帯域は32テラバイト毎秒から1,024テラバイト毎秒へ、電力は2.2キロワットから15.3キロワットへ。ところが同じ設計値を並べると、演算ダイの面積は逆に18%縮む。太るのは中身ではなく周りである。

人工知能向けの半導体を語るとき、話はどうしても演算装置の性能に集まる。だが設計の側から見ると、そこが速くなるほど別の場所が順に行き詰まる。メモリが追いつかず、次に演算装置どうしをつなぐ通信が足りなくなり、通信を速くすれば電力が増え、電力を運べば実装が巨大になり、最後に熱が抜けなくなる。

この連鎖には名前がある。系全体の速さを決めてしまう最も遅い部分、すなわち行き詰まりの箇所である。演算装置が2倍速く計算できても、データが届くのが同じ速さなら、装置は待つだけになる。速くした分の投資が返ってこない。

韓国科学技術院の実装研究室が示した世代別の設計値と、業界各社が公表した実装・電力・冷却の計画を突き合わせると、この連鎖がどの順番で、どの年に来るのかが数字で追える。用語を先に確かめておきたい。

用語とは何か
帯域 (バンド幅) とは1秒間に運べるデータの量。道路の車線数にあたる。演算装置がどれだけ速くても、車線が足りなければ材料が届かない
HBM とは演算装置の隣に積み上げて置く高速のメモリ。積む段数が増えるほど容量と帯域が伸びる
インタポーザ とは演算装置とHBMを載せる土台の板。両者の間に極細の配線を通す。これが大きいほど多くの部品を1つの組に収められる
レチクル とは露光装置が一度に焼ける最大の面積。26ミリ×33ミリ、およそ858平方ミリメートル。これを超える板は一度では作れない
光電融合 (CPO) とは電気の配線を光へ置き換え、光に変える装置を演算チップのそばへ寄せる技術。距離が縮むほど電力と遅れが減る
800ボルト直流 とはデータセンターの配電を交流から高圧の直流へ切り替える方式。変換の段数が減り、同じ太さの導体でより多くの電力を運べる

設計値を並べる ― 世代ごとに何がどこまで伸びるのか

まず素材を数字のまま置く。韓国科学技術院テラバイト実装研究室が公表した世代別の設計値である。

項目ルービン (2026年)ファインマン (2029年)ポスト・ファインマン (2032年)次世代 (2035年)
演算ダイの面積728平方ミリ750平方ミリ700平方ミリ600平方ミリ
演算ダイ1個の電力800ワット900ワット1,000ワット1,200ワット
組の名称R200F400ポスト・ファインマン次世代
インタポーザの寸法46.2×47.5ミリ85.2×56.2ミリ102.8×58.5ミリ96.4×95.9ミリ
インタポーザ面積2,194平方ミリ4,788平方ミリ6,014平方ミリ9,245平方ミリ
演算ダイの数2個4個4個8個
HBMの世代と段数HBM4×8HBM5×8HBM6×16HBM7×32
総帯域16/32 TB/s48 TB/s128/256 TB/s1,024 TB/s
HBM総容量288/384 GB400/500 GB1,536/1,920 GB5,120/6,144 GB
総電力2,200ワット4,400ワット5,920ワット15,360ワット

インタポーザの面積は縦横の積と一致する。46.2×47.5は2,194.5、85.2×56.2は4,788.2、102.8×58.5は6,013.8、96.4×95.9は9,244.8。表の4つの数字は、いずれも小数の丸めの範囲で合う。設計値として筋が通っている。

世代別の設計値 ― 演算ダイは縮み、実装は4.2倍に広がる
世代別の設計値 ― 演算ダイは縮み、実装は4.2倍に広がる

太るのは演算装置ではなく、その周り

この表でいちばん目を引くのは、実は伸びている数字ではない。演算ダイの面積が728平方ミリから600平方ミリへ、18%縮んでいることである。

同じ期間に、インタポーザは2,194平方ミリから9,245平方ミリへ4.21倍に広がる。演算ダイの数は2個から8個へ、HBMは8段から32段へ。1つ1つの部品は小さくなり、数を増やして土台の上に敷き詰める形へ移る。歩留まりの落ちる大きなダイを1枚作るより、小さなダイを複数つないだほうが安く済むという判断が、設計値としてはっきり出ている。

電力の内訳を割ると、この移り変わりがさらに見える。演算ダイの電力を数で掛けると、ルービンは800ワット×2で1,600ワット。総電力2,200ワットの73%を占める。次世代は1,200ワット×8で9,600ワットだが、総電力は15,360ワットなので比率は62%に下がる。差の5,760ワットはHBMと周辺が食う。演算装置以外が使う電力は、600ワットから5,760ワットへ9.6倍になる

