TSMCは熊本県菊陽町の第2工場で3ナノの半導体を作り、2028年に量産する計画だ。実現すれば日本で初めての3ナノの生産になる。ただ9月24日時点で、国が認定した計画は6ナノと12ナノを作る内容のまま改められていない。

3ナノは、回路の細かさで表す製造技術の世代の一つだ。回路の最も細かい層を極端紫外線 (EUV) の露光装置で描き、スマートフォンやAI向けの先端のロジック半導体を作る。TSMCは2025年に一段先の2ナノの量産も始めている。熊本では新しい工場を建てず、建設中の第2工場で作る製品を3ナノに切り替える。露光装置と、それを動かす電力や水、技術者がどれだけ必要になるかは、変更後の計画を待つ必要がある。

TSMCは熊本第2工場を3ナノに切り替え、量産は2028年

TSMCの熊本の製造子会社JASM (ジャパン・アドバンスト・セミコンダクター・マニュファクチャリング) は、第1工場を稼働させている。TSMCは4月の決算説明会で、第1工場などで画像センサー向けの成熟品の生産能力を増やすと説明した。

第2工場について、TSMCの魏哲家会長は2026年2月5日、首相官邸で高市早苗首相と会い、3ナノを生産する方針を伝えた。首相は「第2工場の計画のアップグレードによって、半導体集積が面的にも質的にもより一層充実していくことを期待する」と応じた (KAB熊本朝日放送)。

TSMCが量産の時期を公式に示したのは、4月16日の決算説明会だ。魏会長は「日本では第2工場で3ナノの技術を使う計画に変えた。量産は2028年の予定だ」と述べた。3ナノの量産は、台湾・台南の新工場で2027年前半、米アリゾナ州の2番目の工場で2027年後半に始めるとも説明した。7月16日の説明会では「日本でも新しい工場をできるだけ早く立ち上げようとしている。需要と供給の差が非常に大きいからだ」と語った。

国の認定は、切り替え前の内容のままだ。経済産業省が2024年2月24日に認定した第2工場の計画は、12ナノと6ナノ (別に40ナノ) のロジック半導体を月4.8万枚作る。工場全体の能力は月6.3万枚で、初回の出荷は2027年第4四半期とした。必要な資金は139億ドル規模 (40ナノを除くと122億ドル規模) で、助成額は最大7,320億円だ。9月24日時点で、経産省の認定の一覧 (最終更新は2025年9月16日) に3ナノへの変更の認定はない。

投資額について、ビジネス+ITは2月6日、当初の122億ドル (約1兆9,000億円) から170億ドル (約2兆6,000億円) に増えると報じた。40ナノを含む認定の139億ドルと比べて約1.2倍、40ナノを除く122億ドルと比べて約1.4倍になる。ただ、この金額はTSMCの開示にはない。TSMCの取締役会は2026年2月、5月、8月に設備投資や子会社への出資を決めたが、JASMへの出資は含まれていない。日本関連はソニーグループとの画像センサーの合弁 (出資は2,820億円が上限) だけだった。ビジネス+ITは同じ記事で、政府が助成の増額を含む追加の支援策づくりに入ったとも報じた。

日本での第3工場について、TSMCは計画を公表していない。台湾の複数のメディアは2024年1月、候補地に大阪が浮上したと報じた (マイナビニュース)。

熊本の2工場の認定計画と、第2工場の3ナノへの切り替え
熊本の2工場の認定計画と、第2工場の3ナノへの切り替え

EUV露光装置は20台前後が必要な計算、TSMCは水と電力をマスク1層あたりで管理

半導体の回路は、原版 (マスク) の模様を光でウエハーに焼き付ける露光を何十回も重ねて作る。マスク1枚がおおむね1層にあたる。最も細かい層は、波長13.5ナノメートルのEUVで描く。TSMCによると、6ナノもEUVを一部の層に使っている。3ナノで何層にEUVを使うかは公表されていない。

オランダのASMLは2024年11月の投資家説明会で、先端ロジックのEUV露光の回数を2025年に平均19〜21回、2030年に25〜30回と見込んだ。2018年の説明会では、月4.5万枚を投入するロジック工場では、EUVで描く層1つにつき露光装置が1台必要になるという目安を示している。

第2工場が認定計画と同じ月4.8万枚を作るとして、1回の露光を1層とみなしてこの平均を当てはめると、EUV露光装置は約20〜22台が必要な計算になる (本誌推定)。ただし、19〜21回は先端の各世代をならした値で、3ナノの層が平均より多ければ台数は増える。一方、ASMLの目安は2018〜2022年の典型的な条件によるもので、その後に装置の処理能力が上がった分だけ、必要な台数は減る。

