米半導体大手のマーベル・テクノロジーが、光部品大手の米ルメンタム・ホールディングスの買収を協議していると報じられた。ルメンタムは神奈川県相模原市の工場で光通信用のレーザーを増産しており、買収が成立すればマーベルの傘下に入る。
米ブルームバーグ通信は米国時間10月28日、両社が詰めの協議に入っており、早ければ来週にも買収を発表すると報じた。ロイター通信も関係者の話として、両社が協議していると伝えた。買収額や支払い方法は明らかになっていない。両社はロイター通信の取材に、すぐにはコメントしなかった。10月29日時点で、米証券取引委員会(SEC)への買収の届け出もない。
両社の年次報告書と四半期報告書、過去4件の買収で出した届け出、エヌビディアの技術資料、日本の部品・材料メーカー4社の開示をもとに、買収の背景を探り、論点を整理した。
マーベルの売上高は8割がデータセンター向け、ルメンタムはレーザーが主力
マーベルの2026年5〜7月期の売上高は、前年同期比37%増の27億3900万ドルだった。このうちデータセンター向けが21億7150万ドルで、全体の79%を占めた。四半期報告書によると、光通信用の信号処理半導体(DSP)やカスタムAI半導体、ストレージ向けやスイッチ向けの半導体が伸びた。DSPは伝送中に乱れた信号を補正する半導体で、マーベルが2021年に買収した米インファイの主力製品だった。
ルメンタムは、レーザーなどの光部品を主力とする。2026年6月期の売上高は前期比83%増の30億1400万ドルだった。4〜6月期は10億630万ドルで、前年同期の約2.1倍に増えた。4〜6月期の内訳は、部品部門が6億4940万ドル、装置部門が3億5690万ドルだった。年次報告書によると、部品部門の増収分の78%は、レーザーチップとそれを組み込んだ部品によるものだった。
装置部門には、光信号を電気に変換せずに行き先を切り替える光回路スイッチ(OCS)も含まれる。OCSの2026年6月期の売上高は9000万ドルを超えた。ルメンタムはOCSの納入先を明かしておらず、大手クラウド事業者とするにとどめている。2026年6月期は、売上高の1割以上を占める顧客が2社あり、比率はそれぞれ26.6%と15.0%だった。この2社の社名も明かしていない。
ルメンタムは国内にレーザー2工場、生産能力の4割増はすべて相模原で
データセンターの光通信に使うレーザーの多くは、インジウムリン(InP)の基板に結晶を成長させてつくる。基板は材料メーカーがつくる円盤状の薄い板で、ウエハーとも呼ばれる。ルメンタムはこのウエハーからレーザーをつくる工場を、国内では相模原と高尾の2カ所に持つ。
ルメンタムの年次報告書によると、日本で保有する製造・研究開発拠点の床面積は約4万4000平方メートルで、自社で保有する拠点としてはタイに次ぐ広さだ。同社は2024年7月、相模原市にあるレーザー工場の土地と建物を4220万ドルで買い取った。国内では三井住友銀行とみずほ銀行から計9280万ドルを借りており、相模原の土地と建物を担保の一部に入れている。
マイケル・ハーストン最高経営責任者(CEO)は2026年2月の決算説明会で、InPレーザー工場の生産能力はすべて顧客向けに割り当て済みだと述べた。生産能力を4割増やす計画のうち、半分超は2025年10〜12月期までに終えたという。増強はすべて相模原の工場で行う。発言は、米国の金融情報サイトが公開した説明会の発言録で確認した。年次報告書には、InPについての記載はない。
ルメンタムはさらに2026年3月、米ノースカロライナ州グリーンズボロの工場を3800万ドルで取得した。同工場では6インチのInPウエハーを使い、光を途切れなく出す連続発振の高出力レーザーをつくる。2028年半ばに量産を始める予定で、同社の5カ所目のInPレーザー工場になる。買収が成立すれば、量産前のグリーンズボロと日本の2工場を含め、5カ所のInPレーザー工場がマーベルの傘下に入る。
基板の調達では、中国の輸出規制が重荷になっている。中国商務省と税関総署は2025年2月4日、InPを輸出管理の対象に加えた。ルメンタムは年次報告書で、中国が日本向けの輸出を制限したため、基板の調達全体に影響が出たと説明している。同社は2026年7月、北京で基板を生産する米AXTと、6年間にわたり供給枠を確保する契約を結んだ。前払い金は4350万ドルずつ2回に分けて支払う。AXTが中国から基板を輸出するには当局の許可が要る。AXTによると、日本と欧州向けの許可が初めて下りたのは2025年6月だった。基板からレーザーまでの供給網の全体像はエヌビディアの光部品の供給網を検証した記事で伝えた。
