光集積回路の世界市場は2035年に8兆5600億円へ8.6倍に伸びる。ただしCPOは3度目の挑戦であり、前の2回は電力で勝ちながら量産に届かなかった。原因は光源の交換性と熱にある。構造の4か所を分解する。

電気で送っていた信号を光に置き換える動きが、半導体のすぐ手前まで来ている。GPU同士、あるいは演算装置と記憶装置の間で、速度を上げながら電力を減らす必要が生じたためである。光と電気を相互に変換する光集積回路(PIC)がこの役目を負い、調査会社アイディーテックエックスは、その世界市場が2035年に545億ドル、日本円でおよそ8兆5600億円に達すると見る。2025年の8.6倍にあたる。

ただし、この分野で先端に位置するCPO(コパッケージ光)は、今回が3度目の挑戦である。前の2回は電力で差込型を圧倒しながら、量産に届かなかった。

光集積回路の世界市場規模
光集積回路の世界市場規模

8.6倍の内訳を金額に戻すと、材料の勢いが逆転して見える

構成比だけを見ると、Si材料が92パーセントから67パーセントへ後退し、InP(インジウムリン)やLiNbO3(ニオブ酸リチウム)といったSi以外の材料が8パーセントから33パーセントへ伸びる。ここだけを読むとSiが押されているように映る。

金額に戻すと像が変わる。2025年の1兆円のうちSiは9200億円、2035年の8兆5600億円のうちSiは5兆7000億円規模になる。6倍強に増えている。一方でSi以外は800億円から2兆8000億円規模へ、35倍に跳ねる。構成比の低下と市場の縮小は別の話であり、Siは絶対額では大きく伸びながら、伸び率で追い抜かれる。

なぜSi以外が要るのか。理由は物性にある。Siは電子が上の帯から下の帯へ落ちるときに運動量のずれを埋める必要があり、格子の振動を巻き込まないと落ちられない。発光の効率が桁で劣るため、Siの回路は光を作れない。作る役はGaAsやInPのように直接落ちられる材料が負う。

材料ごとの役割と、変調方式の交換条件
材料ごとの役割と、変調方式の交換条件

もう一つの制約が、光の強弱をつける速度である。Siで変調する場合は電子と正孔を出し入れして屈折率を動かすため、速度を上げるほど損失と歪みが増える。LiNbO3は電圧をかけると屈折率が素直に応答し、研究水準では110ミリワットの光を扱いながら110ギガヘルツを超える帯域が得られている。構成比が33パーセントまで伸びる予測は、この差を織り込んだものである。

ここに、あまり書かれない交換条件がある。面積を詰めるために微小な環で共振させる方式を採ると、駆動電圧は下がるが共振波長が温度で動く。加熱器で押さえ込む必要があり、1つあたり数十ミリワットが常時かかる。CPOの消費電力として示される数字は、信号を送る部分だけを比べていることが多い。温度を保つ電力や光源自体の消費まで含めた値は、製品ごとに条件が違うため横並びにしにくい。

パッケージ基板の上で、光と電気が同居する

CPOは、演算する半導体と同じパッケージ基板の上に光エンジンを載せ、パッケージ同士を光の配線でつなぐ。光エンジンの主要部がPICで、信号を光に乗せる変調器と、光を電気に戻す検出器を載せる。

CPOの構造
CPOの構造

構造で目を引くのは、光源が基板の外に置かれることである。Siが光を作れない以上、光のもとは別の材料で作って持ち込むしかない。加えて、レーザーは温度が上がると波長がずれ、寿命も縮む。演算装置のすぐ隣は、レーザーにとって最悪の置き場所になる。外部光源という設計は、材料の制約と熱の制約が重なった結果である。

PICの上に載る部品は4種類に整理できる。光の通り道である導波路、電気信号を光の強弱に変える変調器、光を電流に戻す受光素子、そして波長の違う光を1本にまとめたり分けたりする合分波器である。これに、外から来た光を導波路へ導く結合器が加わる。演算する側の電子回路は別の半導体として作り、光の側と貼り合わせる。第3世代のCPOで採られた実装は、この貼り合わせを封止の工程に取り込み、光エンジンとして扱えるようにしたものである。

