電子機器の受託製造を手がける米国のサーキットハブが10月26日、基板の実装設備「ザ・グリッド(The Grid)」を発表した。同社によると、段取り替えが要らない設備で、試作基板を深センの工場に頼む場合の半分以下の日数で届けられる。

段取り替えは、作る基板の品種が変わるたびに、部品のリールやメタルマスク(はんだを印刷する型)を付け替え、装置のプログラムを切り替える作業を指す。段取り替えにかかる時間は作る枚数によらないため、試作のように枚数が少ないほど1枚あたりの費用が高くなる。部品を基板に載せる実装機は、日本ではFUJIやパナソニック コネクト、ヤマハ発動機、JUKIなどが手がけている。

試作基板の納期は深センの半分以下、費用は約1.4倍

同社は、4層のモーター制御基板5枚に部品を実装し、米国内に届ける場合の納期と費用を比べた。1枚に載せる部品は38種類、118点だ。見積もりは2026年10月時点で、部品代と基板代、組み立て費を含む。日数は注文から到着までで、土日も含む。

同社はザ・グリッドで組み立てた基板をマサチューセッツ州の工場から翌日配達の航空便で送り、4日で届ける。費用は630ドル(約9万9400円)で、1枚あたりでは126ドルになる。同社は試作向けのサービスで、10枚までの注文を3日で出荷している。対象は表面実装の部品だけを使う2層か4層の基板だ。

中国・深センの短納期に対応する工場に頼むと、到着まで中央値で9日かかる。通常は8〜11日の幅に収まる。費用は約465ドル(約7万3400円)だ。工場がウェブサイトで示す見積額に、サーキットハブが送料と米国の関税を足して算出した。サーキットハブは比べた工場の名前を明らかにしていない。

編集部の計算では、深センの工場に頼むと1枚あたり約93ドルになり、ザ・グリッドとの差は1枚あたり約33ドルになる。通常の日数のうち最も短い8日と比べても、ザ・グリッドは半分の日数で届く(図1)。

ザ・グリッドと深センの短納期に対応する工場の比較。4層の試作基板5枚を米国内に届ける場合の納期と費用
ザ・グリッドと深センの短納期に対応する工場の比較。4層の試作基板5枚を米国内に届ける場合の納期と費用

米国際貿易委員会の関税率表によると、部品を載せる前の中国製のプリント基板には、対中制裁関税の第3弾で25%の追加関税が課されている。さらに7月24日からは、中国製品に12.5%の関税が加わった。通商法301条に基づく新たな措置で、労働問題による製品の輸入を禁じていない国・地域が対象となり、中国も含まれる。第3弾の関税と合わせた税率は37.5%になる。部品を実装した基板は用途によって関税分類が変わるため、編集部はモーター制御基板にかかる税率を特定できなかった。

国際緊急経済権限法に基づく関税は、米連邦最高裁が2月に違法と判断したのを受けて撤廃され、今回の見積もりには含まれない。米国内での基板の生産を後押しする動きもある。米上院では5月、米国で製造されたプリント基板を買った企業に購入額の25%の税額控除を認める法案が提出された。

2012年創業のサーキットハブ、ザ・グリッドの生産額は年数千万ドル

サーキットハブは2012年創業で、米東部マサチューセッツ州に本社を置く。従業員は60人弱だ。創業者はアンドリュー・セドン最高経営責任者(CEO)とレーノ・リンデキュー最高技術責任者(CTO)の2人だ。セドンCEOは英国の画像認識とロボットの企業でチームを率いた。同社は米国のスタートアップ育成機関、Yコンビネーターの支援も受けた。

同社は5月、投資会社のプルーラルなどから2800万ドルを調達した。これまでの調達額は計4800万ドルになる。調達に合わせ、2027年までにマサチューセッツ州の工場の生産能力を10倍に引き上げ、欧州にも進出する計画を示した。10月には、年内に生産能力を5倍に増やす計画も明らかにした。

組み立てはすべてマサチューセッツ州の自社工場で行う。ただ同社の資料によると、納期に余裕のある注文や大口の注文では、部品を載せる前の基板に中国製を使う。

ザ・グリッドは5年前から顧客の基板を作っており、生産額はすでに年間数千万ドルに上る。基板の用途は研究開発のほか、製品の試験装置や治具(組み立てや検査に使う補助具)、少量生産の製品にも広がる。同社によると、顧客にはEVの大手メーカーやAI開発の有力企業、著名なIT企業が含まれる。同社は顧客名を明かしていない。自社サイトには米テスラのロゴを載せている。