CPOではDSPが不要に、レーザーは外付けの光源にまとめる
データセンターでは、光通信の方式が変わり始めている。現在の主流は、スイッチなどの前面に差し込む光モジュールで、モジュールごとにレーザーとDSPを内蔵する。エヌビディアの技術資料によると、伝送速度が毎秒1.6テラビットの光モジュールは消費電力が約30ワットで、半分以上をDSPが占める。
CPO(コ・パッケージド・オプティクス)は光電融合の方式の一つで、光信号と電気信号を相互に変換する部品をスイッチ用半導体と同じパッケージに収める。スイッチ用半導体と光部品をつなぐ電気配線が数ミリまで短くなり、信号が劣化しにくくなる。エヌビディアは、これによりモジュールごとのDSPが不要になると説明している。パッケージ内の光部品はシリコンでつくるが、シリコンは発光しにくい。そこで光は外付けのInPレーザーで発生させ、光ファイバーでパッケージに送り込む。シリコンの部品は、この光にデータをのせる。
エヌビディアの外付け光源は、1台に8個のレーザーを収める。同社は光源を発熱するスイッチ本体から離して置き、温度を管理しやすくしている。レーザーは高温になると光の波長がずれ、劣化も早まるためだ。故障した場合は、光源だけを交換できる。同社は、光モジュールを使う場合に比べ、データセンター全体で使うレーザーの数が4分の1になるとしている。米ブロードコムも、交換できる外付けレーザーを使うCPO方式のスイッチを製品化した。光モジュールを使う場合に比べ、光通信に使う電力を7割減らせるという。
CPOが広がれば、DSPの出番は減るとみられる。一方、外付けの光源には連続発振のInPレーザーが要る。ルメンタムは2026年2月の決算説明会で、CPO向けの高出力レーザーで数億ドル規模の新規受注を得たと明らかにした。両社は買収の狙いを公表していない。方式ごとの違いは光電融合の方式を比べた記事で詳しく伝えた。
住友電工とJX金属はInP基板、三菱電機と古河電工はレーザーを増産
買収の行方とは別に、日本の部品・材料メーカーも、InPの基板とそれを使うレーザーの増産を急いでいる。住友電工は、InP基板の生産能力を2028年度に24年度の3倍に引き上げる計画だ。同社はCPOの外付け光源に使う高出力の連続発振レーザーを26年度末にサンプル出荷し、27年度に量産を始める。エヌビディアからはCPO開発のパートナーにも選ばれている。
JX金属は2026年6月、InP基板に4年間で最大1200億円を投じると発表した。既に公表した分と合わせた投資額は約1500億円になる。生産能力を25年度の7〜10倍に増やすとしているが、達成の時期は示していない。茨城県北茨城市の磯原工場に加え、同県ひたちなか市でも生産する。顧客には値上げを要請した。
三菱電機はデータセンター向けに、EMLと呼ぶレーザーを手がける。レーザーに、光を点滅させて信号をのせる変調器を組み込んだ部品だ。同社の調べでは、データセンター向けEMLの24年度の世界シェアは首位だった。25年度に400億円の投資を決めており、EMLの生産能力を29年度までに25年度の3倍超に引き上げる。CPOの外付け光源に使う連続発振レーザーも製品化する。古河電工は380億円を投じて岩手県北上市に新工場を建て、2028年4月に量産を始める。レーザーチップの生産能力は28年に25年度の5倍以上になる。同社は、このチップがCPOの外付け光源にも採用されるとみている。
日本の4社の開示には、ルメンタムや同業の米コヒレントへの納入を示す記述はない。ただ、買収をきっかけに光モジュール各社がレーザーの調達先を見直せば、日本企業のレーザーや基板の販売にも影響が出る可能性がある。
エヌビディア、マーベルとルメンタムを含む3社に20億ドルずつ出資
エヌビディアは2026年3月2日、ルメンタムとコヒレントの2社に、それぞれ20億ドルを出資した。ルメンタムからは、新たに発行する優先株287万6415株を引き受けた。この優先株は1株を普通株1株に転換でき、ルメンタムが買収される場合は、その直前に自動的に普通株に転換される。コヒレントからは普通株778万8161株を取得した。独占契約ではないものの、エヌビディアは両社から数十億ドル分の製品を買うと約束し、両社の今後の増産分の一部を確保する権利も得た。コヒレントも、6インチのInPウエハーによるレーザーの生産を米国と欧州で広げている。テキサス州シャーマン工場の増強では、米国の半導体補助金法(CHIPS法)に基づく5000万ドルの補助金を受けることで米商務省と暫定合意した。
