中国のNAND型フラッシュメモリー最大手、長江存儲は2022年12月に米国の禁輸リストに入った後も設備投資を増やし、2025年は2年で1.7倍の約362億元になった。目論見書では規制の名に触れず、上位の仕入れ先を匿名にした。
長江存儲 (YMTC) は湖北省武漢市に本社を置き、電源を切ってもデータが消えないNAND型フラッシュメモリーを製造する中国企業だ。持ち株会社の長江存儲控股が2026年8月21日、上海証券取引所のハイテク企業向け市場「科創板」への上場を申請し、9月3日に取引所から照会を受ける段階に進んだ。目論見書には、2023年から2026年1〜3月期までの監査済みの財務諸表が載っている。本稿では、米商務省が官報に載せた規制の原文で日付と条件を確かめ、目論見書の数字を、キオクシアホールディングスや東京エレクトロンなど日本企業の開示と照らし合わせる。上場時の時価総額や調達額ではなく、規制の下で生産と投資がどう続いているかを追う。会社の概要は長江存儲の企業ページにまとめている。
長江存儲は2022年12月に米国の禁輸リストに入り、日本法人も同じ日に掲載された
米商務省産業安全保障局は2022年10月7日付で、長江存儲を未検証リストに加えた。米当局が輸出品の最終用途などを現地で確認できなかった企業の一覧だ。同じ日に出した別の規則では、中国の工場で128層以上のNANDなど先端半導体を作るための装置や技術の輸出を許可制にした。2か月後の12月16日、同局は長江存儲を含む36社をエンティティー・リスト (禁輸リスト) に加え、長江存儲は未検証リストから移った。長江存儲向けは、米国の輸出管理規則の対象となる全品目の輸出が許可制になり、申請は原則として認められない。掲載の理由として、同局は官報で、華為技術 (ファーウェイ) や監視カメラ大手の杭州海康威視数字技術 (ハイクビジョン) などリスト掲載企業に米国の製品や技術が渡るおそれを挙げた。
同じ官報には、日本の欄に長江存儲の日本法人も載っている。東京都千代田区に本社を置く「JYMテクノロジー」で、長江存儲は目論見書に、販売支援を担う全額出資子会社 (2017年10月設立、資本金1億円) と記している。
| 発効日 | 米国の措置 | 長江存儲との関係 |
|---|---|---|
| 2022年10月7日 | 未検証リストの改定と、中国の先端半導体工場向けの輸出規制 | 長江存儲を未検証リストに掲載。NANDは128層以上が規制の基準 |
| 2022年12月16日 | 禁輸リストに36社を追加 | 長江存儲と日本法人を掲載。全品目が許可制で原則不許可 |
| 2023年11月17日 | 規制の基準になる先端半導体の定義を定めた | NANDの基準 (128層以上) を維持 |
| 2024年12月2日 | 外国製の装置にも規制を広げ、140社を追加 | 当時子会社だった武漢新芯を、外国製の装置も規制の対象にする区分で掲載。日本など33か国は原則として対象外 |
| 2025年9月29日 | リスト掲載企業が50%以上出資する会社にも規制を自動で適用 | 2025年11月10日から2026年11月9日まで適用を停止。停止が切れれば長存三期や海外子会社が対象に |
2023年10月に公布した規則 (発効は11月17日) では、NANDの工場を規制から外すよう求めるパブリックコメントに同局が回答している。128層の基準は、市場に広く出回る汎用品と安全保障上の懸念がある品を分けるためのものだという。2024年12月の規則は、米国の技術で作った外国製の装置にも規制を及ぼす規定 (外国直接製品規則) の適用範囲を広げ、広帯域メモリー (HBM) と、先端メモリーの配線に使うモリブデンやルテニウムの成膜装置を新たに規制の対象に加えた。日本やオランダなど33か国は原則としてこの規定の対象外だと、同局は官報で説明している。
米国防総省も長江存儲を「中国軍事企業」のリストに載せている。官報に出た2024年4月、2025年1月、2026年6月のいずれのリストにも名前がある。国防総省は2026年のリストで、国務院国有資産監督管理委員会が間接的に出資していることなどを理由に挙げた。2023会計年度の国防権限法は、長江存儲と長鑫存儲 (それぞれの子会社・関連会社を含む) の半導体を使う製品を、2027年12月23日から米政府が調達することを禁じている。2026年2月には、その運用を定める連邦調達規則の改正案が官報に出た。
米政府が規制対象の企業をまとめて公開する統合審査リスト (2026年10月23日時点) でも、長江存儲は全品目が許可制で原則不許可のままで、外国直接製品規則を適用する注記は付いていない。この注記は、後述する武漢新芯には付いている。