磁力で浮く台が基板と部品を運び、基板ごとに経路を変える

従来の表面実装のラインには、はんだ印刷機、実装機、はんだを溶かして固めるリフロー炉、検査装置が1列に並び、どの基板も同じ順に流れる。品種を変えるたびに、作業者が部品のリールを供給装置(フィーダー)に付け替えるなどの段取り替えを行う。

ザ・グリッドでは、磁力で浮く台に基板を1枚ずつ置き、その基板に使う部品と一緒に運ぶ。台は、はんだ印刷、部品の実装、はんだ付け、検査の各ロボットの間を移動し、通る経路は基板ごとに異なる(図2)。部品は自動倉庫から取り出し、リフトで台まで運ぶ。同社は納期の遅れを減らすため、数十万点の部品を自社の倉庫にそろえている。

設備全体の制御には、機械学習とAIエージェント、数理最適化を組み合わせている。AIエージェントは、人が細かく指示しなくても自ら作業を進めるAIを指す。同社は、品種ごとに1枚ずつ作っても、同じ品種をまとめて作るのと手間は変わらないと説明する。ザ・グリッドは最大で215ミリ×199ミリの基板を扱える。

従来の実装ラインは品種を変えるたびに段取り替えが要る。ザ・グリッドは磁力で浮く台に基板と部品を一緒に載せ、基板ごとに別の経路で運ぶ
従来の実装ラインは品種を変えるたびに段取り替えが要る。ザ・グリッドは磁力で浮く台に基板と部品を一緒に載せ、基板ごとに別の経路で運ぶ

同社は台や装置の調達先を公表していない。セドンCEOは2025年のポッドキャストで、主な調達先の生産枠を確保するため、社名は明かしていないと話した。機械の一部は自社で設計しているとも述べた。

磁力で台を浮かせ、平面上で自在に動かす搬送装置は、独ベッコフやカナダのプラナー・モーターが製品化している。プラナー・モーターは2026年6月、横浜市に日本法人を設立した。ベッコフの装置は台を浮かせたまま前後左右に加えて上下にも動かせ、傾けたり回したりもできる。最高速度は秒速3メートルに達する。日本企業ではヤマハ発動機がリニアモーター式の搬送装置を販売しているが、台はレールに沿って動く。同様の装置を製品化している日本企業は、編集部が調べた範囲では見当たらなかった。

日本の実装機メーカーは段取り替えの自動化を競い、輸出が急増

日本の実装機メーカーも、段取り替えの自動化を競っている。ヤマハ発動機は、はんだ印刷機の段取り替えを世界で初めて全自動にしたとしている。

FUJIは、部品のリールをフィーダーに自動で取り付ける装置を開発し、2026年内に出荷する計画だ。同社は世界初の装置としている。部品を倉庫から出す作業から、使い終えたリールの回収までを一貫して自動化する考えだ。2030年には、実装機を主力とするロボットソリューション事業の売上高の2割を、自動化関連の製品で稼ぐ目標を掲げる。

日本ロボット工業会の統計によると、2025年の電子部品実装機の輸出額は3142億円だった。前年比44%増えた。国内出荷は217億円にとどまり、出荷額の9割超を輸出が占めた(図3)。2026年1〜9月の輸出額は3239億円で、すでに前年1年間の額を上回った。この統計は会員企業の出荷を集計したもので、実装機のほか、部品を基板の穴に差し込む装置や検査装置も含む。

日本の電子部品実装機の輸出額。2026年は1〜9月で前年1年間の額を上回った
日本の電子部品実装機の輸出額。2026年は1〜9月で前年1年間の額を上回った

実装機大手のFUJIは、2026年3月期のロボットソリューション事業の売上高が1687億円だった。前期比48%増えた。同社は実装機の世界市場を4000億円超と推計し、自社のシェアは世界トップクラスとしている。

パナソニック ホールディングスの調べでは、傘下のパナソニック コネクトの実装機は2024年に世界シェア首位だった。同社は決算短信で、パナソニック コネクトの増収の理由に、生成AI向けサーバーなど情報通信分野の需要を挙げた。ヤマハ発動機は中期経営計画で、実装機で業界上位3社に入ることを目指している。

