米マーベル・テクノロジーは11月2日、光部品の米ルメンタムを株式交換で買収することで最終合意した。ルメンタム株1株にマーベル株4.5株を割り当て、買収額は企業価値ベースで1150億ドルになる。両社は2028年上半期の完了を見込む。

マーベルは自社で工場を持たないファブレスの半導体メーカーで、データセンター向けの通信用半導体や特注半導体を得意とする。ルメンタムは光通信用レーザーの大手で、神奈川県相模原市に、リン化インジウム (InP) を材料にレーザーを生産する工場を持つ。マーベルのマット・マーフィー会長兼最高経営責任者 (CEO) は、AIインフラの通信が光へ大きく切り替わりつつあり、またとない好機だと述べた。

ルメンタム株1株にマーベル株4.5株、統合後の会社はマーフィー氏が率いる

交換比率は固定で、両社の株価が動いても割り当てる株数は変わらない。統合後の会社の株式は、完全希薄化ベースでマーベルの株主が約67%、ルメンタムの株主が約33%を持つ。編集部の計算では、ルメンタムの7〜9月期の希薄化後の株式数1億170万株に交換比率を掛けると、マーベルが新たに発行する株式は約4億5800万株になる。マーベルの発行済み株式数は8月21日時点で8億7690万株あり、これをもとにするとルメンタムの株主の割合は約34%になる。両社が発表した約33%との差は、マーベルの優先株や株式報酬を分母に含めるかどうかの違いとみられる。

マーベルとルメンタムの優先株は、米エヌビディアが2026年3月にそれぞれ20億ドルを出資して引き受けたものだ。エヌビディアはルメンタムからは普通株に1対1で転換できる優先株を287万6415株、マーベルからは最大で普通株2177万8000株に転換できる優先株を引き受けた。合併契約は、ルメンタムの優先株を普通株に転換したものとして扱い、普通株1株分につきマーベルの普通株4.5株を割り当てると定める。エヌビディアが望めば、代わりにマーベルの優先株を受け取ることもできる。編集部の計算では、エヌビディアが持つルメンタムの優先株はマーベルの普通株約1294万株に相当し、マーベルから引き受けた優先株と合わせると最大約3472万株になる。

買収は株式で行うため現金の支払いはなく、両社は買収に伴う新たな借り入れも発表していない。ルメンタムは9月末時点で、1年以内に返済期限を迎える借入金が13億6030万ドルあり、手元資金は20億ドルだった。

買収完了後もマーフィー氏が会長兼CEOを続投する。現在7人いるマーベルの取締役会には、ルメンタムのマイケル・ハールストンCEOら同社の取締役3人が加わる。両社の取締役会は全会一致で合意を承認した。

マーベルによるルメンタム買収の条件と、両社の業績
マーベルによるルメンタム買収の条件と、両社の業績

ルメンタムはInPレーザーを自社工場で生産、相模原でも増産

ルメンタムの年次報告書によると、同社は2024年7月、相模原にあるウエハー工場の土地と建物を4220万ドルで取得した。工場は日本法人の日本ルメンタムが運営している。ルメンタムが日本に保有する製造・研究開発拠点の床面積は約4万4000平方メートルで、自社保有の拠点ではタイに次ぐ広さだ。日本では相模原のほか、東京都八王子市の高尾にも InP の拠点がある。ルメンタムは2026年2月の決算説明会で、InP のウエハー工場の生産能力はすべて顧客に割り当て済みで、生産能力を4割増やす計画は全量を相模原で進めると説明していた。

InP は光を効率よく出したり受けたりできる化合物半導体で、一般的なシリコン半導体にはこの性質がない。レーザーの土台となる InP 基板は、日本企業が増産を進めている。住友電気工業は2028年度に生産能力を2024年度の3倍に引き上げる方針だ。JX金属は4年で最大1200億円を投じ、生産能力を2025年度の7〜10倍に増やす計画だ。ただ、両社と、InP のレーザーを手がける三菱電機、古河電気工業の開示資料に、ルメンタムへの納入を示す記述は無い。

ハールストンCEOは2日の電話会議で、InP の生産規模は世界最大だと強調した。同氏は、信頼性の高いレーザーには専用の工場と独自の製法、パッケージの技術が欠かせず、「工場を持たない会社がまねるのは難しい」と語った。ルメンタムは前工程を自社工場で手がけ、組み立てと検査は自社で行うほか外部にも委託している。

マーベルは光通信用の信号処理半導体や高速の送受信回路、ネットワーク用のスイッチ、顧客ごとに設計する特注半導体を手がける。光源のレーザーは作っていない。マーフィー氏は、ルメンタムの自社工場とマーベルの調達網を合わせれば、顧客に部品を安定して供給できると話した。