TSMCは2025年9月、自社のサイトで「先端の製造技術が進むにつれ、当社の工場のEUV露光装置は増え続けている」と記した。サステナビリティー報告書によると、装置の消費電力のピークを44%下げる取り組みも進めている。同社は水と電力の使用量を、12インチ換算のウエハー1枚のマスク1層あたりで管理する。

2025年のサステナビリティー報告書では、水は1層あたり153.3リットルだった。2024年の161.0リットルから減ったものの、2010年の基準値140.9リットルを上回る。立ち上げ段階にある新工場 (JASMの第1工場を含む) の分を除くと、122.3リットルになる。電力は1層あたり2022年の27.7キロワット時から、2023年に40.5キロワット時へ約46%増えた。2024年は37.1キロワット時、2025年は34.7キロワット時だ。2023年に増えた理由は、報告書に書かれていない。3ナノで重ねる層の数が分からないため、1枚あたりの水と電力の量も分からない。

EUV露光の前後で感光材を塗り、現像する塗布現像装置について、東京エレクトロン (8035) は2023年の自社の世界シェアを100%と推定している。3ナノでEUVを使う層が増えれば、この装置の需要も増える。同社の事業は東京エレクトロンの会社ページにまとめた。

第2工場の取水の見通しは3ナノへの切り替え前の数字

熊本市は水道水の100%を地下水で賄い、市内98本の井戸から1日平均約22万トンを配水している (1トンは約1立方メートル)。熊本市を含む11市町村の熊本地域 (約1,041平方キロメートル、約100万人) も、水道水源のほぼすべてが地下水だ。

JASMは2023年8月、県の条例に基づく地下水の採取の許可を申請した。同じ月に、取水の計画量を1日約1万2,000トンから約8,500トンへ3割減らした (熊本日日新聞、2023年8月31日)。日経クロステックは2025年11月、第1工場は1日に約3万トンの水を使うが、同じ水を平均4回使うため、新たにくみ上げるのは1日約7,500トンだと報じた。第1工場と第2工場を合わせた取水は年800万トンになる見通しだという。3ナノへの切り替えを表明する前の数字だ。

第1工場の1日約7,500トンは年約274万トンにあたる。年800万トンから差し引いた残りは年約526万トンだが、第1工場の値は立ち上げ途中の2025年時点の報道値で、年800万トンは計画に基づく見通しだ (本誌計算)。時点も前提も違う数字の差なので、第2工場に必要な量を示すものではない。

2工場の年800万トンは、工場のある菊陽町に隣接する熊本市の水道の年間配水量 (1日約22万トンの365日分で、年約8,000万トン) の約1割にあたる (本誌計算)。熊本県の地下水涵養指針は、重点地域の熊本地域で新たに採取の許可を得る事業者に、採取量に見合う量 (原則10割) の涵養を目標として求める。2023年10月1日より前に涵養の計画を出していれば、努力義務となる。JASMが涵養の計画をいつ出したのか、第2工場や3ナノへの切り替えで採取量を増やす場合にどちらの扱いになるのかは、公表されていない。

TSMCのサステナビリティー報告書によると、JASMは2025年、約800万トンの水を地下に浸透させた (地下水の涵養)。第1工場の年間の取水の約2.9倍で、2工場の見通しと同じ規模だ。報告書は、TSMCが熊本の大学と地下水の水質の評価や水量の予測を進めていることにも触れている。

JASMの地下水の取水と涵養 (万トン/年)
JASMの地下水の取水と涵養 (万トン/年)

人員の計画も切り替え前、熊本の2大学の半導体の新しい定員は年80人

経産省の認定計画では、第1工場は1,700人体制で、台湾から300人、ソニーから200人を受け入れ、地域で1,200人を雇う。第2工場は約1,700人で、台湾から約500人を受け入れ、地域で約1,200人を雇う。人員に占める台湾からの割合は、第1工場の約18%から、より微細な製品を作る第2工場では約29%に上がる (本誌計算)。3ナノに切り替えた後の人員は公表されていない。熊本銀行が2025年1月にまとめた資料は、TSMCだけで3,400人を雇用するとしている。

