削る場所が版ごとに違う。300ワットに絞ったマックスQ版が手放したのは演算の12.0%で、メモリーの帯域は1ビットも減っていない。同じ1,200ワットの枠を2枚で使うか4枚で使うかという問いが、この一点から立ち上がる。
エヌビディアはRTX PRO 6000ブラックウェルを、サーバー版、ワークステーション版、マックスQワークステーション版の3つで供給する。演算部分は3版とも共通で、CUDAコア24,064基、RTコア188基、第5世代のテンソルコアを備え、誤り訂正つきのGDDR7を96ギガバイト積む。RTコアは光線追跡の交差判定を専門に処理する回路、テンソルコアは行列の積和演算だけを高速に回す回路である。誤り訂正とは、素子の中で1ビットが化けた場合に検出して直す仕組みで、数日から数週間走り続ける学習や描画では、これが無いと途中の1回の化けが計算全体を無駄にする。
分かれるのは冷却の方式と消費電力と寸法である。ただし公表仕様を並べると、差はそこで止まっていない。
96ギガバイトは512ビットの経路に素子を32個ぶら下げて作る
512ビット幅を32ビットずつ16の経路に分け、1経路あたり3ギガバイトの素子を1個つなぐと48ギガバイトになる。基板の裏面にもう1個貼り、表と裏で同じ経路を分け合わせると96ギガバイトに届く。3ギガバイト品のGDDR7が量産に入ったことが前提で、この実装を取らなければ48ギガバイトで頭打ちになる。
この96ギガバイトに大規模言語モデルの重みがどこまで載るか、GDDR7とHBMで作り方がどう分かれるか、4ビット精度がなぜ成立するかは、同じ製品を数値精度の側から分解した稿で扱った。本稿が追うのは、同じ96ギガバイトを積みながら3つの版で何が削られたのかである。
電力を半分に絞って失うのは12%、帯域は据え置かれた
マックスQ版は300ワットで動く。ワークステーション版の600ワットのちょうど半分である。マックスQという呼び名はもともと航空宇宙の用語で、打ち上げ中の機体にかかる空気の力が最大になる瞬間を指す。エヌビディアはこれを「与えられた枠の中で最も効率が高くなる動作点」の意味に転用している。
半分に絞った代償は小さい。単精度は125から110TFLOPSへ12.0%、4ビット精度の推論性能は4,000から3,511TOPSへ12.2%、光線追跡は380から333TFLOPSへ12.4%下がるだけである。そしてメモリーの帯域は1,792GB/秒のまま動かない。ここでいう帯域とは、1秒間にメモリーと演算チップの間で運べるデータの量を指す。半導体の消費電力は動作電圧の2乗におおむね比例するため、動作点をわずかに下げると電力は急に落ち、性能は緩やかにしか落ちない。GDDR7側は別系統で駆動されるので、演算部を絞っても帯域は保てる。
1,200ワットの枠を600ワット2枚で使うと、容量192ギガバイト、帯域3,584GB/秒、単精度250TFLOPS。同じ枠を300ワット4枚で使うと、384ギガバイト、7,168GB/秒、440TFLOPSになる。容量と帯域が2.00倍、演算も1.76倍で、3つとも4枚構成が上回る。言語モデルが1語ずつ答えを出す段階ではメモリーから重みを読み出す速さが上限を決め、演算器はその間待っている。帯域が2倍という差が、そのまま処理量の差として出る。
サーバー版は帯域を1割削り、代わりに1枚を4区画に分けられる
サーバー版の帯域は1,597GB/秒で、ほかの2版より10.9%低い。一方で単精度は120TFLOPSと4.0%しか下げていない。削る場所が逆になっている。受動冷却は基板の上にファンを持たず、筐体が起こす風に熱を委ねる方式で、GDDR7の素子は演算チップより風下に置かれることが多い。帯域を下げることは、素子の温度余裕を買う行為にあたる。
引き換えに得るものが2つある。1枚を最大4区画へ完全に隔離でき、4人の利用者や4つの業務に固定的に割り当てられること。もう1つは、液冷を選べば占有が1段に収まることで、これはラック1台に積める枚数を倍にする。映像の符号化と復号を担う専用回路を4基ずつ備える点は3版で共通しており、仮想デスクトップ環境を多人数へ配る用途はここに支えられている。データセンター側の受け入れ能力が先に限界へ達する構図は、以前に整理した工程別の行き詰まりと重なる。