長江存儲グループの売上高は2年で3.4倍、2025年はキオクシアの8割強に
目論見書の監査済みの数字では、持ち株会社の長江存儲控股の連結売上高は2023年の約187億元から2024年に約452億元、2025年に約632億元へ増えた。2025年は前年比39.8%増で、2023年からは3.4倍だ。純利益 (親会社の株主に帰属する分) は2023年に約192億元の赤字だったが、2024年に約68億元、2025年に約142億元の黒字になった。2026年1〜3月期の売上高は約470億元で、この四半期だけで2025年通年の74.5%にあたる。純利益は約334億元で、売上高純利益率は2025年の22.5%から2026年1〜3月期に71.0%へ高まった。倍率と比率は目論見書の数字から編集部が計算した。
この数字には、2026年3月末時点で子会社だった半導体受託生産の武漢新芯や、半導体の組み立て・検査を手がける宏茂微の分も含まれる。製造会社の長江存儲だけで見ると、2025年の売上高は約578億元、純利益 (少数株主の持ち分を含む) は約155億元だった。グループの売上高のうちNAND製品だけを見ると、2023年の約141億元から2025年に約567億元へ4.0倍に増えた。武漢新芯は7月9日に連結対象から外れたため (後述)、それ以降の数字には含まれなくなる。
長江存儲は目論見書で、金融情報サービスのデータで作った比較表も載せている。2025年の売上高は長江存儲控股の連結が約632億元、キオクシアが約753億元 (暦年に組み替えて人民元に換算した値) で、長江存儲控股はキオクシアの83.9%にあたる。純利益は約142億元と約75億元で、長江存儲控股はキオクシアの1.9倍だった。同社は、2026年1〜3月期のNAND製品の売上高総利益率が、マイクロン・テクノロジー、キオクシア、サンディスクの3社それぞれの会社全体の売上高総利益率を上回ったとも記している。売上高総利益率が上がった理由には、2025年10〜12月期からの製品価格の急騰を挙げた。人件費や減価償却費など固定費の比率が高いため、値上がり分の多くがそのまま利益になるという。
長江存儲は台湾の調査会社トレンドフォースの数字をもとに、2026年1〜3月期のNANDの売上高と出荷量はともに世界3位、中国では首位だったとしている。NANDの生産ラインの稼働率は2023年の94.4%から2025年に97.9%、2026年1〜3月期に98.0%まで上がった。同じ1〜3月期は販売量が生産量の82.4%にとどまった。
設備投資は禁輸リスト入りの後も増えた。キャッシュフロー計算書の固定資産などの取得による支出を見ると、2023年の約213億元から2024年に約310億元、2025年に約362億元と2年で1.7倍になった。2025年は前年比16.7%増だ。主な使い道は第2期・第3期工場の建設と第1期工場の設備更新だという。2025年の支出は営業キャッシュフロー (約327億元) の110.7%にあたり、稼いだ現金を上回った。2026年1〜3月期は約79億元で、同期の約267億元の29.4%にとどまる。上場で調達する予定の330億元のうち、208億元を量産ラインの技術更新に、122億元を研究開発に充てる計画だ。一方、DRAM大手の長鑫存儲は2025年の設備投資額を前年比30.2%減らしており、中国のメモリー大手2社で投資の方向は逆だった。長鑫存儲の業績と設備投資は長鑫存儲の記事で詳しく扱った。
販売先の構成も変わっている。顧客の所在地別に見たNAND製品の売上高のうち、中国本土以外の比率は2023年が55.1%、2024年が43.4%で、2025年に57.3%、2026年1〜3月期に63.3%へ上がった。同社は、本土以外の多くは香港・マカオ・台湾向けで、外貨決済の便利さから香港などを通じて米ドル建てで取引する顧客がいるためだという。上位5社の顧客向けの売上高は2025年に全体の51.7%を占めた。
長江存儲は目論見書で禁輸リストに触れず、上位の仕入れ先を匿名にした
303ページの目論見書を編集部が検索したところ、「実体清単」(エンティティー・リストの中国語名) や制裁、米国防総省、軍事の語は一度も出てこなかった。同社は規制について具体名を挙げず、一般論として書いている。国際的な貿易政策の変化と、米国などによる主要な装置・材料の対中輸出規制で、装置と原材料の調達が一定の制約を受け、米国などへの輸出も制限されたほか関税の負担も増えたという。そのうえで、中国で半導体の主要な装置と材料の調達先の多様化が加速したとし、長期的には自社と業界にとってプラスの面がマイナスを上回るとした。業界の課題の欄では、中国のNAND産業が国際的な貿易規制の主な対象で、装置・部品・原材料の調達と輸出の両面で規制を受けているとも記した。
