スペースXとテスラがテキサス州で半導体工場テラファブに着工する。掲げる1テラワットの演算需要は世界の総電力の3割にあたる。投資額を床面積で割り、水利権の書き換えまで遡って計画の実像を検証する。
スペースXとテスラが、テキサス州グライムズ郡に先端半導体工場「テラファブ」を建設する。第1期の投資額は168億ドル、日本円でおよそ2兆6,400億円。延床面積は1億平方フィートを超え、雇用は最低3,000人。論理半導体と記憶半導体の製造から封止、検査までを1つの敷地で完結させる垂直統合型の構想で、テスラの人型ロボットと自動運転車向けの推論半導体、およびスペースXの軌道上データセンター向けの高出力半導体を作る。
発表文の根拠になっているのは、両社を合わせた需要が「1テラワットを超える演算能力」に達するという1文である。この数字を実在する電力と突き合わせるところから始めたい。
テラワットは演算量ではなく電力の単位である
まず単位を確かめる必要がある。テラワットは1兆ワット、つまり毎秒の消費電力を表す。半導体が何回計算できるかではなく、それを動かすのに要る電気の量を指している。だからこそ、既存の電力統計と直接比べられる。
世界のデータセンターの電力需要は2026年で132ギガワットの見込みである。1テラワットは1,000ギガワットだから、いま地球上で動いている全データセンターの7.6倍にあたる。日本の年間電力消費(約1,000テラワット時)を平均電力に直すと114ギガワット。1テラワットはその8.8倍になる。世界の総電力消費は2026年で29,000テラワット時を超え、平均すると3,310ギガワット。1テラワットは人類が使う電気の30%を占める計算になる。
演算装置の台数に直すと像がさらにはっきりする。1ギガワット級のデータセンターを埋めるには最新世代のGPUがおよそ45万基要る。1テラワットなら4億5,000万基である。エヌビディアのデータセンター向け出荷は年間数百万基の規模だから、現在の出荷速度で75年かかる。
この数字は、達成可能な生産計画としては読めない。到達時期も内訳も示されていない。「現在の供給が将来の需要にまるで足りていない」という主張を最大化して示した数値と受け取るのが妥当である。逆に言えば、この工場の存在理由は「不足の大きさ」に置かれており、実際に何枚のウエハーを月に投入するのかという製造業本来の指標は、まだ一度も公表されていない。
投資額を床面積で割ると、大半が無塵室でないと分かる
1億平方フィートは9.3平方キロメートルにあたる。東京ドームの建築面積のおよそ199個分、日比谷公園の57個分である。単一の製造施設としては前例がない広さで、この数字だけを見れば台湾や韓国の巨大工場をはるかに超える規模に思える。
割り算をすると別の絵が出てくる。
届出上の総額1,190億ドルを1億平方フィートで割ると、1平方フィートあたり1,190ドルになる。第1期の168億ドルで割れば168ドルにしかならない。ところが最先端の無塵室(クリーンルーム)の建設費は、1平方フィートあたり5,000ドルから10,000ドルの水準にある。中間の7,500ドルで計算すると、1,190億ドルで作れる無塵室は1,590万平方フィート、全体の16%にとどまる。
残る8割強は半導体を作る部屋ではない。封止と検査の工程は無塵度の要求が低く、面積あたりの費用が1桁安い。受変電設備、純水の製造、排ガス処理、薬液の供給といった用役設備は、無塵室と同規模の床を食う。半導体工場は装置よりも配管が重い建物である。加えて垂直統合を掲げる以上、半導体を基板や筐体へ組み上げる工程と資材倉庫も同じ敷地に入る。ここには自動車工場の発想が持ち込まれている。
「1億平方フィートの半導体工場」という表現は、床面積の大半が前工程以外であることを含んでいる。比較すべきは無塵室の面積と、月あたりのウエハー投入枚数であり、どちらも現時点で公表されていない。
水利権は、計画が世に出る2年9か月前に書き換えられていた
対象記事はギボンズ・クリーク貯水池の水を使い地下水は使わない、と伝えている。この立地選択の背景を遡ると、報じられていない順序が出てくる。
この貯水池の水利権は、もともとテキサス市営電力庁に発給され、ギボンズ・クリーク石炭火力発電所を冷やすために使われていた。毎分68万ガロンの取水と、年間32億ガロンの恒久的な消費を認める内容である。貯水池の満水容量は約105億ガロンだから、年間の消費枠は満水の30%にあたる。
2023年8月、ある事業体がこの水利権の変更を州の環境当局へ申請した。産業用に限られていた用途が、市町村・生活・農業・レクリエーション・産業の全用途へ、ブラゾス川流域の数十郡にまたがって使えるよう広げられている。建設計画が届出として世に出たのは2026年5月だから、用途の変更はそれより2年9か月早い。石炭火力の廃止で宙に浮いた水の権利が、大規模な工業用途へ転用できる形に整えられたうえで、そこへ半導体工場の計画が乗った順序になる。
