名古屋大学の山本真義教授が主導する「フェザーインバータ」は、三菱電機の Si IGBT とロームの SiC のチップを1つのモジュールに載せた。専門誌によると、約1kgのサイバートラック用と同等の性能で、重さは約300gだという。
三菱電機とロームは2026年3月27日、東芝を含む3社のパワー半導体の事業統合に向けて協議を始める基本合意書を結んだ。統合を協議する2社のチップが、同じ試作機のモジュールに収まった。ロームは2026年3月期に、炭化ケイ素 (SiC) の事業の固定資産を中心に1,936億円の減損損失を計上している。
モジュールと冷却器の重さはサイバートラック用の約3割、インバーター全体の比ではない
インバーターは、電池の直流の電気を、モーターを回す交流の電気に変える装置だ。電気自動車では、電池とモーターの間に必ず入る。日本経済新聞の技術情報サービス「日経テックフォーサイト」は9月28日、名古屋大学を中心とする産学連携のグループが、薄型で軽い次世代のインバーターを開発すると報じた。
グループの名前は「フェザーインバータ プロジェクト」で、羽 (フェザー) のように軽いという意味を込めた。主導するのは、名古屋大学 未来材料・システム研究所 未来エレクトロニクス集積研究センターの山本真義教授だ。試作機は2026年9月9〜11日に幕張メッセで開かれた展示会「ネプコン ジャパン[秋]」で初めて公開された。展示会を主催する RX Japan は8月18日に特別展示を予告していた。
70%が何を指すかは、主催者が公開した山本教授へのインタビューにある。基準はサイバートラック用インバーターの「パワー半導体モジュールと冷却器の一体装置」で、これと比べて重さを70%減らしたという。展示では、サイバートラックのこの部分と、フェザーインバータの同じ部分を並べた。専門誌の EE Times Japan は9月25日、約1kg のサイバートラック用インバーターと同等の性能で、フェザーインバータは約300gだと報じた。具体的な重さと「同等の性能」は、この報道にだけある。
本誌は、報じられた2つの数字で検算した。300gを1,000gで割ると0.3になり、減った700gは元の重さの70%にあたる。ただし2つの数字はどちらも「約」の付いた概数で、70%は概数どうしの比になる。EE Times Japan は約1kg を「インバーター」と書いているが、主催者の説明に照らすと、比べたのはモジュールと冷却器の部分とみられる。
70%には、インバーター全体のうち、電圧を安定させるコンデンサーやノイズを除くフィルター、制御基板、インバーター全体を収めるケースは含まれていない。コンデンサーとフィルターは、別の作業部会が並行して小型化を進めている。インバーターの出力 (キロワット) や電圧は公表されておらず、同じ出力あたりの重さでは比べられない。
8社は4つの作業部会に分かれ、三菱電機とロームのチップを1つのモジュールに載せた
参加するのは、日本経済新聞が挙げた三菱電機・ローム・大豊工業を含む8社で、名古屋大学を加えて4つの作業部会に分かれる。主催者の資料による分担は次のとおりだ。
| 作業部会 | 参加企業 | 担当する部品や技術 |
|---|---|---|
| パワー半導体モジュール | 三菱電機 | Si IGBT のチップ |
| ローム | SiC のチップ | |
| アオイ電子 | 超薄型のモジュール | |
| 超軽量冷却器 | 大豊工業 | 超微細な冷却フィンの設計と実装 |
| 東レ | PPS 樹脂製の冷却器のケース、熱伝導性のある絶縁接着シート | |
| 平滑コンデンサー | ニチコン | 高温に強い小型軽量のフィルムコンデンサー |
| 名古屋大学 | コンデンサーの配線の設計 | |
| 超軽量フィルター | 北川工業 | ノイズを熱に変える新しい方式のフィルター |
| パナソニック インダストリー | フィルター用のコンデンサー |
中心になるのはパワー半導体のモジュールだ。パワー半導体は、電流のオンとオフを高速で切り替えて直流を交流に変える部品で、インバーターの効率や大きさを左右する。ロームが担う SiC は、従来のシリコンより高い電圧と温度に耐え、オンとオフを切り替えるときの電力損失が小さい半導体材料だ。三菱電機が担う IGBT は、シリコン (Si) で作る大電流向けのトランジスタで、SiC の素子より安い。EE Times Japan によると、ロームは第5世代の SiC MOSFET、三菱電機は逆向きの電流も流せる RC-IGBT を使った。