取引額の上位の仕入れ先は匿名で載っている。主要な装置の購入契約は、取引額の上位5社と結んだ基本契約で、相手は「仕入れ先S」「仕入れ先E」などとだけ記されている。装置の契約のうち最も新しいのは2024年1月の仕入れ先Uとの契約で、5件とも履行中だ。装置をどこまで中国製に切り替えたかを示す国産化率の数字も載っていない。装置の仕入れ先で実名が出るのは、中国の研磨装置メーカーの華海清科だけだ。長江存儲は関連当事者との取引の欄に、2023年に華海清科から化学機械研磨装置や交換部品などを約6,800万元購入したと記している。華海清科は2023年2月から関連当事者に当たらなくなっており、この金額は関連当事者だった期間の取引だ。
原材料の調達にも変化がある。予備部品・交換部品 (目論見書の区分は「備品備件」) の購入額は2023年の約37億元 (購入総額の41.0%) から2025年に約84億元 (51.8%) へ2.3倍に増え、2026年1〜3月期は約32億元で59.0%を占めた。この区分には、同社が「システム製品」と呼ぶSSDやスマートフォン向けの組み込み型メモリーなど完成品に使う材料も含まれ、その購入が伸びたためだという。2026年1〜3月期の仕入れ先の首位は商社の「仕入れ先B」で、部品の購入額は約12億元と購入総額の23.0%を占めた。この1四半期の額は、仕入れ先Bからの2025年通年の購入額 (約10億元) の1.2倍にあたる。原材料全体の上位5社に入ったシリコンウエハーの仕入れ先は、2023年はメーカー2社、2024年以降は商社1社だった。
中国の装置メーカーの開示からも、取引の相手は特定できない。中微公司は2025年の年次報告書で、自社のエッチング装置が200層以上の3D NANDの量産に使われていると記した。首位の顧客向けの売上高は約50億元で全体の40.0%、上位5社で75.0%を占めるが、顧客名は「顧客1」などの匿名だ。北方華創の上位5社の顧客向けの売上高は全体の39.0%で、こちらも匿名だ。2社の年次報告書に長江存儲の名は出てこない。
武漢新芯は持ち株会社の連結対象から外れ、第3期工場の運営会社には長江存儲が50.19%を出資
目論見書には、グループ会社への出資比率の変化も載っている。長江存儲控股は2026年5月31日の株主総会で、半導体受託生産の武漢新芯の株式の39%を、武漢光谷半導体産業投資などに譲渡することを決めた。株式の譲渡は7月9日に完了した。出資比率は68.19%から29.19%に下がり、武漢新芯は連結対象から外れた。同社は2024年12月2日、先端半導体の開発・生産に関与するおそれが大きいとして、外国直接製品規則も適用される区分で禁輸リストに載った。
一方、2025年9月5日に設立された第3期工場の運営会社「長存三期(武漢)集成電路」(集成電路は集積回路の意) には、長江存儲が50.19%、湖北長晟三期投資発展が49.81%を出資する。資本金は約207億元だ。
米商務省は2025年9月29日、リスト掲載企業が50%以上出資する会社にも同じ規制を自動的に適用する規則を施行した。同省は11月10日から1年間この規則の適用を停止しており、延長されなければ停止は2026年11月9日で切れる。編集部が米官報を検索した範囲では、10月23日時点で延長の告示は出ていない。この規則の対象は、禁輸リストに載った企業がどれだけ出資しているかで決まる。株式を手放した持ち株会社はリストに載っておらず、武漢新芯自身は2024年12月から掲載されているため、今回の譲渡で規則の対象は変わらない。規則の文言では、停止が終われば、長江存儲が50.19%を出資する長存三期と、全額出資する上海・北京・香港・米国の子会社が対象に入る (日本法人は既に掲載済み)。長江存儲は目論見書で、この規則には触れていない。
日本企業の開示に長江存儲の名は無く、東京エレクトロンとSUMCOの中国比率は下がった
長江存儲が目論見書で取引や比較の相手として名前を挙げた日本企業は、競合のキオクシアと自社の日本法人だけだった。
キオクシアの有価証券報告書によると、中国の拠点の外部顧客への売上収益は、2025年3月期の3,234億円から2026年3月期に3,819億円へ18.1%増えたが、連結売上収益に占める比率は18.9%から16.3%に下がった (比率は編集部の計算)。同社は事業のリスクとして、中国では政府の支援で半導体の国産化が加速していると記した。米中対立で中国の主要顧客への販売が制限されたり、米国の主要顧客が中国市場を失ったりすれば、売上収益が大きく減る可能性があるともしている。同社は7月31日の決算説明会で中国メーカーを含む競争環境を問われ、AI向けの需要の強さと長期契約の進捗が自社の競争力の表れだと答えた。中国メーカーには個別に触れなかった。