両社は投資家向け資料で、AIの計算に使う機器同士の通信を、データセンターの間、データセンターの中、ラックの中とラック同士、パッケージの中の4つに距離で分けている。距離が短い区分ほど必要な通信容量は大きく、両社の見積もりでは、最も距離が短いパッケージの中の通信はデータセンターの間の1000倍になる。銅線では通信量の増加に対応しきれず、消費電力もかさむため、両社は光部品を演算用の半導体のそばに置く必要があると説明する。

両社は、距離の短い2区分では着脱式の光モジュールに代わり、2つの方式が広がると見込む。光部品を半導体のすぐそばの基板に置く NPO と、半導体と同じパッケージに収める CPO (光電融合) だ。2つの方式の違いは解説記事にまとめた。CPO では光回路と電子回路を同じパッケージに並べ、パッケージの外に置いた高出力のレーザーから光を送り込む。電子回路と光部品を一体で設計しなければ性能と省電力は両立できない、というのが両社の主張だ。

ルメンタムは2日、NPO と CPO 向けで2件目となる大型受注を獲得したと発表した。顧客が購入を確約した額は50億ドルを超える。ハールストン氏は、同社の InP レーザーが NPO や CPO への移行を支えると述べている。

通信距離で分けた4つの区分と、2030年に両社が売り込める市場の見積もり
通信距離で分けた4つの区分と、2030年に両社が売り込める市場の見積もり

両社が売り込める2030年の市場は5500億ドル、統合で増える分は主にNPOとCPO

ルメンタムが2日に発表した7〜9月期決算は、売上高が前年同期の約2.4倍の12億6260万ドルだった。調整後の営業利益率は42.3%となった。同社は10〜12月期の売上高を15億7500万〜16億2500万ドル、調整後の営業利益率を45〜46%と見込む。

両社は投資家向け資料で、2030年に製品を売り込める市場の規模を見積もった。マーベル単独で4000億ドル、ルメンタム単独で900億ドル超だ。2社の見積もりを足すと4900億ドル超だが、両社は統合後に売り込める市場を5500億ドルとしている。マーフィー氏は、差の約600億ドルは当面はラックの中やラック同士の接続で、その先はパッケージの中の接続で見込めると説明した。いずれも NPO や CPO を使う接続だ。

投資家向け資料は、四半期の売上高を年に換算した額を、マーベルが126億ドル、ルメンタムが51億ドル、合計で177億ドルとしている。マーベルは8〜10月期の売上高見通しの中央値を、ルメンタムは7〜9月期の実績を、それぞれ4倍した。

両社は、統合によるコスト削減効果を年10億ドル超と見込む。マーベルのダン・ダーン最高財務責任者 (CFO) は、その大半は売上原価の引き下げで生まれると説明した。マーベルは、買収完了から1年目に調整後の1株当たり利益が増えるとしている。両社は人員削減には触れていない。

買収の期限は延長すれば2028年8月1日、審査で破談ならマーベルが違約金32億ドル

買収の完了には両社の株主総会と規制当局の承認が必要になる。米国では独占禁止法の一つ、ハート・スコット・ロディノ法に基づく事前審査を受ける。米国以外で承認が必要な国や地域は合併契約の別紙に書かれているが、両社は別紙を公開していない。

両社の過去の買収のうち、マーベルのカビウムとインファイ、ルメンタムのオクラロとネオフォトニクスの4件では、いずれも中国の国家市場監督管理総局の承認が最後の関門になった。承認が出るまでに発表から145〜269日かかり、完了までは173〜273日だった。売上高に占める中国向けの比率は、マーベルが2026年1月期に36%、ルメンタムが2026年6月期に9.4%だった。ルメンタムは香港向けも17.2%あった。ルメンタムのレーザーの材料である InP も、中国が2025年2月に輸出管理の対象に加えている。

合併契約が定める買収の期限は2027年11月1日だ。規制当局の承認が出ていない場合などは、期限を3か月ずつ3回まで延ばすことができる。延長をすべて使えば発表から638日後の2028年8月1日となり、過去の4件で最も長かった273日の2倍を超える。両社が見込む2028年上半期の完了は、当初の期限より後になる。

買収の期限と、両社の過去の買収で発表から完了までにかかった日数
買収の期限と、両社の過去の買収で発表から完了までにかかった日数

合併契約は、審査を通すため、事業や資産の売却、技術のライセンス供与、第三者への供給の確約といった問題解消措置を受け入れることを両社に義務づけている。ただし、統合後の会社全体に重大な悪影響を及ぼす条件まで受け入れる義務はない。期限までに承認が得られない場合や、承認しない決定が確定した場合は、ほかの条件を満たしていればマーベルがルメンタムに32億ドルの違約金を支払う。どちらかの取締役会が買収への賛同を撤回した場合などの違約金は、マーベルが払う場合は58億ドル、ルメンタムが払う場合は29億ドルと契約で定めている。

本記事は、米証券取引委員会 (SEC) に提出された合併契約と投資家向け資料、両社が共同で開いた電話会議の記録、ルメンタムの7〜9月期決算をもとにした。買収協議が報じられた10月28日時点での両社の事業と過去の審査については、別の記事にまとめた。

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