台湾の記憶用半導体大手が11.2億ドルで買う事業は、2008年に武漢の工場で自社の製品を作らせた会社の名を名乗る。その工場から育った長江存儲科技は、いま韓国のサムスン電子に特許を使わせる側にいる。

独インフィニオン・テクノロジーズは2026年9月16日、NOR 型フラッシュメモリーと F-RAM の事業を台湾のウィンボンド・エレクトロニクスに売る最終契約を結んだと発表した。ウィンボンドは買収した事業を独立の会社として運営し、社名をスパンションにする。スパンションはもともと富士通と米 AMD が事業を出し合った会社で、その工場は今は日本テキサス・インスツルメンツ (TI) の会津工場になっている。

一方、YMTC の源流である武漢新芯 (XMC) の工場は、スパンションの生産を請け負うことで NOR 型の技術に触れ、のちに NAND 型へ進んだ。その YMTC は2026年4〜6月期のフラッシュの出荷量で世界3位に入った。本稿は、名前が戻る側の取引の大きさと、技術が渡った側の流れを、各社の開示で確かめる。

ウィンボンドは11.2億ドルでスパンションの名を取り戻し、額は8月の月商の1.3か月分

インフィニオンの発表によると、取引は現金で、現金と負債を除いた基準で11.2億ドルである。売る事業は NOR 型フラッシュと F-RAM (電源を切っても記憶が消えない、強誘電体を使うメモリー) の製品群で、自動車、産業機器、インフラの顧客に売っている。規制当局の承認を条件に、2027年後半の完了を目指す。インフィニオンは SRAM、HYPERRAM、nvSRAM と、SONOS 方式の耐放射線メモリーは手元に残す。同社の2025年9月期の売上高は約147億ユーロ、従業員は約5万7,000人で、今回の事業そのものの売上高は発表に無い (未取得)。

ウィンボンドの発表では、事業の本社はカリフォルニア州サンノゼにあり、メモリーで30年以上の経験を持つ。焦佑鈞会長兼最高経営責任者は「スパンションの社名と商標を取り戻せることをうれしく思う」と述べた。ウィンボンドは1987年設立、1995年に台湾証券取引所に上場し、台湾中部と高雄に12インチ工場を2つ持つ。

買収額を買い手の規模で測る。9月16日の台湾ドル相場 (1ドル31.80台湾ドル) で換算すると、11.2億ドルは356億1,600万台湾ドルになる。台湾証券取引所の月次売上によると、ウィンボンドの8月の売上高は273億872万台湾ドルで、前年同月の70億1,253万台湾ドルの3.89倍 (289.4%増) だった。1〜8月の累計は1,521億7,823万台湾ドル (177.4%増) である。買収額は8月の月商の1.30か月分、8か月累計の23.4%にあたる。記憶用半導体の値上がりで売上が膨らんだ時期に、全額現金で払える大きさの買い物である (記者の見立て)。

スパンションは2007〜08年に、武漢新芯の工場へ電荷をためる方式の技術を移した

スパンションの主力の MirrorBit は、電荷をためる方式 (チャージトラップ) のフラッシュである。同社の年次報告書によると、1つのセルの中の2か所に電荷を分けてため、1セルで2ビットを記録する。電荷を導体の島にためる従来の浮遊ゲート方式より構造が単純で、工程の数が少ない。

スパンションの系譜
スパンションの系譜

図1 — スパンションの持ち主の移り変わりと、工場と技術の分かれた先

この技術が中国へ渡った経路は、米証券取引委員会に出された書類で追える。中芯国際集成電路製造 (SMIC) の2007年10月の提出書類によると、スパンションは65ナノメートルの MirrorBit の技術を SMIC に移し、中国の300ミリの工場で受託生産させることにした。スパンションは2008年10月15日の決算発表で、SMIC と組み、武漢新芯が持つ武漢の工場で自社のフラッシュを作ると公表した。同じ発表で、電荷をためる方式の NAND の製品群 MirrorBit ORNAND2 の計画も示している。同年11月の SMIC の書類は、武漢の300ミリ工場で32ナノのフラッシュの研究開発を2009年1月から始められる許可を米国から得たこと、スパンションと32ナノのフラッシュの生産を検討する合意を結んだことを記す。

時系列には注意が要る。スパンションが米連邦破産法11条の適用を申請したのは2009年3月1日で、武漢での生産の公表はその5か月前だった。破綻の後に委託したのではなく、破綻の前から委託の準備は進んでいた。2008年10月の発表でスパンションは、NOR で約40%のシェアを11四半期続けていると述べている。