| 会社 | 開示の内容 | 比べた時点 | 直近 |
|---|---|---|---|
| 東京エレクトロン | 地域別売上高構成比の中国 | 44.4% (2024年3月期) | 34.1% (2026年3月期) |
| 東京エレクトロン | 新規装置の売上高に占める不揮発性メモリー向けの比率 | 2% (2024年4〜6月期) | 11% (2026年4〜6月期) |
| キオクシア | 中国の拠点の売上収益の比率 | 18.9% (2025年3月期) | 16.3% (2026年3月期) |
| SUMCO | 売上高に占める中国の比率 | 12.3% (2025年1〜6月期) | 10.6% (2026年1〜6月期) |
| KOKUSAI ELECTRIC | 中国の地場メーカー向け・NAND向け装置の売上収益の増減 | 2025年3月期 | 162億円増 (2026年3月期) |
東京エレクトロンの決算説明資料によると、地域別の売上高構成比で中国は2022年3月期が28.3%、2023年3月期が23.9%だった。2024年3月期は44.4%で前期から20.5ポイント上がり、その後は2025年3月期に41.7%、2026年3月期に34.1%へ下がった。四半期では2025年4〜6月期の38.6%から2026年4〜6月期に30.4%へ下がった。新規装置の売上高に占める不揮発性メモリー (NANDなど) 向けの比率は、2024年4〜6月期の2%から2025年4〜6月期に10%、2026年4〜6月期に11%へ上がった。
シリコンウエハーのSUMCOは半期報告書で、2026年1〜6月期の中国向けの売上高を228億円と開示した。前年同期の252億円から9.6%減り、売上高全体が4.7%増えるなかで、中国の比率は12.3%から10.6%に下がった。同社は4〜6月期の300ミリウエハーについて、AI向けの先端ロジックとメモリー向けが好調だったという。成膜装置のKOKUSAI ELECTRICは、2026年3月期の売上収益の前期からの増減要因として、中国の地場メーカー向け装置のうちNAND向けの162億円増と、DRAM向けの364億円減を挙げた。中国の地場メーカー以外の顧客向けのNAND向け装置は27億円増にとどまり、中国の地場メーカー向けの伸びが上回った。同じ期の市場については、NANDは新しい世代の製品に移るための投資が中心だったとしている。
東京エレクトロン、SUMCO、KOKUSAI ELECTRICの3社はいずれも長江存儲向けの売上高を開示しておらず、長江存儲も上位の仕入れ先を匿名にしている。両者の取引額は、どちらの開示からも分からない。
長江存儲グループは禁輸リストに載った翌年の2023年から2025年までに、売上高をキオクシアの8割強の規模まで伸ばし、設備投資額も増やした。同社は装置や材料の主な仕入れ先の社名を明かしていない。日本企業の開示で分かるのは、東京エレクトロンとSUMCOで中国比率が下がり、KOKUSAI ELECTRICで中国の地場メーカー向けのNAND向け装置が増えたことまでだ。今後は、出資比率50%以上の会社に規制を広げる規則の適用停止が11月9日の期限後に延長されるかを米官報で確かめる。上海証券取引所の照会への同社の回答は、取引所の開示で追う。長鑫存儲と長江存儲が互いの分野に参入する動きはDRAMとNANDの相互参入の記事に、米国の制裁対象の企業の一覧は制裁データベースにまとめている。
※2026年10月23日、一次資料に基づき全面的に書き直しました。旧版は「128層以上のNANDの製造に不可欠な装置の輸入が事実上不可能になった」と書きましたが、128層の基準は禁輸リストへの掲載とは別の2022年10月7日の規則によるものです。禁輸リストは米国の輸出管理規則の対象品目に限って輸出を許可制にする措置で、装置の輸入を一律に禁じるものではないため、官報の内容に沿って改めました。「東京エレクトロンの中国向け売上比率は4割を超えており」は、旧版の公開 (2026年5月20日) より前の4月30日に公表された2026年3月期の34.1%に改めました。旧版で「YMTC科学技術」としていた社名は長江存儲 (上場を申請したのは持ち株会社の長江存儲控股) に改めました。評価額とマイクロン・テクノロジー、SKハイニックスの時価総額、出所を確認できなかった2023年10〜12月期の世界シェア約8%、クラウド事業者の設備投資8,300億ドルの予測、証券会社の分析、国産装置への依存の度合い、ウエハーの供給に関する見通しの記述は削除しました。
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