工学として最も厄介なのは、最後の結合器にある。光ファイバーで光が通る芯は直径9マイクロメートル前後だが、Siの導波路は幅がその20分の1ほどしかない。断面積では2桁の開きがある。この差を埋めながら光を通すため、位置合わせの許容誤差はサブマイクロメートルの領域に入る。1マイクロメートルずれれば損失は目に見えて増え、温度が変われば材料の伸び方の違いでずれる。CPOでは1つの装置に数百本のファイバーが取り付くため、この精度を数百か所で同時に、かつ工場の量産速度で満たす必要が生じる。演算装置の性能とは無関係なこの工程が、実際の歩留まりを決めている。

差込型では、この位置合わせは光送受信器の中で完結し、装置側は電気の端子で受け取ればよかった。CPOは位置合わせの責任をパッケージの側へ移す。部品の点数が減るのではなく、難所が移動する。

3度目であることは、ほとんど報じられていない

ブロードコムのCPO交換機は、2021年、2023年、2025年と3世代を重ねている。この履歴を並べると、普及を止めていたものが電力ではなかったことが分かる。

CPOの3世代と、口あたり電力の推移
CPOの3世代と、口あたり電力の推移

第1世代は交換容量25.6テラビット/秒で、800ギガビットの1口あたり6.4ワット。当時の差込型が16から18ワットだったから、この時点ですでに3分の1である。電力では完勝していた。それでも採用は1社の開発用にとどまった。レーザーか光学部が壊れると交換機ごと載せ替えになる構造だったためである。

第2世代は51.2テラビット/秒、5.5ワット。光源を着脱できるようにしたことで運用の不安は和らぎ、メタが100万時間を超える運用で切断ゼロを報告した。年間の障害件数は差込型の5分の1に収まり、GPU2万4000台規模の学習でも接続が律速にならないことが示された。それでも量には届いていない。

第3世代で変わったのは実装である。TSMCの光電実装技術を採り、光源を熱源から引き離した。前面から光源だけを差し替えられる形に戻し、量産は外部の受託先へ委ねた。800ギガビット口あたり3.5ワット、交換容量102.4テラビット/秒。差込型比で70パーセント超の削減になる。

4年で6.4ワットから3.5ワットへ、45パーセント減った。だが第1世代の時点で差込型の3分の1だったことを踏まえれば、この45パーセントが普及の分かれ目だったとは考えにくい。壊れたときに直せるか、熱をどこへ逃がすか。工学の教科書ではなく、運用の都合が5年を費やしている。

エヌビディアは2026年前半にインフィニバンド版、後半にイーサネット版を投入する計画で、1.6テラビットの差込型が30ワットを要するところをCPOの1口9ワットで置き換えると説明する。削減率は同じく70パーセントである。大容量の製品はいずれも液体で冷やす前提になっており、空冷のままの設備には入らない。

距離が置き換えの順序を決めている

光がどこから入るかは、技術の新しさではなく距離で決まる。

光が入る4つの段階
光が入る4つの段階

電気の配線は速度を上げるほど届く距離が縮む。波形が崩れるため途中で整え直す回路を挟み、その回路が電力を食う。光は距離が伸びても減りにくい代わり、電気と光を変換する場所で必ず電力を使う。両者が釣り合う距離が置き換えの境目になり、速度が上がるたびに境目は短い側へ動く。光が年々、半導体の近くへ寄ってくるのはこのためである。

拠点と拠点の間はとうに光で、いま起きているのは装置と装置の間の置き換えである。基板と基板の間は次の段階で、NTTが幅20ミリメートル前後の光エンジンを16個束ねて102.4テラビット/秒、従来構成の8分の1の電力を掲げ、2026年度中の商用提供を予定する。大阪・関西万博の自社展示館で実運用による検証を済ませている。半導体の中で演算装置と記憶装置を光でつなぐ段階は2030年代の話で、Ayar Labsのような新興が狙うものの、量産の道筋はまだ見えない。

4つの段階は置き換えではなく積み上げである。手前が光になっても、その先の電気配線が消えるわけではない。変換の回数がむしろ増える局面があり、そこで得た電力を変換で失う設計も起こりうる。記憶装置側の帯域が先に詰まる構図は別稿で扱った通りで、配線を光にしても隘路が移るだけの場面がある。

削減した電力は、電気代ではなく演算装置の台数に換算される

CPOの価値がどう測られているかを見ると、この分野の力学が分かる。

電力削減を演算装置の台数に換算する
電力削減を演算装置の台数に換算する

半導体側の試算では、電力の単価をメガワット・年あたり120万から150万ドルと置き、10万台規模の加速器の接続を差込型からCPOへ替えると、5年でおよそ11億3000万ドルが浮く。日本円で1770億円ほどで、GPU3万2000台分の購入額に相当する。電気代の節約としてではなく、同じ受電枠で回せる演算量として語られる点が要点になる。