エヌビディアは3月31日、マーベルにも20億ドルを出資し、最大2177万8000株の普通株に転換できる優先株を引き受けた。
マーベルのインファイ買収は上乗せ幅が約43%、破談時の違約金も定めた
買収では、買い手が対象会社の株価に上乗せした価格を払うのが通例だ。この上乗せ分を「プレミアム」という。経済産業省の「企業買収における行動指針」は、株主が会社の支配権を手放す見返りにあたるとして「支配権プレミアム(コントロールプレミアム)」と呼んでいる。マーベルとルメンタムが合意を発表すれば、プレミアムの水準、対価に占める現金と株式の割合、見込む相乗効果(シナジー)、破談になった場合の違約金が明らかになる。
マーベルが2020年10月に発表したインファイ買収では、提示額が同月27日のインファイ株の終値を約43%上回った。両社が米SECに提出した委任状説明書に記載がある。マーベルは交渉の中で、提示するプレミアムを段階的に引き上げた。対価は現金と株式の組み合わせで、マーベルは新株を約1億2800万株発行した。買収の完了後は、新会社の株式の約83%をマーベルの既存株主が、約17%をインファイの旧株主が持った。会計上の取得対価は約99億ドルだった。ルメンタムが2018年3月に発表した米オクラロの買収では、提示額が前営業日の終値を27%上回った。2021年11月に発表した米ネオフォトニクスの買収では約39%上回った。
インファイ買収の契約では、破談時の違約金を、インファイ側が払う場合は3億ドル、当局の承認が得られずにマーベル側が払う場合は4億6000万ドルと定めていた。マーベルは買収完了から18カ月以内に、年1億2500万ドルのコストを削減する目標を掲げた。
5〜7月期末時点で、マーベルの手元資金は39億3300万ドル、有利子負債は約50億ドルだった。10月22日には、銀行団との融資枠を15億ドルから30億ドルに拡大する契約を結んだ。条件を満たせば枠をさらに20億ドル増やせる。契約を結んだ時点で、この枠からの借り入れはなかった。ロイター通信によると、米調査会社バーンスタインは、ルメンタムほどの規模の会社を買うには、マーベルに追加の資金調達が必要になるとみている。
ルメンタム側にも、買収されると適用される条項がある。同社の転換社債(CB)の残高は額面で15億5430万ドルだ。社債には、買収などの際に株式への転換比率を引き上げる条項と、保有者が繰り上げ償還を請求できる条項が付いている。
買収で引き継いだ事業の扱いにも先例がある。ルメンタムはオクラロの買収後、相模原の拠点で手がけていたデータセンター向け製品の事業の一部を、中国の光モジュール大手CIG(剣橋科技)に2550万ドルで売却した。担当の従業員も同社に移った。売却は2019年4月に完了した。買収が実現すれば、マーベルがどの事業を残すかによって、ルメンタムが日本に持つ拠点の役割も変わる可能性がある。
過去4件の買収は中国の承認が最後の関門、発表から145〜269日
合意に至っても、買収の完了時期は各国の競争当局の承認に左右される。米国では、買収を届け出てから原則30日間は完了できない。マーベルとルメンタムが過去に手がけた4件の買収では、いずれも中国の国家市場監督管理総局の承認が最後になった。発表から中国の承認までにかかった日数は、マーベルのインファイ買収が145日、カビウム買収が約221日だった。ルメンタムのオクラロ買収は269日、ネオフォトニクス買収は267日だった。日本の案件でも、産業革新投資機構がJSRを買収した際は中国当局の審査に時間がかかり、株式公開買い付け(TOB)の開始は公表から約9カ月後にずれ込んだ(JSRの買収を扱った記事)。
マーベルの2026年1月期は、売上高の36%が中国向けだった。ルメンタムの2026年6月期は、中国向けが売上高の9.4%、香港向けが17.2%を占めた。いずれも出荷先の地域別の数字で、最終顧客がその地域にいるとは限らない。
日本の公正取引委員会への届け出が要るかどうかは、確認できなかった。独占禁止法は、株式を取得する会社のグループの国内売上高が200億円を超え、取得される会社とその子会社の国内売上高の合計が50億円を超える場合などに、事前の届け出を求めている。届け出が受理されてから30日間は株式を取得できない。ルメンタムの2026年6月期の日本向けの売上高は1億460万ドルだったが、公取委の基準でいう国内売上高とは数え方が異なる。
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