関連事業に光電融合のデバイスを含めた。

精工技研は、データセンター向けの光コネクタや、コネクタの端面を磨く研磨機が伸び、光製品関連の売上高が86.6%増の201億円になった。同じ部門の受注高は254億円 (前期比202.3%) と前期の約2倍、期末の受注残高は83億円 (同276.2%) と約2.8倍だった。受注高は売上高の約1.3倍 (1.26倍)、受注残高は売上高のおよそ5か月分にあたる。同社は光製品関連の研究開発費5.7億円を、多数の光ファイバーを一度につなぐ多心光コネクタと、光電融合の実用化に向けたCPO関連の技術開発に充てたとしている。2026年1月6日には、中国の子会社を通じて河南省鶴壁市に製造会社を設けた。多数のファイバーを並べて固定する光送受信器の部品 (ファイバーアレイ) の引き合いが、急速に強まったためという。

グーグルとエヌビディアは自社の数値を公表しているが、日本の4社のCPOの売上高は部門の数字に含まれたままだ。CPOが日本企業の業績にどこまで寄与しているかを開示で確かめる手がかりは、住友電工の設備投資計画、フジクラのCPO向けファイバーの出荷、古河電工の顧客評価の結果、精工技研の受注残高の4つに限られる。SSDを光でつなぐ別の試みは光SSDの記事で扱った。半導体の工程と用語は半導体の体系解説で説明している。

※2026年10月4日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版でグーグルの検証としていた「エネルギー消費41%削減、通信容量5倍、インフラコスト30%削減」は、光回路スイッチ単体の効果ではありません。同社のネットワークの設計全体を同じ規模の従来の設計と比べた試算で、電力削減の大半は上位のスイッチ層をなくしたことによるものでした。「電気式スイッチ約3,000Wに対し光回路スイッチ約100W、約95%削減」は、論文に3,000Wと95%の数字はなく、論文の記載どおり最大108Wに改めました。水晶光電を日本の光学企業としたのは誤りで、中国の企業です。光モジュールとCPOの市場規模、TPUの出荷台数、AI半導体1個あたりの光モジュールの数の比率、光の国際会議でのメタの信頼性データ、特定の日本企業による材料の独占などは、一次資料で確かめられなかったため削除しました。

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