大規模な計算設備で先に尽きるのは資金ではなく、引ける電力そのものである。1ペタフロップスあたりの電力が下がり続けても総量が増え続ける構図は過去の分析で追った通りで、受電の枠が決まっている場所では、配線が食う1ワットを削ることが演算に回せる1ワットを生むことと同義になる。送電網につなぐまでの待ち時間が長い地域ほど、この置き換えの価値は上がる。日本の系統接続をめぐる制約も、同じ計算式の中にある。

試算に入っていない費用もある。差込型なら故障した1本を抜いて差し替えれば済んだ切り分けが、同居させると判定の方法から変わる。運用の作法を作り直す費用が要る。調達の面ではさらに大きく、差込型は規格が揃って複数社から買えたのに対し、CPOは交換機と一体で調達することになる。値引き交渉の余地が細るという副作用は、電力の削減額と一緒には語られない。

市場規模の読み方にも注意が要る。8兆5600億円という数字が指すのはPICそのものであり、それを組み込んだ光エンジン、外部光源の筐体、コネクター、ファイバーの束、装置全体は含まれない。実際に金が動く範囲はこれより大きく、しかも取り分の配分は工程ごとに違う。PICの市場が8.6倍になるという予測から、関連する企業の売上が一律に8.6倍になると読むと外れる。歩留まりの壁が厳しい工程ほど値付けの力が残り、規格が固まった部品ほど早く値崩れする。

現場の視点で見ると、判断の材料は3つに絞られる。受電の枠が足りているか、装置の冷却を液体に切り替えられるか、故障時の予備品をどう持つか。1つ目が足りない設備では置き換えの利得が最も大きく出る。2つ目が満たせない設備では、電力で有利でも導入自体が成立しない。3つ目は運用部門の設計の問題で、光源だけを前面から交換できる第3世代の構造は、ここに正面から答えている。

番号の3番と4番に、日本の上場企業が座っている

CPOの構造で番号が振られる4か所のうち、報じられるのは演算装置の1か所に偏る。残りを部品と企業に割り当てると、地図の見え方が変わる。

構造の4か所と、そこを取っている企業
構造の4か所と、そこを取っている企業

外部光源では古河電気工業(5801)が波長可変の光源で世界の過半を握る。CPO向けには、1系統あたり100ミリワットの出力を16系統まとめた差し込み型の外部光源を世界で最初に出しており、筐体温度55度でも全系統で出力を保つ仕様になっている。第3世代のCPOが熱源から光源を引き離したことと、この仕様は同じ問題に答えている。同社はコネクター部品や光ファイバーケーブルの製造能力を最大5倍以上へ引き上げ、2030年度のデータセンター分野の売上高を2023年度比で3倍にする計画を掲げる。

光ファイバーと接続部品でも日本勢が上位を占める。住友電気工業(5802)は光送受信器で世界首位、フジクラ(5803)は光ファイバー同士を熱で溶かしてつなぐ融着接続機で世界首位にある。CPOでは1つの装置に数百本のファイバーが集まるため、接続の作業量がそのまま装置の需要になる。光エンジンの封止では新光電気工業NTTの構想に加わっている。

この位置に日本勢が残った理由は、先のサブマイクロメートルの位置合わせにある。細い芯を持つファイバーを、断面積で2桁小さい導波路へ、数百か所まとめて、温度が変わってもずれない形で固定する。要求されるのは新しい原理ではなく、寸法の作り込みと、それを量産速度で外さない工程管理である。光通信の敷設で数十年積み上げてきた領域が、そのままAI向けの設備で効いている。演算装置の設計競争とは別の軸で、追いつくのに時間のかかる種類の優位が残った。

ただし、CPOの普及が3社に等しく効くわけではない。光源と接続部品は増える側だが、差込型の光送受信器は減る側にある。住友電気工業は首位に立つ製品が置き換えられる側でもあり、同じ「CPO関連」という括りの中に、置き換える事業と置き換えられる事業が同居している。この区別を落としたまま3社をひと括りにすると、業績の出方を読み違える。

装置の心臓部を海外勢が押さえ、その周りの材料と部品を日本勢が握るという構図は、露光機をめぐる装置と材料の依存関係と重なる。違うのは、CPOでは日本勢が握るのが後工程の消耗品ではなく、光を作る部品そのものだという点である。Siが光を出せない限り、この部品が要らなくなる筋道は当面ない。