会社(証券コード)実装機を主とする事業の売上高決算期シェア・目標(自社の説明)
FUJI(6134)1687億円2026年3月期世界トップクラス
パナソニックHD(6752)非開示2026年3月期世界首位(2024年、自社調べ)
ヤマハ発動機(7272)747億円2025年12月期上位3社入りを目指す
JUKI(6440)131億円2025年12月期公表なし

ヤマハ発動機の欄は実装機などの売上収益、JUKIの欄は実装機を含む産業装置事業の売上高だ。パナソニックHDは実装機だけの売上高を開示していない。

プリント基板の国内生産額は2025年に12%増、イビデンなど大手は量産品が主力

国内では大手メーカーがプリント基板を量産している。経済産業省の生産動態統計によると、2025年の電子回路基板(プリント基板)の生産額は6106億円だった。前年比12%増えた。一方、生産した基板の面積は5.6%減った。生産額のうち、サーキットハブの例と同じ4層基板は522億円だった。配線層と絶縁層を交互に積み重ねるビルドアップ基板は1239億円に上った。

2026年1〜8月の生産額は前年同期比33%増えた。半導体パッケージなどに使うモジュール基板が48%増え、全体をけん引した。

会社(証券コード)基板関連の売上高主な製品・用途国内の主な工場
京セラ(6971)3794億円半導体パッケージ(セラミック・有機)京都府綾部市、鹿児島県薩摩川内市など
NOK(7240)3451億円フレキシブル基板茨城県牛久市
イビデン(4062)2433億円半導体パッケージ基板岐阜県大垣市など
メイコー(6787)1980億円車載・スマートフォン神奈川県・福島県など
日本シイエムケイ(6958)1002億円車載新潟県・埼玉県など

いずれも2026年3月期の売上高で、海外生産分を含む。京セラはセラミック製のパッケージを含む半導体関連部品事業、NOKは子会社メクテックの電子部品事業、イビデンは電子事業、メイコーは基板事業、日本シイエムケイは全社の数字だ。

イビデンの電子事業の売上高は、前期の1972億円から23%増えた。同社は2026〜28年度に約5000億円を投資する計画だ。メイコーは基板の売上高のうち車載向けが975億円で最も多い。衛星通信向けは282億円と、前期の約1.7倍に増えた。

沖電気工業の子会社、OKIサーキットテクノロジーは2026年4月、広帯域メモリー(HBM)の検査装置向けに、180層の基板を作る技術を確立したと発表した。同社は当時、10月の量産出荷を目指すとしていた。

こうした基板大手の主力は、車載やサーバー、スマートフォン向けの量産品だ。数枚の試作基板を急いで作りたい企業向けには、短納期を売りにする試作サービスがある。

P板.comは試作基板を最短2営業日で出荷、部品の実装は別に4営業日

国内の代表的な試作サービスに、ピーバンドットコム(3559)が運営する「P板.com」がある。同社は東証スタンダード上場で、2026年3月期の売上高は23億円だった。自社工場は持たず、国内のほか韓国や台湾、中国などの約30社に製造を委託している。同社によると、利用企業は3万社を超える。

同社が示す目安によると、4層基板は最短2営業日で出荷できる。基板が届くのは、出荷の翌日か翌々日になる。

同社は部品の実装も頼む例として、基板5枚に表面実装の部品20点を載せる注文を挙げている。メタルマスクの製作と実装にそれぞれ2営業日かかり、基板の製造とは別に計4営業日が要る。作業は部品がそろってから始まる。

滋賀県のユニクラフトは、国内工場で製造する「超特急」コースで、4層基板を最短で注文の翌々日に出荷する。長野県に本社を置く基板メーカーのキョウデンは、4層基板を最短2日で届けるとしている。部品の端子が計500本あるビルドアップ基板でも、実装を済ませて1週間で納めるという。

編集部が調べた3社のうち、基板の製造と部品の実装を合わせた日数を示していたのはキョウデンだけだった。サーキットハブの例と同じ条件で総日数と費用を公表している国内の試作サービスは、確認できなかった。

(1ドル=157円82銭で換算。欧州中央銀行が10月27日に公表した参照レートから算出)

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