演算装置の性能だけを追いかけていると、この9.6倍は視界に入らない。だが電源も冷却も、この合計値に対して設計しなければならない。

電力7倍は効率の悪化ではない ― 帯域で割ると4.6倍よくなる

総電力が2.2キロワットから15.3キロワットへ7倍になるという数字は、単体で見ると悪い知らせに読める。だが帯域で割ると評価が反転する。

1キロワットあたりの帯域を計算すると、ルービンが14.55テラバイト毎秒、ファインマンが10.91、ポスト・ファインマンが43.24、次世代が66.67となる。始点から終点までで4.6倍の改善である。運ぶデータの量あたりで見れば、電力の効率はむしろ上がっていく。

同時に、この計算はもう1つのことを示す。2029年のファインマン世代で、効率がいったん10.91まで落ちる。前の世代より悪い。帯域が48テラバイト毎秒にとどまる一方で電力が4,400ワットへ倍増するためで、この年だけ谷ができる。演算ダイを2個から4個へ増やしながら、HBMの世代交代が追いつかない過渡期にあたる。

電力あたりの帯域 ― 全体では4.6倍改善するが、2029年に谷ができる
電力あたりの帯域 ― 全体では4.6倍改善するが、2029年に谷ができる

投資の判断としては、この谷の意味が大きい。電力効率が改善しない世代では、データセンター側の受け入れ能力が先に限界へ達する。同じ電力枠でこなせる計算量が伸びないからだ。逆に効率が跳ねる2032年以降は、既存の建屋のまま処理量を増やせる余地が生まれる。

9,245平方ミリという板は、一度の露光では作れない

実装の物理へ降りると、この計画がなぜ難しいのかがはっきりする。

露光装置が一度に焼ける最大の面積は26ミリ×33ミリ、およそ858平方ミリメートルである。これをレチクル1枚分と呼ぶ。表のインタポーザをこの単位で割ると、ルービンが2.6枚分、ファインマンが5.6枚分、ポスト・ファインマンが7.0枚分、次世代が10.8枚分になる。1回の露光では到底収まらず、複数回に分けて継ぎ合わせる必要がある。

台湾積体電路製造が公表した実装技術の計画は、この数字とほぼ重なる。現行は3.3枚分でHBMを8段まで。2025年から2026年に5.5枚分へ広げ、HBM4を12段まで載せる。2027年には9.5枚分を量産へ持ち込み、2028年には14枚分でHBM5を20段、2029年には14枚分超でHBM5Eを24段まで、という道筋である。

並べると、韓国科学技術院の設計値は、この実装計画の枠内にきれいに収まる。ファインマンの5.6枚分は2025年から2026年の5.5枚分に、ポスト・ファインマンの7.0枚分は2027年の9.5枚分に、次世代の10.8枚分は2028年の14枚分に、それぞれ入る。メモリの世代計画と実装の面積計画が、別々の組織から出ながら同じ線の上にある。この一致は、計画が絵空事ではないことの裏づけになる。

もっとも、面積が広がるほど別の壁が立つ。5.5枚分では100ミリ×100ミリ、9.5枚分では120ミリ×150ミリの基板が要る。円形のウエハーから四角い大板を取ると、外周の切り捨てが増えて歩留まりが落ちる。だから角板からそのまま取る方式、いわゆるパネル単位の実装が検討されている。2028年に大型実装が課題として浮上するのは、この事情による。

銅の量が配電方式を変えさせた

電力の側にも、あまり報じられない具体的な理由がある。

エヌビディアは2027年のキーバー機構に合わせ、データセンターの配電を800ボルト直流へ切り替える計画を進める。この機構は1つの筐体にルービン・ウルトラの演算ダイを576個収め、消費電力はおよそ600キロワットに達する。効率の改善幅は端から端まで最大5%、保守費用の削減は最大70%とされる。

だが方式変更の直接の引き金は、効率よりも銅である。従来の54ボルト直流のまま1メガワットの筐体に電力を送ると、母線だけで最大200キログラムの銅が要る。1ギガワット規模のデータセンターなら、筐体の母線の合計で最大20万キログラムに達する。800ボルト直流に上げれば、同じ太さの導体で最大85%多い電力を運べ、基幹配線の銅を45%減らせる。

つまり800ボルト化は、省エネルギーの話であると同時に、資材の調達の話でもある。銅の価格は史上最高値圏にあり、非鉄大手の決算でも価格上昇が利益を押し上げる形で表れている。買い手であるデータセンター側から見れば、これは仕入れ値の上昇そのものである。配電方式を変えて銅を減らすことは、電気代の節約であると同時に、資材の値上がりからの逃避でもある。

配電方式の切り替えを促したのは効率ではなく、銅の量である
配電方式の切り替えを促したのは効率ではなく、銅の量である

ガラスの板に、配線と冷却水路を同時に通す

熱の側は、2030年前後に方式そのものが変わる。

1つの組が15キロワットを消費する世界では、冷たい板を上から当てる従来の水冷では追いつかない。演算ダイと冷却板の間には熱を伝えにくい層が必ず挟まり、そこで温度差が生まれるからだ。そこで、演算チップの内部に微細な水路を彫って冷媒を直接通す方式が実用化へ向かう。台湾積体電路製造が進めるこの方式は、熱を伝えにくい層を経由しないため、従来の冷却板と比べて熱を運ぶ効率が最大3倍、演算チップ内部の温度上昇を最大65%抑えたと報告されている。