武漢新芯から生まれた YMTC は、貼り合わせの技術でサムスンに特許を渡す側に回った

YMTC の 3D NAND の中核は Xtacking と呼ぶ作り方である。YMTC の霍宗亮氏らが2022年の国際会議 IEEE VLSI で示した Xtacking 1.0 の断面の模式では、メモリーセルを縦に積んだウエハーと、周辺回路を作ったウエハーを別々に用意する。回路側には高耐圧、低電圧、さらに低い電圧の3種類のトランジスタが並ぶ。2枚の表を向かい合わせ、銅の電極どうしを直接つなぐハイブリッド接合で1枚にする。

Xtacking の断面
Xtacking の断面

図2 — 本稿の図。メモリーセルのウエハーと回路のウエハーを銅どうしで貼り合わせる

分解調査のシステム・プラス・コンサルティングが同じ年の学会 CSTIC で示した断面では、加速電圧15.0キロボルト、作動距離5.7ミリ、4万倍の電子顕微鏡の像に1.00マイクロメートルの目盛りが入り、メモリーセル側の銅配線と回路側の銅配線が接合面で向かい合っている。電荷をためる方式のセルを高く積み、回路を別のウエハーで作って貼る。この2つの組み合わせが、YMTC を出荷量の上位に押し上げた (記者の見立て)。

調査会社カウンターポイントは2026年8月12日、YMTC が NAND の出荷量で世界の上位3社に入ったと公表した。サムスン電子は2025年2月、YMTC とハイブリッド接合の特許の使用許諾契約を結んだと報じられている (本稿では両社の開示を確かめられていない)。2008年に武漢の工場へ技術を渡した側の名前はいま台湾の会社が引き取り、渡された側の流れは NAND の上位に育った。

スパンションの日本の工場は2010年に TI へ渡り、今の日本 TI 会津工場になった

スパンションの日本の拠点は、富士通の会津若松の工場群につながる。スパンションの年次報告書によると、同社は2003年の再編で AMD と富士通がそれぞれ事業を出し合って生まれ、2008年と2007年には富士通が売上高の約29%と35%を占める最大の販売代理店だった。

富士通の会津の工場のその後
富士通の会津の工場のその後

図3 — 富士通の会津の3工場が分かれた先

会津若松市には富士通の工場が3つあった。昭和45年に天皇・皇后両陛下が行幸啓した富士通・会津工場の跡地は、福島県立会津学鳳中学校・高等学校になった。門田町工業団地の富士通・若松工場は、富士通、オン・セミコンダクター会津 (8インチ)、AFSW (トランスフォーム、ガノベーション、6インチ) に分かれた。神指町高久地区工業団地の富士通・新工場はスパンション (12インチ) を経て、日本テキサス・インスツルメンツ会津 (8インチ) になった。

スパンションの2010年8月31日の提出書類によると、TI はスパンション・ジャパンから会津若松の2つのウエハー工場と設備を買い、300ミリの製造装置と浮遊ゲート型 NOR の工程の使用許諾を得た。スパンションは2012年6月まで TI に生産を委託した。TI の2025年12月期の年次報告書は、今も会津を製造拠点の1つとして載せている。日本で NOR を作っていた工場は、アナログ半導体の工場として米国企業の手で動いている。

サイプレスとインフィニオンを経て、スパンションはかつての競合の下に入る

スパンションは2014年12月1日、米サイプレス・セミコンダクターと約40億ドルの株式交換による合併で合意した。サイプレスは2020年4月16日にインフィニオンに買収され、スパンションの NOR の事業はインフィニオンの一部になった。

買い手のウィンボンドは、スパンションにとって長く競合だった。スパンションは2011年2月の年次報告書で、NOR の主な競合にマイクロン、マクロニクス、ウィンボンド、サムスンを挙げている。同じ報告書は、サムスンとの間で特許侵害の訴訟が続いていたことも記す。2009年4月7日に和解を公表し、サムスンが7,000万ドルを払う内容だったが、破産裁判所の承認が期限までに得られず、訴訟は再開した。

名前は台湾に戻るが、技術の流れは中国の NAND の上位に残る

ウィンボンドは8月の月商の1.3か月分にあたる11.2億ドルで、インフィニオンから NOR 型フラッシュの事業とスパンションの名を手に入れる。取引は2027年後半に完了する予定で、日本の会津の工場は2010年に TI へ渡っている。2008年にスパンションが武漢の工場へ渡した電荷をためる方式の技術の流れは、YMTC として NAND の出荷量の上位3社に育った。スパンションの名は台湾で復活するが、その技術が育てた会社は中国に残る。

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