住友ベークライトは先端半導体向けの封止材を中国とシンガポールで増産する。中国と東南アジアで需要が伸びているためだ。米コンサルティング会社などの予測では、後工程の世界の生産能力に占めるベトナムのシェアは2032年に8%に高まる。
三井物産戦略研究所は10月27日に公表した報告書で、東南アジアの半導体後工程の動向をまとめ、この予測を引いた。後工程は、ウエハーに作り込んだ回路をチップごとに切り分け、樹脂で封じて検査し、製品に仕上げる工程だ。
住友ベークライト、封止材の生産能力を中国とシンガポールで増強
住友ベークライトは10月9日、先端半導体向けの封止材の生産能力を、中国・蘇州とシンガポールの子会社で増強すると発表した。生成AIや通信衛星などに使う先端半導体の需要が、中国と東南アジアを中心に急速に伸びているためだ。チップと基板のすき間を埋めながら全体を一度に覆う封止材の生産能力を約2倍に、顆粒封止材を約3倍に引き上げる。シンガポールでは2028年度末、蘇州では2030年度に生産を始める予定だ。投資額は公表していないが、日本経済新聞は約100億円と報じた。
後工程の流れと先端パッケージの仕組み
後工程では、まずウエハーを薄く削り(研削)、刃やレーザーでチップに切り分ける(切断)。ディスコと東京精密は、この研削と切断の装置を手がける。切り分けたチップは基板に載せて電極をつなぎ、樹脂で覆って湿気や衝撃から守る。樹脂で覆う工程を封止と呼び、使う樹脂を封止材という。住友ベークライトは封止材を、TOWAは樹脂封止装置をつくる。最後に検査装置で電気的な特性を確かめる。アドバンテストは半導体検査装置の世界大手だ(図2)。
先端パッケージは、複数のチップを1つのパッケージにまとめ、微細な配線で高密度に接続して性能を高める技術だ。チップを横に並べて中間基板(インターポーザー)でつなぐ方式を2.5次元、縦に積み重ねる方式を3次元と呼ぶ。2.5次元は、エヌビディアのAI半導体のように、演算用のチップとメモリーを並べてつなぐ製品で使われている。
装置メーカーの東南アジアなど向け売上高に明暗
後工程の装置を手がける日本の4社について、有価証券報告書で地域別の売上高を比べた。ディスコの2026年3月期の売上高のうち、中国・韓国・台湾を除くアジア向けは前期比30%増えた。連結売上高の11%増を大きく上回る。アドバンテストでは、同じ地域向けの売上高がほぼ倍増した(編集部の計算で91%増)。
表1 後工程の装置メーカー4社の東南アジアなど向け売上高(2026年3月期)
| 会社(証券コード) | 地域の区分 | 売上高 | 前期比 |
|---|---|---|---|
| ディスコ(6146) | 中国・韓国・台湾を除くアジア | 441億円 | +30% |
| アドバンテスト(6857) | 中国・韓国・台湾を除くアジア | 728億円 | +91% |
| 東京精密(7729) | 東南アジア | 136億円 | −3% |
| TOWA(6315) | 韓国・東南アジア・インドなど | 153億円 | −21% |
出所:各社の有価証券報告書。アドバンテストの値は、アジアの売上高から中国・韓国・台湾の分を差し引いた編集部の計算。
一方、東京精密の東南アジア向け売上高は3%減り、TOWAでも韓国や東南アジア、インドなどを合わせた地域向けの売上高が21%減った。ただ、TOWAの4〜6月の受注高をみると、中国・韓国・台湾を除くアジア向けは47億円に膨らんだ。前年同期の約3倍にあたる。
各社とも国別の内訳は開示しておらず、マレーシア向けやベトナム向けの売上高は分からない。ジェトロによると、マレーシアの半導体製造装置の輸入額のうち、日本からの輸入は2023年に22%を占めた。
後工程の生産能力の世界シェア、ベトナムは2032年に8%へ
米ボストン・コンサルティング・グループ(BCG)と米半導体工業会は2024年5月、世界の後工程の生産能力に占めるベトナムのシェアが2032年に8%に高まると予測した。2022年は1%未満だった。マレーシアは7%から9%に上がる。生産能力は工場の床面積で測ったもので、生産量や売上高で比べたものではない。
日本は6%から3%に半減し、韓国と台湾もシェアを落とす。米国は7%に、首位の中国本土は32%に上がる(図1)。
