テスラのタネジャ最高財務責任者は2026年4月、中国でFSDの一部の承認は得たが、より広い範囲の承認はまだで、7〜9月期の取得を目指した。その時期を過ぎた10月13日も、中国の注文サイトは上位版の機能の一部を後日提供としている。
米テスラは2026年5月21日 (日本時間)、X (旧ツイッター) の公式アカウントで、高度運転支援ソフト「FSD (フル・セルフ・ドライビング)」を利用できる10の国と地域を挙げ、その中に中国を入れた。ところが中国向けの注文サイトを開くと、上位版 (6万4,000元の運転支援) は下位の2段階の機能をすべて含むとしたうえで、上位版の名を冠した機能は後日提供とあり、使えるようにするには研究開発と行政の審査が要り、長い時間がかかる可能性があると記されている。10月下旬に出る7〜9月期の決算説明資料を前に、テスラの開示資料と中国の規制、中国の競合メーカーや日本企業の発表を突き合わせ、中国でのFSDがどの段階にあるかを確かめた。
中国のFSDは市街地の運転支援まで
テスラ中国は2025年2月25日、ソフトウエアの更新 (バージョン2024.45.32.12) を一部の車の所有者から順に配信し、市街地での運転支援機能を追加した。澎湃新聞が伝えた、ウィーチャット上のテスラ中国の小型アプリの表示と顧客窓口の説明によると、車は交差点で信号を認識して直進や右左折、Uターンをし、速度と経路に応じて車線を変更する。対象は第4世代の運転支援用コンピューターを搭載し、FSDを購入した車の一部である。同紙は、2024年2月以降に生産したモデルYとモデル3、新型のモデルSとモデルXがこれにあたると補足した。当時のFSDの価格は6万4,000元だった。
10月13日時点のモデルYの注文サイトでも、上位版は6万4,000元、下位版は3万2,000元だった。上位版の追加料金は、後輪駆動モデルの車両価格26万3,500元の24.3%に相当する。2025年2月の報道で完全自動運転能力と呼ばれていた上位版は、いまの画面ではテスラの運転支援という意味の名前になっている。テスラ中国はこの画面で、いま使える機能は運転者が常に周囲を監視する必要があり、完全な自動運転ではないと断ったうえで、上位版の機能を後日提供としている。
テスラは2四半期続けて、決算説明資料で中国での承認取得に短く触れた。2025年10〜12月期の資料では中国と欧州で当局の承認取得を引き続き目指すとし、2026年1〜3月期の資料では中国での承認手続きが進んでいるとした。4〜6月期の資料は、オランダに続きリトアニアなど4か国で承認を得たとし、承認を得た欧州の国々の利用者のFSDでの累計走行距離が7月までに5,000万キロメートルを超えたと記したが、中国には触れなかった。ヴァイバブ・タネジャ最高財務責任者の4月の発言は、電気自動車の専門メディアが載せた決算説明会の書き起こしによる。
10月13日時点のFSDの紹介ページは、注記で米国、カナダ、中国、メキシコなど16の国と地域を挙げている (米領プエルトリコを含み、国の数は15か国と表示)。同じページには、機能の提供は規制当局の承認などに左右されるとの注記もある。投稿から半日あまり後に、カナダのテスラ専門メディアが、中国の車の所有者から新しいソフトを受け取ったという報告は出ていないと伝えた。テスラは5月に中国を利用できる地域の1つに挙げたが、一般の利用者に、2025年2月の市街地の運転支援より先の機能を配信したことを示す開示資料 (決算説明資料・注文サイト) は10月13日時点で見当たらない。同社は年次報告書で、中国などの主要市場は運転支援と自動運転の規制を整備している途上で、その内容は米国や、国連欧州経済委員会の規則に従う欧州などの国々と大きく異なる可能性があるとしている。
中国、ソフトの遠隔更新に許可制、27年に強制基準