ここでガラス基板が効いてくる。ガラスは化学的にも熱的にも安定し、表面が滑らかで流体の挙動を制御しやすい。しかも同じ板の中に、電気を通す貫通穴と冷媒の水路を同時に作り込める。配線の板と冷却の部品が別々だったものが、1枚のガラスに統合される。レーザーで微細な水路を彫る工程を担うのが、独LPKFである。同社は2028年から2029年にかけての実装の要になる。基板の役割が「配線を通す板」から「配線と冷却を兼ねる構造体」へ変わる、という点がこの技術の勘所になる。

行き詰まりが移動する順番

以上を時系列に置き直すと、業界で語られてきた流れが設計値の裏づけを得る。

現在から2026年は、メモリと高速な光通信が足を引っ張る時期にあたる。演算装置が速くなっても、データを運ぶ側が追いつかない。2027年は800ボルト直流の始動と光電融合の初期導入が重なる。2028年は演算装置どうしをつなぐ光通信が本格化し、大型実装で製造の効率を上げる段階へ入る。2029年はガラス基板が大型で高密度な実装の主流になり、次世代のHBMが本格採用される。2030年から2031年にかけては、基板の内と外の通信を光で統合し、メモリを立体的に積み、微細な水路による冷却が広がる。

行き詰まりが「メモリ→電力→光通信→先端実装→冷却」と順に移る。これは技術の流行が移り変わるという話ではない。前の段を解いた結果として、次の段が新しい制約になるという因果である。光通信を速くしたから電力が増え、電力を増やしたから熱が問題になる。順番が入れ替わることはない。

銘柄は「どの段の詰まりを解くか」で並べ直す

投資の対象は、この段ごとに分けると整理しやすい。以下は、この流れで名前の挙がる企業を、担う段で並べ直したものである。

メモリと光通信の段 (現在〜2026年)マイクロン(MU)がHBMを、コヒレント(COHR)とルメンタム(LITE)が光の部品を担う。日本勢ではJX金属(5016)がインジウムリン基板で世界シェア約1割を持ち、住友電気工業(5802)がレーザー素子でエヌビディアの供給者一覧に名を連ねる。東京エレクトロン(8035)は製造装置の側から関わる。この構図と、材料の目詰まりについては別稿で詳しく扱った。

電力の段 (2027年)ブロードコム(AVGO)に加え、800ボルト化で窒化ガリウムと炭化ケイ素の電力用半導体を供給するナビタス(NVTS)、電源のヴァイコー(VICR)。日本勢はローム(6963)、富士電機(6504)、日本ケミコン(6997)が電力変換と受動部品で入る。

光通信と大型実装の段 (2028年) — ブロードコムとコヒレントに、ガラスの微細加工でLPKF。日本勢はレゾナック(4004)が実装材料、JX金属が基板材料、住友電工が光部品で並ぶ。

ガラス基板と次世代メモリの段 (2029年) — マイクロン、アプライドマテリアルズ(AMAT)、LPKF。日本勢はイビデン(4062)が実装基板、レゾナックが材料、東京エレクトロンが装置で関わる。

光の入出力と立体メモリ、冷却の段 (2030〜31年) — ブロードコム、ラムリサーチ(LRCX)、電源と冷却のヴァーティブ(VRT)。日本勢は住友電工、東京エレクトロン、そして冷媒を送るポンプ用のモーターでニデック(6594)が入る。

なお、この主題でしばしば混同される点を1つ整理しておきたい。インジウムやガリウムは希土類ではなく希少金属である。希土類はネオジムやジスプロシウムなど17元素の総称で、モーターの磁石や研磨材に使われる。光の部品を握るのは前者、モーターを握るのは後者で、対象となる企業も精製の技術も別になる。希土類の側の銘柄は役割別の一覧で30社を整理した。

日本勢の並びを眺めると、共通する性質が浮かぶ。完成した演算装置を作る会社は1社もない。基板、材料、光部品、電力変換、製造装置、モーター。いずれも装置の中に必ず入るが、単体では表に出ない部品である。演算装置の値動きと、その中で不可欠な部品を握る企業の収益は別々に動く。この構図は記憶装置の側でも同じ形で観察できた。

予測が崩れるとすれば、需要ではなく作れるかどうかである

この計画表を材料として扱うときに見るべき変数は、需要の側にはあまりない。人工知能への投資が続くかどうかより、供給の側に3つの関門がある。

第1が実装の面積で、10.8枚分のインタポーザを歩留まり良く作れるか。継ぎ合わせの精度と、角板から取る方式の完成度に左右される。第2が電力で、1つの筐体が600キロワットを超える世界では、建屋の受電容量と冷却設備が先に上限へ達する。第3が材料で、光の部品はインジウムリンの供給に、配電は銅の価格に、それぞれ縛られる。

演算装置の面積が18%縮む一方で、それを載せる板が4.2倍に広がる。この非対称が、今後6年の投資が向かう先を端的に表している。速くなるのは中心だが、金がかかるのは周りである。