同じ報告書によると、東南アジアは2022年時点で世界の後工程の生産能力の約2割を占め、その中ではマレーシアが最大だった。ベトナムのシェアの予測は、BCGなどの報告書の図では8%だが、本文と注では9%となっている。三井物産戦略研究所の報告書は図の8%を採っている。
ベトナム、米韓の大手に続き地場企業も後工程へ
地場企業では、IT(情報技術)大手のFPTが2026年1月、北部バクニン省に後工程の工場を設けると発表した。2027年までの第1段階は検査に限り、組み立ては2028年以降に始める。軍系通信大手のベトテルは同月、ハノイで国内初の前工程工場の建設を始めた。前工程は、ウエハーに回路を作り込む工程だ。
外資では、半導体の後工程を請け負う世界大手の米アムコー・テクノロジーが2023年10月、バクニン省で工場を開所した。16億ドルを投じる計画で、クリーンルームは最終的に20万平方メートルになる。韓国の後工程大手ハナマイクロンは、2026年までに約9億3000万ドルを投じる計画で、ベトナムの工場で旧世代のメモリーの組み立て能力を高める。同社の副社長は2024年11月、ロイター通信に対し、生産の一部を中国から移したいという顧客の要望に応える投資だと語った。
米インテルは2006年にホーチミン市で組み立て・検査工場の建設を決め、2010年に稼働させた。BCGなどの報告書の注によると、この工場の床面積は約5万平方メートルで、世界の後工程の生産能力の1%未満にとどまる。
ベトナム政府は2024年9月、2030年までの半導体産業の発展戦略を承認した。戦略は、半導体の設計会社を100社以上に増やし、後工程の工場を10カ所設ける目標を掲げる。前工程の工場も1カ所設け、技術者を5万人以上育てるとしている。
ベトナムの法人税率は通常20%だ。ハイテク分野の事業には、10%の優遇税率を15年間適用する。政府は2024年12月に投資支援基金を設け、半導体やAIデータセンターの大型事業には人材育成費の最大5割を補助する。
マレーシア、インテルが先端パッケージ工場を建設
インテルは2021年12月、ペナン州に先端パッケージの工場を建てるため、70億ドル超を投じると発表した。アンワル首相は2026年3月、工場が年内に稼働する見込みだとX(旧ツイッター)に投稿した。10月29日時点で、稼働を伝える発表や報道は見当たらない。
2026年5月には、科学技術革新省の主導で、他社のチップの組み立てと検査を請け負うイナリなど地場の5社が、先端パッケージの企業連合を設ける覚書を交わした。企業連合は、2035年に世界の先端パッケージ市場でシェア7%を握る目標を掲げる。マレーシアの証券会社ケナンガのリポートによると、企業連合は2027年までに、チップと基板をつなぐバンプ(突起状の電極)の量産ラインを設ける計画だ。2028年までには2.5次元の実装技術の確立も目指す。
政府は2024年5月に国家半導体戦略を打ち出した。戦略は、2030年までに5000億リンギ以上の投資を呼び込む目標を掲げる。高い技能を持つ技術者を6万人育て、政府も250億リンギ以上を投じるとしている。
政府は2025年3月、半導体の設計資産を使うため英アームと契約を結んだ。ラフィジ経済相(当時)は、10年で2億5000万ドルを払うと説明していた。マレーシア汚職対策委員会は2026年3月、この契約を調べていると公表した。
マレーシアの税制では、政府が認めた事業に「パイオニア・ステータス」を与え、5年間は法定所得の7割に法人税をかけない。代わりに投資控除を選べば、設備投資額の6割を課税所得から差し引ける。
インテルは1972年、米国外で初めての生産拠点となる組み立て工場をペナン州に開いた。ジェトロによると、世界の半導体の検査とパッケージングの約13%がマレーシアで行われている。この約13%は、床面積で測ったBCGなどの値(2022年に7%)とは基準が異なる。
日本企業では、ルネサスエレクトロニクスがマレーシアに後工程の子会社を4社持つ。ロームはケランタン州の生産子会社で約2000人を雇う。同社は2023年10月、生産能力を約1.5倍に高める新棟の開所式を開いた。
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