テスラ中国が市街地の運転支援を配信し始めた2025年2月25日は、中国の工業情報化省と国家市場監督管理総局が、コネクテッドカー (ネットにつながる車) と、インターネット経由で車のソフトウエアを書き換える遠隔更新の管理を強める通知に付けた日付と同じである。通知によると、メーカーは遠隔更新を両当局に届け出る必要がある。車の主要な技術仕様が変わる更新は、変更の許可を得て届け出を済ませるまで実施できない。自動運転の機能に関わる更新は、型式認可の規定に沿って許可を得る必要がある。すでに認可を得た車種について、メーカーは2025年6月1日までに運転支援と遠隔更新の技術仕様と検証データを追加で提出する必要があった。メーカーは、運転支援の作動中に機能が解除された事例や、運転支援を搭載する車の衝突事故を両当局に報告する。
工業情報化省は、レベル2の運転支援システムの安全要件を定めた強制力のある国家標準 (GB 47955-2026) が2026年6月27日に承認・公表されたと発表した。2027年1月1日に施行する予定である。運転支援を車線維持型、複数車線型、ナビ連動型の3つに分け、機能やデータの記録、メーカーの安全管理などの要件を定めた。国連の運転支援に関する自動車基準と中核の技術内容をそろえたうえで、中国の実情に合わせてより細かい要件を加えたという。同省によると、2026年に入り、レベル2の運転支援を搭載する乗用車は新車販売の70%に達し、ナビ連動の運転支援を備える車種は30%を超えた。
テスラは半導体の性能を開示せず、小鵬汽車は自社開発品
テスラは自社設計の運転支援用の半導体について、年次報告書にも、2025年10〜12月期から2026年4〜6月期までの決算説明資料にも、現行品の演算性能や製造の委託先を記していない。開示しているのは次の世代の計画で、「AI5」を2027年、「AI6」を2028年に生産する予定とし、AI5は現行品に比べ演算能力を10倍、メモリー容量を9倍にするとしている。エヌビディアは自動車向けの現行品のAI処理性能を最大で毎秒254兆回の演算、次世代品を毎秒1,000兆回超としている。
中国勢の半導体の選び方は一様ではない。小鵬汽車 (シャオペン) は2025年の環境・社会・企業統治報告書で、自社設計の半導体が1個で最大毎秒750兆回の演算に達するとした。演算の精度など算出の条件が同じとは限らないが、数字の上ではエヌビディアの現行品の2.95倍にあたる。ロボタクシー向けのシステムはこれを4個搭載して毎秒3,000兆回の演算をこなし、レーザーで距離を測るセンサー (ライダー) や高精度地図に頼らないという。ファーウェイは非上場だが年次報告書を出している。運転支援システム「乾崑」や車載部品を手がける自動車向け事業の2025年の売上は450億1,800万元で、前年の261億5,800万元から72.1%増えた。車載部品の年間出荷数は3,800万個を超えた。
エヌビディアの半導体を使う理想汽車 (リ・オート) は、大規模なソフト更新に踏み切った。同社は10月1日に発表した9月の納車台数の資料で、エヌビディアの現行品と次世代品の半導体を搭載する上位の運転支援システムの車約100万台について、運転支援ソフトを遠隔更新で新しい版に切り替えたと明らかにした。同じ通知のもとで競合が100万台規模の更新を進める一方、テスラ中国の上位版は一部の機能の提供時期が示されていない。中国の運転支援用半導体のシェアは別の記事で詳しく扱った。
日産はN7で中国のモメンタと組む、中国は世界販売の2割
日本の自動車メーカーのうち、中国向けの車に搭載する運転支援の共同開発先を自社の発表で明らかにしているのは日産自動車である。同社によると、東風日産が2025年4月27日に発売した電気自動車「N7」は、中国の自動運転の新興企業モメンタと共同で開発したナビ連動の運転支援を搭載する。価格は11万9,900〜14万9,900元で、発売から1か月の受注は1万7,215台だった。テスラ中国で上位版を付ける追加料金6万4,000元は、N7の車両価格の42.7〜53.4%に相当する。モメンタは2024年12月、東風日産と高度な運転支援の開発で組むと発表し、市街地で一度走った道を記憶して案内するナビ連動の運転支援を、中国と外国の合弁の大手メーカーとして初めて搭載するとしていた。