人材を送り出す側では、熊本県立大学が2027年4月1日に半導体学部半導体学科を開く。大学設置・学校法人審議会は2026年8月28日、入学定員60人の設置を認める答申を出した。2027年度に開設する学部として認められた8件のうち、公立は同学部だけだ。県立大は同時に総合管理学部総合管理学科の定員を60人減らし (280人から220人)、大学全体の定員は増やさない。教員は16人で、新しい学部棟は熊本市東区の月出キャンパスに建てる。

答申は遵守事項として、学部の完成年度までに定年を迎える基幹教員の割合が高いことを挙げ、教員組織の将来構想を着実に実行するよう求めた。教える側の確保も課題になっている。入試の募集は一般選抜の前期30人と後期20人、県内の高校を対象とする学校推薦型選抜10人で、推薦の総合問題試験は英文の読解力も測る。

熊本大学は2024年4月に工学部半導体デバイス工学課程 (入学定員20人) と情報融合学環 (同60人) を設け、2025年4月には大学院に半導体・情報数理専攻を置いた。熊本大の2つの課程と県立大の新学部を合わせた定員は年140人で、このうち半導体を専門とするのは熊本大の20人と県立大の60人の計80人だ。情報融合学環はデータサイエンスを学ぶ課程である。2工場で地域から雇う計画の約2,400人には、高専卒や高卒も含まれる。

工場の周りでは通勤の足の確保も課題だ。熊本県は「1万人のオフピーク通勤」や通勤バスの実証実験を進めている。菊陽町のJR原水駅とセミコンテクノパークを結ぶ通勤バスの利用者は、2023年度に26万人と前年度の1.6倍になった (熊本日日新聞)。工場前の大津植木線4.2キロメートルの6車線化や、中九州横断道路、肥後大津駅から熊本空港まで約6.8キロメートルのアクセス鉄道 (2034年度の完成目標) が計画されている。

国の助成は2工場で最大1兆2,080億円、波及効果の試算は11.2兆円に

国の助成は、2022年6月17日に認定した第1工場が最大4,760億円、第2工場が最大7,320億円で、合わせて1兆2,080億円になる (本誌計算)。第1工場の計画は22/28ナノと12/16ナノのロジック半導体を月5.5万枚作る内容で、投資は86億ドル規模、初回の出荷は2024年12月の予定だった。投資額に対する国の助成の比率は、外資の半導体投資と助成額を並べた記事で計算した。

JASMの株主構成は、第2工場への出資を終えた時点で次のようになる見込みだ。TSMCが約86.5%、ソニーセミコンダクタソリューションズが約6.0%、デンソー (6902) が約5.5%、トヨタ自動車 (7203) が約2%。ソニーセミコンダクタソリューションズはソニーグループ (6758) の子会社だ。

経済波及効果の試算は上方修正が続いている。九州フィナンシャルグループは10年間の効果を、2022年9月に約4.3兆円、2023年8月に約6.9兆円と試算し、2024年9月5日に約11.2兆円へ引き上げた。最新の試算は11兆1,920億円で、第2工場のほか、ソニーグループや三菱電機の工場の新設・増設の計画を含む。内訳は半導体の生産に伴う7兆5,343億円と、土地の造成などの設備投資に伴う3兆6,577億円だ。熊本県の県内総生産を押し上げる効果は、10年間の累計で約3.4兆円から約5.6兆円に修正された。熊本銀行の資料は、TSMCの周辺に進出した企業84社のうち製造装置が35社、材料が16社を占めるとしている。拠点の分布は、熊本の半導体関連拠点251か所の地図を載せた記事にまとめた。

2工場の投資と国の助成、経済波及効果の試算、地下水の量と通勤の対策を1つにまとめた3Dモデル (試作版)。工場の高さが投資額、地面の輪が波及効果、地下の円柱の太さが1年間の水の量を表す

その効果がどれだけ地元企業に及ぶかは別の問題だ。経産省の認定計画によると、JASMは間接材料の50%以上を「ローカル・サプライチェーン」から買うことを目指す。この言葉は、日本に立地する外資企業を含む法人からの調達を指し、熊本の地場企業に限らない。九州フィナンシャルグループは2024〜25年度、取引先24社が半導体の供給網に加わるのを支援した (日本経済新聞、2026年1月27日)。

第2工場の製品を3ナノに切り替えれば、EUV露光装置とその電力、水、技術者の需要が菊陽町の同じ敷地に集まる。認定計画が3ナノに合わせて改められれば、生産能力と助成額、取水と涵養の量、人員の内訳がどう変わるかが分かる。

投資家向けの個別銘柄レポートと技術デューデリジェンスのご相談は、編集部のお問い合わせ窓口までお寄せください。