600ワットを配り、熱を捨てるまでに日本の部品が入る
600ワットを12ボルトで受けると入力は50アンペアになる。これを演算チップの直下でおよそ1ボルトまで落とすため、基板の上では数百アンペアが流れる。多相の電源回路、導電性高分子コンデンサ、積層セラミックコンデンサ、電源用インダクタが要求される領域で、演算チップ自体は台湾で作られても、この部分は日本勢の持ち分が高い。ここで見るのは製造装置ではなく、基板と筐体の中に実際に入る部材である。
| 部位 | 役割 | 日本の主な供給企業 |
|---|---|---|
| パッケージ基板 | 演算チップを載せて配線を引き出す | イビデン (4062) |
| コンデンサ | 数百アンペアの変動を吸収する | 日本ケミコン (6997) / 村田製作所 (6981) / 太陽誘電 (6976) |
| 電源用インダクタ | 多相回路で電流を平滑にする | TDK (6762) |
| 熱伝導材 | 演算チップと放熱器の隙間を埋める | 信越化学 (4063) / 日東電工 (6988) / レゾナック (4004) |
| ヒートパイプ | 熱を放熱面へ運ぶ | フジクラ (5803) / 古河電気工業 (5801) |
| 冷却ファン | 受動冷却の版はこれに全面依存する | 山洋電気 (6516) / ミネベアミツミ (6479) |
この一覧に本来なら並ぶはずの名前が1つ欠けている。パッケージ基板の代表格だった新光電気工業は、産業革新投資機構が主導する公開買付が2025年3月18日に成立し、株式併合を経て同年6月に上場廃止となった。技術は残り、投資対象としては市場から消えた。企業データベースでも、この違いは分けて扱っている。
磁石をたどると2026年11月10日の期限に行き着く
冷却ファンと液冷の循環ポンプは、いずれも永久磁石を使うモーターで回る。高温で回り続けるとネオジム磁石は磁力を失うため、耐熱性を上げる添加物としてジスプロシウムとテルビウムが加えられる。この2つは中重希土類に分類される。中重希土類とは、レアアース17元素のうち原子番号の大きい側で、埋蔵も精錬も特定の国に偏っている区分を指す。
2025年4月4日、中国はサマリウム、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、ルテチウム、スカンジウム、イットリウムの7品目を輸出管理の対象に加え、輸出には許可の取得を義務づけた。同年10月にはさらに範囲を広げたが、11月7日の公告第70号で、10月に追加した措置の実施を11月10日から2026年11月10日まで停止している。停止は撤廃ではなく、4月の措置はそもそも停止の対象に入っていない。期限まで3か月を切った。
受動冷却の版を選ぶと、ファンは基板の上から筐体の側へ移る。磁石の需要が消えるのではなく、買う主体が基板を売る側からサーバーを組み立てる側へ移動する。
| 銘柄 | 証券コード | 供給網での位置 |
|---|---|---|
| 信越化学 | 4063 | 希土類磁石と放熱用シリコーン材の双方を手がける |
| TDK | 6762 | ネオジム磁石を自社で生産し、電源用部品も供給する |
| 大同特殊鋼 | 5471 | モーター向けネオジム磁石の国内主要供給者 |
| 住友金属鉱山 | 5713 | 非鉄の製錬と機能性材料を持ち、原料側に近い |
| 双日 | 2768 | 政府系機関との合弁で豪州産のジスプロシウムとテルビウムを日本向けに確保する |
双日の位置づけだけは、規制の外側に足場を持つ点で他と性質が異なる。同社はエネルギー・金属鉱物資源機構と2011年に設立した合弁を通じ、2023年3月に豪州ライナス社へ2億豪ドルを追加出資し、マウントウェルド鉱山産のジスプロシウムとテルビウムを最大65%まで日本向けに供給する長期契約を結んだ。日本の企業が参画した重希土類の一貫生産としては最初の長期契約にあたる。2025年10月からは実際の輸入も始まっている。
停止が延長されれば調達は当面通常に戻り、されなければ2025年春と同じ確認作業が繰り返される。冷却方式の選択は性能の話に見えて、最後は元素の調達可能性に接続している。
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