2種類のチップを1つのモジュールに収めたのがアオイ電子で、同時に実装できたのは世界初だとグループは説明している。第三者による検証は公表されていない。シリコンと SiC を組み合わせた理由は公表されていない。
冷却器では、金属と樹脂を使い分けた。主催者の資料では、大豊工業が冷却フィン、東レが PPS 樹脂製の冷却器のケースと接着シートを担う。EE Times Japan によると、サイバートラックの冷却器はアルミ製で、フェザーインバータはアルミのケースの裏側の放熱部を、東レの PPS 樹脂製の、冷却水を通すカバーで覆う。同誌はアルミのケースを大豊工業の担当と伝えているが、主催者の資料は東レの担当を樹脂製の冷却器のケースとしており、呼び方が異なる。樹脂は形を自由に作れ、コストも下げられるという。
大豊工業は、トヨタ自動車が株式の34.09%を持つ自動車部品会社だ。2026年3月期の決算短信によると、ダイカスト製品の売上高が電動化向けの伸びで136億円に増えた。素形材の専門サイトは2025年9月、同社がアルミダイカストでパワー半導体用の冷却器を開発し、熱伝導率を従来の材料の約2倍に、コストを鍛造品より約30%下げたと報じた。この冷却器がフェザーインバータに使われたかどうかは明らかでない。
山本教授は、軽量化の鍵をコンデンサーとみている。主催者の資料で「軽量化のボトルネックとなる平滑キャパシタをどこまで小型化できるかが鍵」と説明する。名古屋大学は、ニチコンのフィルムコンデンサーの配線を設計している。北川工業はノイズを熱に変える新しい方式のフィルターの試作と実機での検証に成功したとする。パナソニック インダストリーは、フィルター用のコンデンサーの技術で車載への応用を目指す。
統合協議は東芝を含む3社、主導権はまだ決まっていない
三菱電機が3月27日に出した適時開示によると、協議の対象は三菱電機のパワーデバイス事業、ロームの半導体事業、東芝デバイス&ストレージの半導体事業だ。三菱電機は協議が「その緒に就いたばかり」としている。5月29日の説明会の質疑では、漆間啓社長が「毎週のように3社で協議している」と述べ、半導体・デバイス事業本部長の竹見政義常務執行役は、どこが主導権を握るかは「決まっていない」と答えた。統合協議の相手の東芝は、フェザーインバータに加わっていない。統合協議とフェザーインバータの関係に、三菱電機とロームも名古屋大学も触れていない。
ロームは減損を計上し、三菱電機のパワーデバイスは減収が続く。
| 会社 | 項目 | 2025年3月期 | 2026年3月期 | 2027年3月期の見通し |
|---|---|---|---|---|
| 三菱電機 | パワーデバイスの売上高 | 2,435億円 | 2,313億円 | 2,270億円 |
| ローム | 売上高 | 4,484億円 | 4,811億円 | 5,100億円 |
| ローム | 営業損益 | 400億円の赤字 | 108億円 | 300億円 |
| ローム | 最終損益 | 500億円の赤字 | 1,584億円の赤字 | 290億円 |
| ローム | 減損損失 | 303億円 | 1,936億円 | ― |
ロームは2026年3月期の決算短信で、電気自動車市場の成長の見通しが従来の想定を下回ったため、SiC 事業の固定資産を中心に減損損失を計上したと説明した。5月13日の決算説明会の資料には「中国地場の SiC デバイスメーカーが、価格面で攻勢を掛けてきており、中国市場でのシェアが低下」と説明した。
三菱電機は5月29日の説明会で、パワーデバイスの売上高を2031年3月期に3,000億円へ増やす目標を示した。一方で、自動車はパワー半導体市場の成長をけん引するものの、電気自動車への移行が減速し、参入企業が増えて価格競争が激しくなっているとした。重点分野に挙げたのは鉄道・電力、産業・再生可能エネルギー・電源、エアコンなどの民生で、自動車は入っていない。漆間社長は質疑で、車載向けは SiC が主流になるとしたうえで「中国企業に対抗できなければ3社統合の意義が損なわれる」と述べた。
日本経済新聞は2029年の実用化を報じ、ロームは計画見直しの影響を2029年以降とみる
日本経済新聞によると、グループは実用化の目標を2029年に置き、複数の自動車メーカーと直接技術提携する事業モデルを想定している。主催者の資料と EE Times Japan には時期の記載がない。EE Times Japan は、各社が今後も改良を重ね、新たな参加企業も募っていると報じた。