取水枠と消費枠は別物である点も押さえておきたい。毎分68万ガロンは日量に直すと約9億8,000万ガロンだが、これは取り込む量であって失う量ではない。半導体の製造は洗浄に超純水を大量に使い、その大半は処理して戻す。恒久的に失われる分が年間32億ガロン、日量にして880万ガロンという枠になる。ただしこの工場が実際に何ガロン使うのかは、郡との合意文書にも書かれていない。地元報道が情報公開請求を行ったところ、郡は一部の開示を避ける判断を州司法長官に求めている。テキサスは干ばつの常襲地であり、地下水を使わないという表明は、地元との摩擦を先回りして避けるための設計でもある。
主力の半導体は、すでに他社の工場に押さえられている
この計画を「テスラが自前の半導体工場を持つ」と読むと、実態を外す。
テスラの車載向け半導体は、既に委託先が確定している。2026年4月に設計を確定したAI5は、サムスン電子のテキサス州テイラー工場と韓国平沢、およびTSMCの台湾とアリゾナで作られる。次世代のAI6はサムスンの2ナノメートル工程でテイラー工場が独占的に受託し、AI5比でおよそ2倍の性能を同じ面積で出す設計になっている。派生のAI6.5はTSMCのアリゾナ工場が2ナノメートル工程で担う。最先端の論理半導体は、既に2社へ分散して確保済みである。
テラファブが作るのは、車載と人型ロボットの端末側推論、そして軌道上データセンター向けの高出力半導体である。既存の委託先を切り替える計画としては公表されていない。最先端の車載向けは他社に預けたまま、新しい用途のために新しい工場を建てる二段構えになっている。量産の実績がない工場に主力製品を賭けないという、半導体調達の定石にも沿った配置である。
工程を担うのはインテルで、1.8ナノメートル級の18A工程と封止技術、量産の能力を提供する。受託製造事業の立て直しが至上命題の同社にとって、最先端工程を大量に買う顧客の確保は再建計画の中核にあたる。ここに見落とされやすい非対称がある。工場を建てるのはスペースXとテスラだが、作る技術を持つのはインテルである。資本を出す側と歩留まりを握る側が分かれている。半導体工場の価値は建屋ではなく歩留まりを上げる工程の蓄積にあり、1,190億ドルを投じてもその蓄積は買収できない。だからこそ受託製造の相手が要り、そこにインテルの事情が重なっている。
軌道上データセンター向けという用途も、放熱の物理から検算した通り、成立条件が厳しい領域にある。高出力半導体を宇宙で動かす計画と、その半導体を作る工場の計画が、同じ週に並んで発表された点は記録しておきたい。
装置と材料の発注先は、誰が建てても変わらない
日本の投資家にとって、この計画の読み方は明快である。
半導体工場の投資額は、およそ7割から8割が製造装置の購入に消える。建屋ではない。そして工程を担うのがインテルであれTSMCであれサムスンであれ、露光の前後で使う装置と材料の供給元はほぼ同じ顔ぶれになる。基板では信越化学工業(4063)とSUMCO(3436)、塗布と現像では東京エレクトロン(8035)、平坦化では荏原製作所(6361)、検査ではアドバンテスト(6857)、切断ではディスコ(6146)が押さえている。露光装置そのものはASMLが独占するが、その光源部品とレンズは日本とドイツが供給する。この構造はTSMCを支える装置と材料の依存関係で分解した通りで、新しい工場が1つ増えることは、この列の全社にとって新しい発注が1件増えることを意味する。
ただし発注が届くまでには3つの段差がある。第1に時間で、着工から装置の搬入までは通常2年前後を要し、第1期168億ドルの発注が装置各社の売上に現れるのは2027年以降になる。第2に規模で、床面積の16%程度しか無塵室にならない計算になるため、1億平方フィートという数字から装置需要を推し量ると過大に見積もる。第3に計画の可変性で、当初550億ドルだった提案が3か月で1,190億ドルへ書き換わっている。数字が動く前提の計画であり、確定した発注として扱えない。
実務として追うべき指標は、装置各社の決算に出る北米向けの受注残と、次世代工程向け装置の構成比である。装置の発注は納入の1年から2年前に確定するため、受注残は建設の実在性を測る先行指標になる。この計画が本物なら、まず受注残の伸びに現れ、そのあとで売上へ移る。発表だけで受注残が動かないなら、計画は構想の段階にとどまっていると判断できる。四半期ごとに追える、公開情報だけで検証可能な物差しである。
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