日産はN7を、2027年夏までに中国に投入する新エネルギー車9車種の第1弾と位置づける。2025年度 (2026年3月期) の中国の小売販売台数は65万3,000台で、前年度の69万7,000台から6.3%減り、世界全体の315万1,000台の20.7%を占めた。日産は決算報告で、中国はN7とN6の投入で2025年 (1〜12月) は堅調だったとし、2026年度の中国の小売販売を前年度比8.7%増の71万台と見込む。
ルネサスの自動車向けは車載制御が6割、売上の3割は中国向け
ルネサスエレクトロニクスの決算資料をみると、同社の売上の中心は、運転支援の演算を担う高性能の半導体ではない。2025年12月期の売上収益 (一時的な損益などを除いた値) は1兆3,185億円で、自動車向け事業の売上収益は6,397億円 (前年比9.0%減)、営業利益は1,966億円 (利益率30.7%) だった。自動車向けは全社の約50%を占め、その約60%はエンジンや車体などを制御する半導体の「車載制御」、約40%は車内外の環境を検知するセンサリングシステムや車載情報機器に使う「車載情報」である。製品別では全社の売上の40%がマイコンで、複数の機能を1つのチップにまとめた半導体は15%にとどまる。
2026年1〜6月の自動車向け事業の売上収益は3,587億円で、前年同期から13.4%増えた。2026年2月に譲渡を決めたタイミング事業を、比べる期間も含めて「その他」に組み替えた後の値である。同じ期間の地域別の売上収益 (国際会計基準、全事業) は中国向けが2,417億円で、合計7,987億円の30.3%を占めて最も大きい。前年同期は中国が1,976億円、合計が6,343億円で31.2%だった。中国向けの値は全事業の合計で、自動車向けだけではない。
テスラの中国売上比率は17.5%に低下、7〜9月期の開示が次の焦点
テスラの地域別売上高では、中国の比率が下がっている。2025年の中国の売上高は209億6,200万ドルで、全体の948億2,700万ドルの22.1%だった。2026年1〜6月は88億5,900万ドルで前年同期の86億800万ドルから2.9%増えたが、全体が418億3,100万ドルから506億2,300万ドルへ21.0%増えたため、比率は17.5%に下がった。FSDの有料契約は6月末に148万件 (前年同期比56%増) まで伸び、米国では旧型の半導体を搭載する車にも新しい版を配信し始めた (韓国は7月から)。中国の上位版は、利用できる地域に数えられながら一部の機能の提供時期が示されないまま、タネジャ氏が目標とした7〜9月期を過ぎた。
10月下旬に出る7〜9月期の決算説明資料でテスラが中国での承認にどう触れるかが次の焦点で、2027年1月に施行予定の強制基準がその先にある。テスラの自社設計の半導体が中国勢より優れているかどうかは、同社が開示した数字からは確かめられない。
※2026年10月13日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版は、テスラが2026年5月21日 (日本時間) に中国をFSDの利用できる地域に挙げたことを、中国で正式にサービスを始めたと書きましたが、注文サイトでは上位版の機能の一部は後日提供のままで、全面的な承認はまだ得ていないという内容に改めました。テスラの半導体の演算性能を推定で毎秒500兆〜600兆回とし、製造を台湾積体電路製造 (TSMC) の7ナノメートル工程とした記述は、同社が開示していないため削除しました。ファーウェイ・小鵬汽車・理想汽車がエヌビディアの半導体に頼るとした記述は、小鵬汽車は自社設計の半導体を使う、などの内容に改めました。中国の部品会社2社がテスラ向けの部品を受注したとする記述と、日本企業4社の株価の見通しは、根拠を確認できないため削除しました。
投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談は、編集部のお問い合わせ窓口までお寄せください。
💬 この記事へのコメント 0
まだコメントはありません
最初のコメントを投稿してみましょう!⚠️ エラーが発生しました