ロームの見通しにも2029年が出てくる。ロームは決算説明会の質疑で、国内の自動車メーカーが電気自動車の生産計画を見直していることの影響を問われ、2029年以降に表れるとみていると答えた。見直しの対象になった計画は、2029年以降に始まるものが多いという。2028年までは、ハイブリッド車で SiC の採用が広がり、電気自動車向けの減少分を補うとみている。SiC 事業の黒字化の時期は2029年3月期に据え、減損で減価償却費が減ったことで損益分岐点は前回の想定より下がったと説明した。実用化の目標は日本経済新聞の報道、ロームの見通しは決算説明会の質疑にあり、両者の関係は示されていない。
ロームの SiC は、すでに自動車メーカーの電気自動車に載っている。2025年6月には、トヨタ自動車の中国向けの電気自動車「bZ5」の主機インバーターに、第4世代の SiC を使ったパワーモジュールが採用されたと発表した。三菱電機は2023年3月、熊本県菊池市の泗水地区に約1,000億円を投じる SiC の新工場棟の建設を決めた。5月29日の説明会の質疑で竹見常務執行役は、2026年度 (2027年3月期) から同工場の減価償却が始まり、利益が一時的に下がると述べた。
空飛ぶクルマとデータセンターにも使える設計だとグループは説明する
日本経済新聞は、用途として電気自動車、空飛ぶクルマ (電動垂直離着陸機、eVTOL)、AI データセンターを挙げた。主催者の資料で山本教授は、フェザーインバータは汎用のインバーターでもあり、電動車のほか航空機、空飛ぶクルマ、データセンター、産業用ロボットに使えると説明している。RX Japan の8月の予告も、電動航空機と空飛ぶクルマの実現を後押しすると書いていた。
軽さが最も求められるのは空を飛ぶ機体だ。スカイドライブの空飛ぶクルマ「SD-05型」は、最大離陸重量が1,400kgの3人乗りで、12基のモーターで飛ぶ。米航空宇宙局 (NASA) の電動の実験機 X-57 では、出力14キロワットのモーター制御器の重さが1kgだった。比べる範囲が違い、フェザーインバータの出力も公表されていないため、約300gと並べて優劣は付けられない。機体1機でどれだけ軽くなるかも計算できない。ロームは2025年5月の資料で、SiC の用途に空飛ぶクルマを挙げ、機体の小型化と軽量化に役立つとして、2025年から量産出荷を始めるとしていた。
データセンターで広がる直流の給電では直流どうしの変換が中心で、直流を交流に変えるインバーターをどこに使うのかは示されていない。
山本教授は中国の電気自動車の分解から、次は軽量化だと語っていた
山本教授は、市販の電気自動車を分解して部品を調べてきた研究者だ。2020年3月に日経BP から出た「テスラ『モデル3/モデルS』徹底分解【インバーター/モーター編】」の著者でもある。名古屋大学の研究者の紹介には、共同研究の企業は40社を超え、海外の自動車メーカーとも関係が深いとある。
2023年6月の自動車専門サイト、レスポンスの取材では、中国の比亜迪 (BYD) の電気自動車「ATTO 3」を分解した結果について「もうこれ以上は必要ないくらい小型化しています」と話し、「では次に何が必要かというと、軽量化です」と述べていた。今回の試作も軽さを前面に出している。
プロジェクトの始まりについて、山本教授は主催者のインタビューで、名古屋大学と各社の産学連携の中で各社が突出した先端技術を持つと知り、日本の産業の底力を広く知ってもらえると考えたと説明した。フェザーインバータは初めから計画したものではなく、各社の要素技術を組み合わせた結果として生まれたアイデアで、「先端技術のボトムアップ型の日本らしいプロジェクト」だとしている。日本経済新聞の取材には、中国に対抗できる開発の速さに自信を示した。
統合協議とは別に、三菱電機とロームのチップは8社と名古屋大学の試作機に同居した。この試作機のモジュールと冷却器の重さは、サイバートラック用の約3割だ。日本経済新聞によると、グループは2029年の実用化を目標に、複数の自動車メーカーと直接技術提携する形を想定している。
三菱電機とロームの事業や開示は、三菱電機の企業ページと銘柄ページ、ロームの企業ページと銘柄ページで確かめられる。SiC とパワー半導体の仕組みは、用語解説のSiCとパワー半導体にまとめている。ロームの AI サーバー向けの電源の事業は1ラック1メガワット時代の AI サーバーの電源とパワー半導体で扱った。
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